その2
三人の少女が円卓を囲むようにして座っていた。
その少女の顔は同じ顔であった。しかし、同じなのは顔だけだった。
一番体制を崩して、円卓に頬をついている少女は金色の瞳で背には輝く白い羽を持ち、眠たげに目をこすっている。
逆に姿勢よく座っている少女は、紅い瞳で背中には蝙蝠の羽を持ち、苛立ちを隠さず円卓を指で規則正しく叩き苛立ちをあらわしている。
そして、その間にいる少女は蒼い目を持ち余裕の笑みを浮かべている。
「さあ、始めましょう。あなた方の頭痛の種であり、私のお楽しみである『かの者達』の会議を」
蒼い目の少女が歌うように言うと同時に、何もなかった円卓に球体の輝く氷のようなものが突然浮かんだ。パチンという音と共にそこに映像が映された。柔らかそうな黒い羽を持つ悪魔とあまりにも無表情に雑魚どもを倒す天使が別れて映し出された。
「ホァ~、寝不足になっちゃったのよ。この天使の所為でね~ 沢山の所からの嫌みを言われる~ コイツノセイデ‥‥‥ フフフ~ 」
金色の瞳に輝く白い羽の少女は、眠たげな瞳に冷酷な光を宿す。その様子は、まさしく無垢で残酷な天使を体現したものだった。
「ちっ、こちらもこの悪魔のお陰でてんてこ舞いだ。そもそも、この家の輩は外道であった。気に入らない相手なら簡単に命を奪い、逆らう者にはその者が一番大事な者を残忍な方法で殺すとうを平気でしていた。全く、困った輩だ。ハハハ」
紅い瞳に蝙蝠の羽の少女は、苛立ちよりも面白いと感じる方が強くなったのか唇を弧に歪める。その様子は娯楽を求める悪魔を体現したものであった。
「まあまあ、そう言わないであげてくださいませ。とても面白い方でしたのよ、あの悪魔はね。では、採決を採りましょうか? あの悪魔を魔界に下ろし、あの天使共々遊ばせる事に賛成する者は挙手を」
その言葉にすべての少女は瞳を閉じて笑った。
「「「そんなの決まっているだろう? 」」」
こうして、二人の将来を決定する会議は終わった。
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総てを司る少女達が円卓を囲んでいる間、悪魔の男は旅をしていた。
初めての遠出をしたので、おのぼりさん丸出しだったが初めての自由だった。
男は屋敷では軟禁され、屋敷を出されてからは見つからないためにあまり動かない生活をしていたため、これほど人目を気にせずに歩けるのは久方ぶりなのだ、いや初めてかもしれない。
沢山の種族が通りを行き来している。
はーあ、初めての自由だ。ここにはもう家の者はいない。あれから家が慌ただしい事になったらしい。はっきりしないのは、又聞きだからだ。まあ、家の事は僕にはもう関係なくなったらしいので興味は無い。この話は使いが来たのだがあまり信用性が無いので『らしい』をつけた。
なんかなー、逃げなくても良いなんて変な気分だ。殺気が無いのは気持ち悪いな? 毎日、運動がてらに刺客を伸していたが懐かしいな~ おっと、いや~ 掏摸はいるのか。しかし、何だ? 女から刺さる視線はあまり気持ちがよいものではない。この視線は初めてでよくわからない
「あの方は、どなただろう? 身のこなしが軽やかだし、顔も良いわ~ 」
女達は噂する。
「身なりも良い。鴨か? いや無理か‥‥‥ 」
男達はうろんげに見やる。
通り過ぎる者達が振り返り、また女達は扇情的な眼差しを向ける。
しかし、愛情を知らない男は気がつかない。
そして、愛は憎悪を呼び、嫉妬を煽る。
暗い路地から輝く瞳は確かに憎悪を感じさせる光を放っていた。
悪魔の男はそれに気がつかない。殺意は気がつくというのに………
「フワァ、眠たくなってきた。宿を探さないと。まあまあ、お金はあるし高いところでも良いけど風呂があればいいな」
悪魔の男は、暗闇に紛れるように気配を消す。それはいつもの癖で無意識で行っていた行為。
しかし、それはただ者では無い事をそれが分かる者達に知らしめていた。
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総てを司る少女達が円卓を囲んでいる間、天使はまた歩いていた。
当てもなく、たださまよう。分かっているのだ行くべき場所は決まっていてやらなくてはいけないことも分かる。
それは、気がつかないまま受け取りいつの間にか従おうとしていた命令じみた呪い。
あの日から、私の元に送られてくる命令はまるで自我を侵蝕し、操り人形に成り下がるように囁く。
待望の目的が見つかったというのに、思った以上に落胆している
すべてに牙を剥かれ、笑顔を向けてくれる相手はいない。
昔はあんなに温かい場所にいた‥‥‥
昔?
ノイズが走り頭痛がひどくなる。しかし、忘れるなと本能がいう。
顔を上げた天使は何かを決意したように、瞳を輝かせていた。
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「ほらほら、愉しい舞踏会の始まりなのですよ。
二人は愛を知らない。しかし、それ以外にも共通点が多い。
天使と悪魔という正反対の存在だというのに、いえ、だからこそなのですかね? 」
蒼い目の少女は不思議そうに首を傾げる。
「面白いならばそれで良い。しかし、つまらなければ、分かっているな。」
悪魔の体現である少女は、鋭いまなざしを蒼い目の少女に向ける。
「ほほほ、天使の端くれならば命令に従えば良かったのに~
馬鹿な子ですね~ しかし、そういう子の方が可愛いですわ~ 」
天使の体現である少女は、楽しそうに呟く。
「「「さあ、すべてを見届けて差し上げます。楽しく舞って下さいね。」」」
そして、三人の少女は二人を見て微笑んだ