気付かなかった違和感
勢いだけで書き上げたので設定はスカスカ(笑)
気軽に読む程度に留めてください。
「あんたは彼に捨てられる運命なんだからさっさと退場してくれない?」
すれ違いざまに私の耳元で囁かれた言葉。
囁いたのは一部の男子に人気の季節外れの転校生。
囁いた後、クスリと笑って立ち去った彼女の姿が廊下の角に消えた瞬間、私はその場に倒れた。
次に目が覚めた時。
私から『あるモノ』が消えていた。
最初は気づかなかった。
周りも気づかなかった。
だけど、皆感じていた『違和感』
私は……
***
【梨花視点】
「梨花、数学の教科書貸して」
教室の入口から顔をひょっこり覗かせながら私に声を掛けたのは幼馴染の当真実。
学年一の秀才にして、スポーツマン。
ついでに容姿も整っているので女生徒の人気は高い。
「実、さっき国語辞典も貸したわよね?」
ため息をつきながらも数学の教科書を渡す。
「あ、辞書、教室に忘れた……」
「うちのクラスは今日は必要ないからいいけど……最近忘れ物多くない?」
「……えっと」
「なに?」
「昨日は……」
「どうせ、徹夜でネットゲームでもしていたんじゃない?私が寝る時まだ部屋に電気ついていたし」
「ハイ、ソウデス」
「家ではほとんどゲーム三昧なのに学年主席の座に居座っていられるあんたの脳みそどうなっているの?」
こっちはどんなに勉強しても50番前後なのに……
「うーん、昔から教科書読めば覚えられていたからな~」
ポリポリと頭を掻く実に再びため息が零れた。
「その能力、私もほしいわ……」
私の呟きに周りの席の子達もうんうんと頷いている。
キーンコーン カーンコーン
無駄話をしている間に予鈴が響いた。
「おっと、遅れたら課題増やされる!じゃあな、梨花!これ借りていく」
「はいはい、うちのクラスはもう終わったから返すのは急がなくていいわよ」
「サンキュー!」
満面の笑みを浮かべて自分のクラスに戻る実を見送っているとあちこちから黄色い声が上がっていた。
うん、毎度おなじみの事なので慣れた。
小学校……いや、幼稚園時代からの腐れ縁だからね。
「相変わらず仲がいいわね」
後ろの席の美夜がニヤニヤしながら声を掛けてきた。
「腐れ縁よ腐れ縁」
「でも好きなんでしょ?」
「はぁ!?私が実を!?」
美夜の言葉に思わず大声を出してしまった。
クラスメートが一斉にこちらに振り向いた。
「え?だって誰もが認める『公認カップル』じゃん」
「ただの隣に住む幼馴染なだけだよ」
聞き耳を立てているであろうクラスメートたちにも聞こえる様に告げるとクラス内が騒然となった。
「ち、ちょっとどうしたの?梨花!」
慌てる美夜とクラスメートたち。
幸い、次の授業が自習だったため教師に怒られることはない。(たぶん)
「そもそも『公認カップル』ってなに?」
首を傾げる私に美夜とクラスメートたちが絶叫した。
その叫びは同じフロアの教室はおろか、校舎全体に響いたらしい。
「一体何があった!!」
バタバタと足音を立てて教室に駆けてきたのは担任だった。
まだ年若く、色々と相談しやすく、そこそこ顔立ちもいいので生徒に人気が高い。
「せ、先生~!梨花の様子がおかしいです」
「り……鳴無が?」
「はい!去年の文化祭の時に選ばれた『公認カップル』の事、忘れちゃっているんです」
美夜の言葉にクラスメートたちはうんうんと頷いている。
「私と実はただの幼馴染です。それ以上でもそれ以下でもありません!」
「だ~か~ら~!あんたと当真君はこの学校の生徒・教師の9割が認めた『公認カップル』なんだって!」
私の肩を両手でつかんで揺さぶる美夜。
力強く揺さぶるから頭がクラクラするからやめてほしい……
「ねえ、最近、梨花と当真君が一緒にいる所ってあまり見ないよね?前はこれでもかー!ってくらい見せつけてくれていたのに……」
クラスメートの素朴な疑問。
「え?幼馴染だからって常に一緒に行動しないでしょ?」
という私の答えに
「いーや!あんたらは見ているこっちが恥ずかしいくらいに一緒にいた!それこそ『バカップル』という言葉がぴったりなほどに!」
と即答された。
「うーん、記憶にない」
記憶を掘り起こすが発掘できず。
「そういえば、鳴無。以前、廊下で倒れていた事があったが、その時頭打たなかったか?」
心配顔の担任が顔を覗き込みつつ優しく頭を撫でる。
「あの後、先生に病院に強制的に連れて行かれ精密検査を受けましたが異常がなかった事は先生もご存じのはずです」
「……まあ確かにな」
私の頭から手をどけた(正確には美夜によってどけさせられた)先生。
「まあ、これは鳴無と当真の問題だろう。これ以上は詮索しないでおけ」
担任はそれだけを言うと職員室に戻っていった。
だが、教室内はざわついたままだった。
***
【実視点】
「おーい!実!」
幼馴染の伊織が勢いよく駆けてくるのを寸でのところで交わす。
伊織は勢い余って壁に激突するもすぐに復活した。
「なあなあ、実!」
やけに嬉しそうに声を掛けてくる伊織に嫌な予感がする。
「鳴無と別れたって本当か!?」
「はぁぁぁ!?」
伊織の言葉に思わず大声を出してしまった。
廊下に出ていた他の生徒達は何事かとこちらに視線を送ってくる。
「俺と梨花が別れたって……いったい誰が……」
「え?代永が言いふらしていたけど?」
「代永?誰だそれ」
「季節外れの転校生」
「……しらん」
「まあ、俺もさっき知ったんだけどな。そいつが拡散しているぜ」
「なんで、そいつが俺と梨花の事を話しているんだよ」
「さっきの授業、鳴無のクラスは自習だったらしいんだけど……」
伊織の説明に俺は鈍器で頭を殴られたような気がした。
「チョットマテ。梨花が『ただの幼馴染』と言ったのか?」
「それどころか『公認カップル』であることを忘れている」
「なんだって!?」
俺は思わずその場に蹲ってしまった。
「く、苦労してやっと……やっと手に入ったと……」
「ご愁傷様」
ポンポンと俺の頭を叩く伊織の嬉しそうな声がムカつく。
「お前だって俺がどれだけ苦労して梨花の『彼氏』の座を得たか知っているだろうか!」
下から睨みつけると伊織は真顔になり遠くを見つめている。
「伊織?」
「あれが代永だ」
くいっと顎で示す先には可愛らしい少女がいる。
少女は複数の男子生徒に囲まれながら笑っている。
伊織は俺を廊下の柱の影に隠すと彼女に声を掛けた。
「えっと君が転校生の代永さん?」
声を掛けられた少女はきょとんとした表情を浮かべた後、にっこりと笑顔を浮かべた。
「ええ、代永愛華といいます」
「俺は美坂伊織。君に聞きたいんだけど……」
言葉をいったん切って普段より低い声を出す伊織。
「君はなぜ他人の破局(不幸)を言いふらしているの?」
「え?」
驚愕の表情を浮かべる代永に伊織は笑顔を浮かべる。
「そんなに他人の不幸が嬉しいんだ」
「え、そ、そんな……私は……」
オロオロし始める代永は先ほどまで一緒にいた男子生徒達に視線を送るが誰一人としてフォローする者はいない。
「ねえ、君、転校してくる前から当真実のこと狙っていたんだってね」
「!?」
「知っているよ。君が実に会うためだけに叔父さんである理事長に無理を言って転校してきたことは……」
ニヤリとした笑みを浮かべる伊織に周囲の人たちは一歩後退している。
「鳴無に何を言った?最近の鳴無の行動はおかしい」
伊織の言葉に周囲の人たちも頷いている。
「毎朝一緒に登校していた鳴無と実がバラバラに登校するようになった」
いや、それは俺が朝練のために早く出ていたからで……
さすがに朝5時起きは可哀そうだろ?
「休み時間ごとに周りが『ごちそうさま』といいたくなるほどいちゃついていたのにそれがなくなった」
え?別に普通に会いに行って会話していただけだけど……
前日の夜にプレイしていたゲームの話題とか、親たちの話とか、夕飯をどうするかとか……
「昼休みも毎日、鳴無お手製の弁当をだらしない顔をしながら周りに見せつける様に食べていた実がここ最近は購買か学食を利用している」
そういえば、ここ最近、梨花の弁当食べてない。
俺好みの味付けで早く嫁に欲しいとぼやいたら顔を真っ赤にさせていたこともあったな~
「放課後も、実の部活が終わるのを図書室で待っていた彼女が逃げる様に帰るようになった」
俺の部活が終わるの待っていたら暗くなって危険だからと言ったら『実がいるのに?』と返されて返答に困ったこともあったな~
俺も少しでも梨花と一緒に居たいから結局は梨花が図書室で時間をつぶすのを許していたっけ。
そういえば、最近は何も言わずに先に帰っているな。
「すべて、君が転校してきた日の放課後に君と彼女が話し、彼女が倒れた後からおかしくなったんだ」
伊織の言葉にぎくりとした。
梨花が倒れた?
いつ?
転校生が転入してきた日?
「……実君は彼女に纏わりつかれていたんでしょ?」
「は?」
「だって、私は知っているんだもん!彼女が実君を無理やり付き合わせていることを!」
代永の言葉に誰もが首をひねった。
「はぁ?何言っているの?鳴無が実に付きまとっていたんじゃなくて、実が鳴無を必要に追いかけていたんだけど?」
呆れたように言う伊織に代永は大きな瞳をさらに見開いていた。
「……え?」
「俺は幼稚園の頃からあいつらのこと知っている……大恋愛をして駆け落ちまでした両親の離婚が原因で恋愛に無関心だった鳴無に、実が何年もかけて自分を好きなってもらう様にアプローチしていたことを。それこそ、周りがドン引きするほどにね。実はあの容姿だから当然女の子にモテたし、鳴無も陰湿ないじめを何度も受けた。だけど、実の一途な想いに気付いた子達は皆、実の協力者兼鳴無の友人となった」
おーい、俺の恥ずかしい過去を勝手にばらすな~!
その場に出ようとしたが伊織に手で制されてしまった。
昔から伊織には俺も梨花も逆らえない。
どことなく逆らってはいけない雰囲気を持っているんだよあいつは!
「鳴無は実の想いに半信半疑だった。両親たちの泥沼を幼い頃から間近で見ていたからね。自分は本当に愛されているのか自信を持てていなかった。外堀を埋めて、高い塀を築いて、逃げられないようしてもそれをよじ登って逃げようとするほどにね」
クスリと笑う伊織。
「そんな鳴無がやっと実の想いに応えたのが去年の文化祭。実が他の女性に告白されている現場を偶然見て自分の想いに気付いたらしいね。まあ、昔から無意識に実を頼っていた所はあったけど」
え?そうだったのか?
にやけそうになる顔を片手で押さえる。
だが次の瞬間、代永の言葉で廊下一帯にブリザードが吹雪いた。
「ふっ、過去なんてどうでもいいわ。実君は私とこれから恋愛するんだから」
可愛らし顔を歪めながら他者を見下すような態度を取る代永。
「この世界はね、私の為の世界なの。私が欲しいと言えば何でも手に入る世界なの。だから、鳴無梨花に退場してもらっただけよ」
しばしの沈黙の後、伊織の笑い声が廊下に響いた。
「あっはははは!この世界が君の世界?君、漫画や小説の読み過ぎじゃない?」
「な!?」
「俺達にも感情があるんだ。それを感情の無い人形のように言わないでもらいたいね」
キッと睨みつける伊織に代永も負けじと睨み返している。
「じゃあさあ、君は実に好かれると……実が梨花を捨ててまで君を取るというんだね」
「ええそうよ」
自信満々に答える代永に伊織は笑顔で俺の方を振り向いた。
「だってよ。お前、梨花を捨ててこの女を選ぶのか?」
「え?」
俺が柱の陰から姿を現すと代永は目に見えて狼狽していた。
だが、そんなことは関係ない。
「なあ、実。お前、梨花を捨てるのか?」
「バカなこと言うな。俺が梨花を捨てるわけないだろう。どれだけ苦労して手に入れたと思っているんだよ」
「だよな~」
「それから梨花の名前を呼ぶな」
「はいはい。本当に独占力の塊だね~。俺も幼馴染で昔は名前で呼んでいたのに……」
にやりと笑う伊織。
「でも彼女は実君とのことは『ただの幼馴染』って」
「なあ、さっきから気になっていたんだけど、初対面の相手に名前呼びを許すほど俺は心広くないんだよね」
「!?」
俺が一歩前に出ると代永は一歩後退した。
「あんた、梨花に何を言った?答え次第じゃ……」
一歩一歩近づくたびに後退していく代永。
ついには壁にぶち当たり、あたりをキョロキョロと見回している。
「実?何しているの?」
ピンと張りつめていた空気が一気に緩和した。
***
【梨花視点】
廊下の一角に人だかりが出来ていた。
美夜と「なんだろうね~」と話していたら美坂君と実の声が聞こえた。
「なあ、実。お前、梨花を捨てるのか?」
「バカなこと言うな。俺が梨花を捨てるわけないだろう。どれだけ苦労して手に入れたと思っているんだよ」
「だよな~」
ん?私の話?
捨てるってどういう意味?
苦労して手に入れたって?
頭上に『?』を浮かべる私となぜかニヤリと笑っている美夜。
徐々に一人の女生徒を壁際に追い詰めている実。
「実?何しているの?」
思わず声に出してしまっていたようだ。
実は驚いたように私の方を振り返った。
追い詰められていた女生徒も私の方を見た。
追い詰められていた女生徒を見た瞬間
『あんたは彼に捨てられる運命なんだからさっさと退場してくれない?』
という言葉が脳内を駆け巡った。
「い、いやぁぁぁぁぁ~!……捨てられたくない。もう捨てられたくない!!!!」
その場に頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「梨花!」
実の慌てたような声と足音が近づいてくる。
しゃがみ込んでいる私の隣に膝をついて優しく抱きしめてくれた実。
「ねえ、私は実に捨てられるの?私はいらない人間なの?」
縋り付く様に実の腕を掴む。
「必要だ。俺には梨花がずっと必要なんだ。死んでも離したくない」
ぎゅっと抱きしめてくる実。
「でも、私を捨ててあの人……」
「俺には梨花だけなんだよ」
「でも……」
実の肩越しにある女生徒を見ると顔が般若のようだった。
近くにいた美坂君達が彼女を押えているようだ。
「梨花、俺の事信じられない?ずっと梨花に『好きだ』って言い続けてきた俺の気持ちを疑うの?」
声のトーンを落とした実の言葉に私はただ首を横に振るだけ。
「梨花、俺の言葉を信じて。梨花の両親のように梨花を捨てたりしない。ずっとずっと傍に居るから」
「ほんと?」
「ああ、俺は梨花を絶対に裏切らないから。ここにいるみんなが証人だ」
ぐるりと周囲を見回す実にその場にいた人たちが頷いている。
それを見た瞬間、私は意識を失った。
***
【伊織視点】
意識を失った梨花を抱きかかえて実は保健室に向かった。
この場に残ったのは俺と代永と梨花の親友の宮姫。と野次馬連中。
この際、野次馬連中は無視しよう。
「あんた、当真君の地雷を思いっきり踏んだね」
「え?」
「知らなければいいよ。そのまま地雷を踏み続けて自爆するだけだしね」
代永に冷ややかな視線を向ける宮姫。
「あんた、夢と現実の区別がついていないらしいね」
にやりと口元上げる。
美人なだけに絵になる。
しかし、見る者が見れば『絶対零度の微笑み』と称され怖れられる笑みだ。
がくがくと震えだす代永。
彼女が侍らせていた男子生徒達も気付いたら遠巻きにこちらを窺っているが彼女をフォローする気はないらしい。
「別にね、あんたが何をしようがあんたの勝手だよ。だけどね……」
ダンと拳を壁に叩きつける宮姫。
「あんたがやっているのは自己満足なゲームでしかないんだよ」
声を落し、普段の声の何倍も低い声を出す宮姫。
「あんた、転校してきたその日にクラスメートに聞いていたよな。当真君と梨花の関係を」
「あ?なに?こいつ、あいつらの関係を知っていて梨花に接触したの?」
「ええ、防犯カメラ(音声付)にしっかり記録されているからあとで見せてもらうといいよ」
うちの学校、結構金持ちも多いから防犯とイジメ防止の意味を込めてあちこちに防犯(監視)カメラがあったっけ。
映像だけじゃなくて音声も録画されているのかよ……それは知らなかった。
あ、何時ごろのどこどこのカメラの映像が見たいと申請さえ出せば学校関係者なら誰でも見れるシステムになっている。
防犯(監視)カメラのシステムは数年前、卒業生がかわいい後輩(卒業生の妹の事だともっぱらの噂)のためにと無料で設置してからずっと使っている物らしい。(定期メンテも無料でしてくれているらしい)
更衣室・トイレ以外にはほぼ全室・全廊下に設置されていたりする。
一ミリの死角もないとか……
入学した当時は監視されているイメージがあったがいつのまにか慣れているから不思議だよな~
宮姫は梨花が倒れた時の事が気になったとかで担任と連名で申請を出して映像を見たらしい。
あれ?そういえば梨花の担任も宮姫……まさかな。
「あんた、梨花に『あんたは彼に捨てられる運命なんだからさっさと退場してくれない?』って言っていたわよね」
「ちょっと待て、梨花にそんなこと言ったのか!?」
「ええ、一言一句間違いなく」
大きく頷く宮姫。
うわ~、地雷踏みまくり。
もしその言葉を実が聞いていたら……
ブルリと寒気が全身を駆け巡った時
「へ~、俺の梨花にそんなこと言ったんだ」
どす黒いオーラを背景に実が姿を現した。
「あら、梨花は?」
「保健室の主に預けてきた」
「……なら安心ね」
にこやかな笑みを浮かべながら言葉を交わす実と宮姫。
だが、その背景は二人とも真っ黒オーラ。
オレ、ニゲタイデス……
「俺は梨花に一目会ったその時から梨花を自分のモノにすると決めていた」
ああ、そういえば幼稚園で実から梨花を紹介された時『俺の嫁になる梨花だ!』とか言っていたよな。
あん時から実の計画は始まっていたのか……
「両親に捨てられ、親戚にも見捨てられた梨花は『捨てられる』ことに恐怖を抱いている。俺をそれを逆手にとって梨花を『洗脳』していったんだ。俺以外を頼らないようにね」
そうだね。
お前は梨花が自分以外の『異性』に近づくことを悉く邪魔していたもんな。
梨花の友人関係もばっちり把握して、梨花を傷つけようとする者には容赦なかった……
「そもそも、俺はあんたの事なんか一ミリも知らないし知りたくもない。というか、俺の視界に入ってもただの風景でしかないんだよ」
にやりと笑みを浮かべる実に俺はため息しか出ない。
ああ、もうこうなった実を止められる人はない。
過去、何人この言葉に泣き崩れた事か……
代永を見るとガクガクと震え、瞳に涙を浮かべている。
ブツブツと何かつぶやいているがよく聞き取れない。
「シナリオ?ルート?はっ!ゲームと現実をごちゃまぜにするな!俺達は俺達の意思で生きているんだからな!」
実はそう言い残して保健室に向かった。
梨花と自分の鞄をしっかり抱えて。
「あらあら、久しぶりに当真君の切れるとこ見ちゃったわ」
「俺も久しぶりだわ。最後に切れたのって中三の時か?」
「そうそう、恋愛脳のバカ連中が周囲の忠告を無視して梨花を苛めたのよね~。あの時の当真君の怒りは今思い出しても背筋が凍るわ……今日のはまだ温かったわね」
たしかに温い。
実がマジ切れした時のあの、血が流れるんじゃないかと思うほどの恐怖は二度と味わいたくはない。
「それはそうと……梨花の記憶が戻ってよかったわ」
「あ、やっぱり失っていたんだ」
「そう、当真君との関係だけきれいさっぱり、『ただの幼馴染』だと自己暗示を掛けていたみたいね」
宮姫の言葉に周囲から安堵のため息が零れてきた。
「当真君と梨花のイチャラブを見ないと落ち着かなかったからこれで元に戻るかしら」
「ふっ、俺なんて幼稚園の頃からベタベタしていた二人を見て来たからな。違和感ありまくりでどうしようかと思っていたんだよな~」
チラリと代永を見れば廊下に座り込んでいた。
俺は彼女の前にしゃがみ込む。
「よかったな。存在無視だけで済んで」
「え?」
「今日のは温いって言っただろ?実はな、梨花の事になると後先考えないんだよ。犯罪ギリギリの手段で梨花を傷つけた者に報復するんだよ。中学の時の奴らは……いや、これは知らない方がいいな」
「あら、教えてあげたら?当真君を怒らせるとその後の人生は恐怖と隣り合わせで精神が崩壊するまでのカウントダウンを常に数えることになるって……」
クスリと笑う宮姫。
俺は勢いよく立ち上がる。
「まあ、あんたは当真実と鳴無梨花の関係を壊そうとした人物としてこの学校の生徒に認識された。この先、平穏無事に学校生活が送れるといいな」
俺はそれだけ言い残して宮姫と共に保健室に向かった。
その後の代永の事は知らない。
野次馬連中が何とかしてくれるだろう。
保健室で俺と宮姫が見たのは……
梨花を背後から抱きしめている実をハリセンで叩いている保険医(実の母方の従姉)の鬼のような形相だった。
俺と宮姫はそっと保健室のドアを閉め、頷き合うとそのまま下校したのだった。
だから、俺達は知らない。
幼い頃から梨花をこっそりと溺愛している保険医と実のくだらない戦いは……
***
【宮姫視点】
梨花と当真君の破局騒動は数日の内に終息した。
騒動の原因となった代永愛華はこの学校での居場所を失い元の学校に転校していった。
(よく元の学校は受け入れたな……こっちの騒動は理事長経由で伝わっているはずなのに……)
この学校はちょっと変わっている。
『公認カップル』という制度がある。
まあ、簡単にいえば、生徒・教師のほとんどが「この二人の間には付け入る隙がない。横恋慕するだけ無駄」と思われるカップルに与えられる称号だ。
まあ滅多には与えられない称号だが、何故かこの学校では数年にひと組『公認カップル』が誕生するのである。
この称号を与えられたカップルは別れることがないとかいうジンクスがあり、何組ものカップルが『公認カップル委員会』(マジであるんだよ。現役生徒・教師・卒業生で成り立っている他人の恋愛事情を観察している委員会が!)に【申請】を出すが、条件をクリアできずに破局するパターンがあるらしい。
梨花と当真君は本人たちではなく私たち周囲の人間が面白半分で【申請】を出したら、過去最短で認められたカップルらしい。
条件内容は公には知られていないが100以上のチェック項目があるとかないとか……
まあ、何が言いたいかと言えば、わが校に『公認カップル』のイチャツキが戻ってきたというだけの事である。
『公認カップル』のイチャツキを一日一回は見ないと落ち着かないんだよね。
私もさっさと彼氏を探そうかな~
最初思いついたのは『ヤンデレ』の話書いてみたいけど……でした。
実が若干ヤンデレぽく見えていればいいのですが……σ(^_^;)
ヤンデレは難しいです(`・ω・´)キリ
※2015/11/1ご指摘いただいた箇所を修正