ある男の旅行記・5
ドンッと音を立てて博麗が炎のすぐ左隣を駆け抜ける、そして一気に距離を詰める。それを見抜いたように、ヘルノは右に蹴りをかます。軽く右にいなし、博麗は右肘を腹に入れた。が、左手で制される。その勢いのまま首を狙ってお祓い棒を振るも、炎により防がれる。二、三歩博麗は後ろに下がり間合いを取る。レイムは珍しそうに楽しそうに眺めていた。博麗が顔に向かって鋭い拳を繰り出し、受け流される。ヘルノが膝を、空いた脇に入れようとするが払われる。
「降参。」
唐突な白旗宣言に唖然としてしまった。
「これ、自分でやっててアレだけど、いつ終わるかわからないじゃない。」
ヘルノも拍子抜けした顔をしていた。
「めんどくさいからやめたやめた。」
あぁ、とヘルノが声を漏らした。
「少し、白熱しすぎたみたいだね。」
辺りを見回しながら、ヘルノはため息をついた。
「こんなに集まるまで気づかないなんて。」
気づけば周りから荒い息遣いが聞こえる。まだここに来て日の浅い俺でもわかる、この息遣いは人間の物じゃない。一体、人外が何人、いや何体いるっていうんだ。至る所、四方八方から聞こえてくる。博麗の横側の草むらから何か大きい獣の様なモノが飛び出してきた。
危ないっ、声に出なかった。拳一つで潰されたモノを見て、博麗の強さを改めて感じて、その言葉を俺は飲み込んだ。
「斗真、私達の隣まで来てくれないかしら。」
言われなくても行くっつーの。改めて周りを見渡すと息遣いが聞こえる場所から黄色く淀んだ目がこちらを見ているのがわかる。破裂したっておかしくないくらい心臓が脈を打っている。膝が震えないのがおかしいくらいだ。
グギャァァァァア
焼け焦げた肉の匂いが鼻をつき、思わず膝をついた。
「ぅぅ、おぇえぇぇえ…」
「あら、ごめんよ。こういうのが苦手な人間は久しぶりなもんでね。」
「ちょっとは考えて行動してくれ。」
頭がカンガン鳴り響いている、意識が安定しない。博麗とヘルノの呑気な会話が遠くから聞こえる気がする。俺へ飛びかかっている獣が俺の目の前に。
え、あ、俺、死んだ、かも。
獣はその恐ろしい形相のままガラスのように空中で固まり、地面に落ちて割れた。チルノが俺の側まで来て背中をさすってくれている。
「だいじょーぶか?」
チルノに守られながら近くの木まで這った。木に寄りかかり力を抜くとようやく返事が出る。
「ありがとう。」
血の匂いが充満している。もう胃の中に何も入っていない。まぶたが重くなり、されるがままに目を閉じる。周りの音が遠のいていく気がして、それがなぜか心地よかった。




