ある男の旅行記・2
「はい、どうぞ、これ粗茶ですけど。あと、これはお煎餅と蜜柑ね。」
一応もてなされているようだ。レイムが蜜柑を巫女に渡した。巫女は渡された蜜柑をひとしきり揉むと皮を剥き始めている。
「博麗想夢よ。」
急に喋られて何を言われたのか理解できなかった。
「私の名前。想像のそうに、ゆめで想夢、博麗想夢。人里の人からは博麗の巫女、と呼ばれているわ。」
自己紹介か、こっちはまだ常識があるようだ。人里、ちゃんとした集落はあるのか。その間ずっと八雲は黙っていた。レイムは剥いてもらった蜜柑を小さい指で一つ一つ口に運ぶ。甘いと笑顔。酸っぱいと口をすぼめてしかめっ面。とても可愛く素直で子供らしいその姿。こいつら、博麗たちを警戒する必要はないのかもしれない。
「俺の名前は斗真だ。」
「そう。じゃあ本題ね、斗真。今、教えられるのはあなたは導かれてここにいる。現段階ではここまで。」
博麗は様子をうかがっている。
…なるほど。
「交換条件ってことか。」
博麗の顔が笑顔になる。
「話が早くて助かるわ。」
内容によっては早く終わりそうだ。
「この子、レイムを連れて旅をしてほしいの。」
「旅か。でもどこに。」
「この子の行こうとする場所へ。」
つまり、レイムが行こうとする場所に俺もついていけ。そういうことが言いたいのか。
「その報酬が情報、ってことでいいのか。」
「それでいいのよね、紫。」
「えぇ、構わないわ。」
レイムの方を見るとレイムと目が合った。
「でも俺が行かなくてもいいんじゃないか。」
率直な疑問だった。
「いえ、あなたには行く先々で私達に見えない何かが見えるはずよ。」
「何かが見える、一体どういう事だ。」
「わからないわ。まず何が起こるのかもわからない。だけど私達が行ってもレイム自身の目的は達成されていないみたいだった。」
「俺が行くと何か変わるのか。」
もしこの後わからないなんて答えられたら、俺は理性を保てないかもしれない。
「それは保証するわ。あなたは私達に呼ばれた、つまり私達の求めるものがあなたにはあるということ。」
呼ばれたという単語に疑問が浮かぶ。
「じゃあなんだ、俺はここに来るべくして来たって事か。」
「まぁ、半分正解で半分不正解ってところよ。」
「じゃあ…」
そこまで言ったところで俺の声は遮られる。
「これ以上はダメ。聞きたいのなら旅に出てちょうだい。」
仕方なくレイムを見る。未だに俺をじっと見ていたようだ。
「…行こうか、レイム。」
レイムの澄んだ瞳を見つめて言う。
なんとなく頷いた気がした。




