ある男の旅行記・1
辺りを見回しても木以外は何も見えない。少し歩いているとすぐに石の階段に出てこれた。階段の上の方に鳥居を見つける。人がいればいいのだが。境内まで上がっていくと、4歳か5歳くらいだろうか、巫女の衣装をした少女がお賽銭箱の横に座っている。少女もこちらに気がついたのだろう。階段を不安な足取りで一段一段降りてくる。
「ここがどこかわかるかい。」
少女は何も喋らなかった。できる限り怖がらせないように話しかけたつもりなのだが、怖がらせてしまったのだろうか。
「ここは日本、誰も知らないような山の奥地よ。」
神社の裏手の方から若く金髪の女性が落ち着いた足取りで近寄ってくる。少女は女性の足元に寄っていく。
「この子はレイムよ。私は八雲紫。八つの雲に紫、で八雲紫。」
ゆったりとした落ち着いた口調だった。
「ここは一体どこなんだ。」
「それはわからない。あなたの行動次第よ。」
意味がわからない。行動次第ってことは俺が何するかによってここが変わるってことなのか。
「とにかく、帰るためにはどうすればいい。」
八雲は少しだけ間をおいた。
「…帰れないわ。」
「お前は頭がおかしいのか。」
だんだんと詐欺ではないのかと思える。ここに来れたのならその逆もできるはず。一方通行などあり得ない。第一、場所に名前がないなんて怪しいほかない。
「俺は二人の子供を待たせてるんだ。帰らせてもらう。」
八雲が何かを言おうとした瞬間、
「紫、ちょっと強引すぎるわよ。」
神社の中から声がした。
「でもね、そこの人、紫が言ってることは全て事実なの。」
奥の和室に立つ、レイムと同じ衣装をした女性。特徴的なのは露わになっている腋である。
「立ち話は疲れるわ。こっちにいらっしゃい。」
八雲は黙って巫女の方へと歩き、レイムもどことなく楽しそうに走っていく。ここはお言葉に甘えたほうがいいようだ。




