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ある男の現在

「お前はもういないんだ。行方不明なんだよ。俺に二人の子供を残して勝手に消えて。どれだけ大変だったと思ってるんだ。」

一度口に出してしまうと止まらない。自分自身が、そんなことないのにと思っていても。

「かと思ったら今度は急に現れて。謝り一つない。」

こんなことよりももっと言わなければならないがあるのに。

「お前が現れるわけないってのは知ってるんだ。」

失った時の虚しさや寂しさ、最後までたくさんのことを伝えきれなかった悔しさが怒りとなって溢れ出てきた。

「夢なら覚めてくれ。もう思い出させないでくれ。」

今まで我慢していたものが口から流れ出る。

「お前を失った事やその時の気持ちを。愛してた事とその時の気持ちを。頼むから思い出させないでくれ。」

彼女は母以外に俺に優しくしてくれた唯一の女性だった。俺は常に誰かを不運にさせる、誰かを幸せにするなんて到底無理だ。彼女はそれでもいいと言ってくれた。

声が震えてうまく喋れない。うまく伝えられないのが歯がゆくてたまらない。

「愛してるも…ごめんも伝えれずまま…勝手に死ぬなよ…うぅ…俺が、俺が悪いのに…何でお前まで死んでしまうんだよ。」

小さい頃、川に落ちた。それを助けるために父は死んだ。母は俺を学校に行かせるために働いて、働いて働いて、働き過ぎて、過労でぶっ倒れたまま…。

色んな事が蘇った。思い出したくないことが頭の中を巡っていく。

「ごめんなさい、あなたと息子たちを置いていってしまって。私もあなたのことずっとずっと愛してるわ。もちろん息子たちも。」

彼女も泣いていた。

「私はあなたの側にいる、ずっと。嘘じゃないわ。約束よ。」

俺は彼女の言葉を聞くだけで精一杯だった。






気がつくと周りを木に囲まれていた。おそらくだが森だろう。

「ツイてねぇなぁ…。」

声は静かな森に響いた。やはり、夢だったのだ。夢で思い出したくないことと忘れてはいけないことは表裏一体ということを知った。ここはどこなのだろうか。夢でないことはなんとなく感じていたが逆に現実とも言えない何かも感じていた。

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