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徹夜汁  作者: 塔野とぢる
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徹夜汁 [4]

 睡眠を摂らない脳には毒素が溜まる。


 溜まった毒素をそのままにすれば機能停止、すなわち死に至る。毒素というのは村人の考えに基づいた言い換えだが、ふつう、人は眠りを摂らなければいつか死ぬし、慣れた人でも数日でまともに活動できなくなる。


 この村の人間は、本来、睡眠によって行う人体の機能保全を「脳から汁を出す」ことにより代替している。徹夜汁は脳の膿。毎朝絞り出す、生活で出汁を取った高密度の液体。だから住居の前には寸胴があるし、その様子をよそ者に見られることを酷く嫌う。彼らは産まれてから死ぬまで、一度も眠らない。彼らにとっての死は、文字通り「眠り」だ。


「――ふつうは飲むものじゃないし、わたしも飲んだことがない」


 岬さんは無責任にもそう述べた。


「でも、徹夜汁は、この村のすべてを回している『燃料』なの」


 だから廃墟に電力を供給できた。だから、この村は外界から断絶された環境で静かに呼吸を続けている。一方で、このご時世、国家による管理も被っており、時折、村には観察者が来訪する。老婆が僕との問答で最初から「敵」と断定しなかったのは、そのためだ。管理を被る代わりに、彼らは生活を与えられている。食料や生活用品と交換された徹夜汁の行方は、村人の知るところではない。


 汁を出しながら、脳は激しく摩耗していく。この村の老人はあっという間にボケる。不要な膿と一緒に、脳髄の、根本的な何かを失っている。彼らは働かないでも生きていけるが、果たしてそれは……、それは。僕は、管理され給餌され産卵し死んでいく家畜を連想した。何の因果で、彼らはそんな運命を背負うことになったのか。


「この村の人間は、眠らないんじゃないの。眠れないの」


 村人の奇妙な体質は、村のルーツに関係していた。

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