【逃】
まだ太陽が昇ったばかりの朝早く、1つの作戦が行われようとしていた。
それはこの星を統括する皇帝が住まう城の中で密かに行われていた。
コンコンっとドアを軽くノックをしながら、メイド長のロッティは部屋の主に声をかけた。
「皇女様、朝ですよ。起きてくださいまし。」
声をかけ終えるのと同時にドアを開け中へと入っていった。
そしていつものように窓へと向かい、カーテンを開けながらベッドの主に再び声をかけ、起きるように促した。
「皇女様、起きてくださいまし。」
再度そう声をかけたがベッドからは全く反応が帰ってこなかった。
いつもなら声をかければ何かしらの反応が返ってきていた。
不振に思い手を止め、今度は名前で読んでみた。
「フィーン様?」
いつもと違う様子に少し気になり、ベッドへと近寄ってみた。
「フィーン様?どうかなさいましたか?」
そう言いながら覗き込んだとき、寝ていると思った膨らみはクッションで作られたものであることに気がついた。
「っっ!」
一瞬驚いたものの、すぐにそれは怒りへと変わった。
「ひ~め~さ~まぁっ!」
ロッティは身代りを見事に果たしたであろうクッションの1つを握りしめると、この世のものとは思えない形相で床へと投げつけ、そして握りこぶしを作った。
そして、
「この私から逃げようなどと!」
そう叫んだのだった。
ロッティは勢いよくドアを開けおもむろに叫んだ。
「皇女様が脱走されました。」
その言葉を聞くや否や、周辺に居た使用人達は一斉に走り出し、各々捜索し始めた。
皆慣れた感じで行動し始めたのは、フィーンの脱走はこれが始めてではなく、度々行われていたからであった。
そしてそれはいつも失敗で終わっていたのだった。
しかし、今回の脱走は今までとは違っていた。
今までは日中の人気の無い時間を狙って行われていたが、今回は朝の皆が慌ただしく活動している時間帯に行われたのだった。
そしてそれの狙いは見事的中し、まんまと脱走を果たしたのだった。
そして脱走を成功させたフィーンは城の外へと飛び出していったのだった。
脱走に成功したフィーンは、少し離れた場所で立ち止まり振り返って呟いた。
「ふふふっ、この私にかかればこのくらいの事お茶のこさいさいさ!」
今までの何十回もの失敗を棚にあげ、勝ち誇った顔で前へと向き直し、城の前にひろがる街へと向かって走っていったのだった。