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愛らしい仕草

 日なたで立ち尽くしているのもなんなので、丁度いい感じで木陰の真下にある、木製のベンチに二人は腰を下ろした。しかし、その二人の距離感はどう見ても、他人以下の関係にしか見えない座り方だった。

極端なほどに、端に詰めているのだ。女の子の方が、ではない。ラブズから、一定の距離を保たせているのだ。日光を遮るグリーンカーテンになっている大樹の枝を見るフリをしながら、

ラブズは、横眼だけを動かし、女の子の姿を捉えていた。

 

チラ、チラ。―――チラ。


「…………」

 

 彼女は小さな唇を懸命に動かし、緑色の液体を口に含む。さらに二度、三度とその動作を繰り返し、満足げに笑うのだ。何とも愛らしい光景だと思った。ラブズの周りにはいないタイプの女の子だ。少し、変なところもあるが、意外と感情表現が豊かな子なのかもしれない。ただ、それが表面的には見えにくいだけなのだ、とラブズは勝手な解釈をする。


「……?」

「……あ……」

 

 なるべく気付かれないようにしたかったのだが、こんなに熱烈な視線を浴びさせ続けたらさすがに反応するだろう。こっち見てくんなよ、キモい。とか思われるかもしれない。ラブズに不安が走る。

が、それはただの杞憂だったらしい。彼女はラブズに興味が無いようで、すぐにジュースの方へと視線を元に戻した。まぁ、当然だよな。と、何てことのないようにしてラブズは、木漏れ日を仰いだ。正直言って、自分はそんなに見ていて面白いような男ではないし、容姿も平均。もしくはそれ以下だ。そんなことは言われずとも、自覚をしていた。

 

 だとしたら、この胸もモヤモヤはなんなのだろう。今まで感じたことの無かった類のものだ。自分に興味が無い観客がいる。だが、それは何の問題でもない。なぜなら自分は舞台に立つ気すらないのだ。全然、悔しくなんてないのだ。そんな自己評価を頭の中で悶々と繰り返していると、不意に左頬から視線を感じた。


「なに? 他にも欲しいものがあったの?」

 

 別にこのよくばり娘が、とは思ってはいない。彼女が何かを欲求したのだったらなるべく叶えてやるつもりでいた。

 しかし、彼女は首をプルプルと降りながら柔和な否定をした。


「じゃあ、俺が邪魔だからどっかに行ってほしいとか?」

 

 またしても意地の悪い質問をしてしまった。何をこんなに苛立っているのだろうか。彼女の方はというと、今度はさらに強く首を真横に振り回し、強い否定を見せた。

 両者の間にしばしの沈黙が流れ込んだ。

 

 もしかすると、彼女は自分よりも会話をすることが苦手なのかもしれない。一応の礼儀としてのお礼や、意思表示はするかもしれないが、言葉のキャッチボールをするとなればそれは全くの別の話だ。ラブズにも経験があったから、それがよく分かる。しかし、自分はかなりの投げ込みを行ってきたからこそ、男同士の会話をなんなくこなせるようになった。さすがに、女子と目を合わせて会話をするのにはまだ不慣れだが、それでも彼女よりは自分の方が経験も肩の痛みも上のような気がする。

 なら、こちらから先制球と行くか。先輩として後輩をリードしてやらねばなるまい。

 ラブズは何の話題から膨らませていこうか、と想像を育ませていく。その中で、真っ先に思い浮かんだのは、先程の男との会話だった。かなり緊迫した様子だったが、一体あれはどういう意味だったのか。途端に興味が沸いてくる。


「さっきの男の人と……なんの話をしていたの?」

「…………」

 

 両手に挟まれたペットボトルのキャップを見下ろしながら、彼女は黙り込んだ。どうやら、自分はかなり無神経でデリカシーのない話題を振ってしまったようだ。ラブズは酷く後悔をした。苛まれた感情が暴発しそうだった。


「人探しを、しているんです」

 

 意外なことに敬語だった。先程まではくだけた物言いで、子供らしい話し方だったのに。少し、それを残念に感じる自分がいた。


「人探し?」

 

 これはまた、掴みようのない話だった。物を探すのさえ面倒くさがるラブズなのに、それが人となればそれは想像以上の苦痛なものとなるだろう。


「それが、さっきの人だったのかな?」

「はい」

 

 かなり力強く、自信をもって彼女は答えた。


「でも、人違いだって言っていたよね? ……言っちゃ悪いけどさ、ただの勘違いってこともあるんじゃないの? それとも、なにか根拠があって詰め寄っていたの?」

「それは、」

 

 眉根を寄せてしまった彼女の言葉を遮るようにして、


「分かっているよ。あったんだろうね、多分」

 

 これは勝手な妄言なのかもしれないが、ラブズにはどうしても彼女が嘘を吐くような子には見えなかった。それに、この手のタイプは自分の考えを否定されるのを極端に嫌う。だから、少しでも同調させなければいけないのだ。

 その言葉に安心したのか、黙って彼女は頷いた。


「あのさ」

「はい?」

 

 ここからは関係のない話だ。

 彼女の言う人探しとは、接点が遥か彼方にあるほどの。

 いつの間にか積極的になっていたラブズの好奇心から抽出されたものだった。


「君は、ここの街の住民じゃないよね?」

「……どうして、そう思うんですか?」

 

 言えるわけがない。と思った。ラブズは、質問に質問で返されたのを誤魔化すようにして、赤茶色の髪を掻きむしった。


「君はさ、多分……」

 

 根拠ならある。

 なぜなら、自分にはとてつもない秘密があるから。

 だが、その言葉を言い切ることができなかった。

 それは唐突に起こったのだ。何の前触れもなく。


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