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アリア海の秘宝  作者: 淡海 アザ
第一章
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第一話   運命の指輪⑤

 フェイの傷は大したことは無かったが、助けてくれた少年は丁寧に手当てをしてくれた。

 彼の名はウィリアム・ブランク。仲間からは、ウィルと呼ばれているらしい。

 そして、ここは彼らが子供だけで結成した銀龍騎士団のアジトだということも教えてくれた。アジトと言っても、いくつか区切られた小部屋があるだけの、地下の物置きのような質素な空間だったが。


「銀龍騎士団って??」

「僕達はね、みんな大人になったら国を守る騎士になりたいんだ。でも、家が裕福だったり、貴族じゃないと騎士の教育は受けられない。だからその反抗として、騎士団を作ったってわけ。まぁ、当初の発端はそうらしいけど、僕等の代はちょっと複雑でね」


 手当てを終えたウィルはフェイの隣に座り込み、神妙な顔つきをする。


「複雑?」

「僕等のリーダーは投票で決まるんだけど、今回、それが二人に分かれちゃって。リーダーに決まったのはカイリなんだ。さっき、君を助けた奴ね。でも、次点だったガラン派がカイリを認めてなくてね」

「ガランって、あの嫌な奴ね。あいつって、自分が一番じゃなきゃ気が済まないってタイプに見えるもん」


 フェイの熱の籠った発言に、ウィルは笑う。


「それもあるんだけど・・・カイリは、貴族の家なんだ。僕もそうだけど、先代のリーダーに可愛がってもらってて、特別に入れてもらえた。それを、ガラン達は良く思ってないんだよ」


 どうりで、身に付けている服装が違うわけだ。カイリやウィルの格好は、どこかお洒落で品がある。特にウィルの仕種や話し方は、とても紳士的だった。フェイは貴族というものを本からの知識でしか知らないが、身分の高い人を表すということは何となく理解していた。


「特にカイリは、あの英雄レオンの息子だからね。余計、ガランたちは面白くないんだ。まぁ、気持ちは分からなくも無いんだけどね」

「英雄レオン・・・・?」


 フェイのオウム返しに、ウィルは目を瞬かせる。


「まさか・・・・レオンを知らないの?」


 こくりと頷くフェイに、ウィルは改めて、関心の色を濃くした。


「やっぱり。そうじゃないかと思ってたけど、君はこの国の人間じゃないね?髪の色も、目の色も珍しいとは思ってたんだ。君は、旅芸人か何か・・・・」


 まだウィルが言い終わらぬ内に、背後から彼を呼ぶ声がして二人は同時に振り返る。


「ウィル!ごめん。僕には無理だ。とても行けそうにないよ」


 奥から慌てたように駆け寄って来たのは、線の細い見るからに貧弱そうな少年だった。彼はフェイの姿などまるで目に入っていないのか、(すが)り付くようにウィルの元に膝を折る。


「いきなりどうしたんだよ、ケイト」

「ガランが突然、新人のための適性試験をやるって言い出したんだ。条件は、キングコブラの巣から抜けがらを取ってくることだって。僕、コブラの巣になんか行けないよっ!!」

「だったら、尻尾巻いて逃げることだな、ケイトちゃん」


 ケイトの後ろから、下品な笑みを浮かべ近付いて来たのは、噂の根源。ガランだった。

 それに立ち向かうように、ウィルが腰を上げる。


「キングコブラの巣ってのは、穏やかじゃないな。カイリは承諾したの?」

「あんな甘ちゃんの意見なんて知るかよ。最近、銀龍騎士団としての威厳が損なわれてる気がしてなんねーんだよなぁ。こんな女みてーな奴にも、銀龍を名乗られたら、俺らとしちゃ我慢ならねーんだよ」


 ガランの背後から、取り巻き連中も現れる。


「べつに、キングコブラを捕って来いって言ってるわけじゃねーんだ。その抜けがらだぜ?その辺の草むらでも探せば見つかるかもな」

「そりゃ名案だな!」と笑い合う彼らに向かって、ウィルは神妙な面持ちで少し思案するも、分かったと返事する。


「その代わり、僕も行く。誰かがもしも噛まれたら、すぐに手当てが必要だ。」


 ウィルの返答に、ガランは大袈裟に頷く。


「そうだな。もしも噛まれて死んだら、死体を運ぶ奴が必要だしな」


 ガランの言葉に、下卑た笑い声を上げていた一人が、ケイトに向かって軽く手を振った。その手には、なぜか眼鏡が握られている。


「お前、これがなきゃ何も探せねーだろ?取り返しに来ないのか?それでもお前、男かよっ!だっせーな」


 そこまで馬鹿にされても、ケイトは動かなかった。悔しそうに視線を反らし、じっと耐える姿に、ウィルが悲しそうな顔をする。しかし、すでにフェイは限界だった。これまで、フェイの中で息を潜めていた怒りのパワーが、ふつふつと沸き上がってくる。


「フェイ・・・?」


 ウィルが気付いて声を掛けた時には、フェイは一人、つかつかと歩きガラン達の目前まで迫っていた。


「何だよ。お前、まだ居たのか?」


 ガランの呆れた声に、フェイは立ち止まり彼らを睨み上げる。その気迫に推されるように、身構えた彼らに向かって、勢いよく右手を突き出した。


「リト―――っ!」


 フェイの叫び声と共に、彼女のローブの下に隠れていたリトが、凄まじい速さでフェイの腕を助走し、ガランの顔めがけて大きく跳躍した。

 その小動物の華麗な動きを、見切れた人物はフェイ以外存在しなかった。

 ガランは、突然顔にへばり付いてきた気色悪い物体の感触に、思わず身体を仰け反らせる。彼の大きな手に捕われてしまう前に、リトは再び飛び上がり、今度はガランの取り巻き連中の顔へと順番に着地していく。

 パニックになって慌てふためく彼らの足元に落ちていた眼鏡を拾い、すかさずリトも回収したフェイは、まるで何事も無かったかのように、彼らの脇を擦り抜けた。


「リトにしては、いいジャンプだったわよ」

「ったりめーだ。食ってるもんが違うんだよ」


 リトのへんてこな決め台詞に、思わずフェイは吹き出した。たまには頼りになる相棒に、フェイは誰にも気付かれぬよう小さくVサインをした。





「なぁ・・・フェイ、なんで俺らまでこんなのに付き合うんだ?」


 目の前に待ち構える、巨大な洞穴を前にして、またしてもリトがごちゃごちゃ言い始める。

 郊外から離れた山間部の奥地に、その洞穴の入り口はあった。人工的に作られたものでは無く、土壌の風食化により、岩石や地表が削られ、自然と形造られたものなのだろう。入り口こそ、微かに西日が射しているものの、ほんの数メートル先は、完全な暗闇が支配していた。中から、微かに伝わる獰猛(どうもう)な生物の息づかいに、リトは身体を硬直させる。


「俺、確かな身の危険を感じるんですけど・・・・なぜって、俺はカエル様だから・・・」

「リトってば、だらしないなぁ・・・乗りかかった船でしょ?」

「乗った覚えねーよっ!!つか、お前が関わりてーだけだろーがっ!!」


 一応、周りを気にして小声で(わめ)くリトに構わず、フェイはウィル達の元へ駆けて行く。


「本当に、君も行く気なの?」


 再度、ウィルが確認するようにフェイに声を掛けてくる。


「当たり前よ。任しといて!私、こーゆう冒険、ワクワクするたちだから」


 フェイの明るい発言に、信じられないとケイトが首を振った。


「僕は・・・・この場に立ってるのが精一杯なくらいだよ」


 その顔は、完全に血の気を失くし、可哀想なくらい青白くなっている。


「ケイト、君は入り口の近くで待ってればいいよ。ガラン達も、中までは追って来ないはずだ。抜けがらを見付けたら、君に渡してあげるから」

「ほ、本当に!?」


 ウィルの優しい言葉に、助かったとケイトの瞳が(うる)む。


「それじゃ、試験の意味無いだろ、ウィル」


 突如、声がして、岩の上から身軽に滑り降りて来たのは、銀龍騎士団のリーダー、カイリだった。腰に短剣を下げ、手にはしっかりとランタンが握られている。


「ウィル、そんなに新人を甘やかすな。何より、こいつのためになんねーよ」

「カイリ・・・・・」


 洞穴の前に立ちはだかるガラン達の様子をちらりと横目で確認し、カイリは口の端を持ち上げる。


「それに、これは奴らを出し抜くチャンスだぜ?お前、このまま一生ガラン達に舐められっぱなしでいるつもりか?」


 ケイトの肩に手を置き、カイリは今にも泣き出しそうな瞳を真正面から捉える。


「それに、今日なら俺達がお前をサポートしてやれる。行けるな?ケイト」


 カイリに名前を呼ばれた瞬間、ケイトの瞳が強く開かれた。まるで、魂が戻ったかのように、ケイトは瞳に力を宿すと、小さく、けれど固く頷いて見せる。

 カイリは満面な笑みを浮かべた。


「よし。なら、これ持って付いて来い。ウィル、行くぞ」


 ケイトにランタンを渡し、ウィルに声を掛け、最後にフェイを見つけたカイリは、思わず立ち止まり首を捻った。


「まだ居たのか。お前」








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