第6話 無限ループと分かれ道
いつもならば、パソコンの画面を見ればくすりと笑ってそのスレッドを覗き、時には書き込みをし、時には大笑いしていた。だが今日はそれが全くない。試しに、永久保存版としてお気に入り登録しておいたスレッドを見てみる。さらには、保存しておいた画像のフォルダも動員する。
しかし、結果は同じだった。まるで世界から「面白い」という感情が音を立てて欠落してしまったように。全てが「下らない」としか思えない。おもむろにゲームフォルダを開いてゲームを起動したって、やる気がしなかった。だからこうして間違った道を行き、延々とループに嵌まっているのだ。原因などとうに知れていた。
あの魚である。俺はここに帰って来てから一体何度、それから逃れようともがいただろう。しかし、次の瞬間またそれに襲われる。俗に言う無限ループという奴か。それが、こんなゲームの世界であれば、それを断ち切るには別の場所に向かえば良かった。
二手の道があって、中央には道の標識がある。左手には楽々、右手には試練と書いてある。そして道の最初の様相も見える。左は風が走り抜ける草原。右は火山を思わせる岩山。逃げ性の俺は迷わず左に向かう。そしていつしか気付く。この草原に来るのは何回目だろう。草原の後崖があって、そこに架かった吊り橋が決まって4回軋んで俺が落ちかけるのは何回目だろう、と。俺は引き返す。岐路に着いたら、今度は少し覚悟を決めて右の道を進む。そうすればループを断ち切れる。
現実でもそうだろう。逃げずに立ち向かうしかない。だが俺にはそれが出来ずにずっと同じところを馳せ回っている。ゲームと違うのは、俺にその勇気がないこと。ただそれだけ。
丁度その時、ずっと上キーの押されていた画面にメッセージが現れた。
『いい加減、気付いてもいいのではないか勇者よ。お前は……お前は今、敵と姫のいる城への道の途中で同じところをぐるぐると回っているのだ。手をこまねいていれば姫に手は届かない。行くべきだろう。ひょっとしたら他に勇者がいて、姫を助けに行ってくれるかもしれない? そんな甘ったれた事をいってはならぬ。その勇者もここで道を誤り、姫のところに辿り着けぬかもしれないではないか。だとすれば誰が行く。……さあ立ち上がれ勇者よ。まだ間に合ううちに』
このゲームの中では有名な、やたら長い激励だ。プレイヤーが一定時間「間違った」行動を行い続けていると、その場によって違った激励メッセージが表示されるのだ。それは俺を奮い立たせるのに充分なメッセージだった。
明日また、船着き場に行ってみよう。
パソコンを閉じて再びベッドに倒れこむ。大丈夫、これなら寝られそうだ……
勇者は右の道へとゆっくり歩を進めていった。