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 最近体の調子が思わしくない。いつもイライラしてしまう。苛立ちをかじり木に毎日ぶつけているが、思うようには晴れ晴れとしない。


 いつからだっただろうか…。『おはようの人』と『おっすの人』の夢を頻繁に見るようになった。二人がやってくると慌しく掃除をはじめ、食事の準備を済ませると、ワタシに忙しなく「ハウス」と呼びかける。渋々格子の箱に戻るとパタンと扉が閉ざされるのだ。


 寂しい。どこか寂しい。


 思えばここにやって来た当初は毎日の日課だった探検の時間も、自由な時間も、今では殆ど無くなってしまった。なにより、ワタシを優しく撫でてくれたあの幸せな時間が減ってきた。


 ……いや、もっともっとそんな時間を欲していたのだ。


「ひょっとしてワタシのことを嫌いになったのかなぁ」


 寂しさを必死で打ち消そうと、骨組みだけになっても、あの人たちの優しさで包まれた『牧草の部屋』の中でワタシは一人丸まるのだった。


 ある日。ワタシはのどが渇いたのでいつものように水飲み場に向かった。でも、いつもは水が湧き出てくるのに一向に出てこない。確かに過去にもこういうことは度々あった。これまでは何とか我慢できたけど……。今日の感覚は限界を超えていた。


「どうしよう……。のどが渇いたよぉ……」


 粉々に散在する牧草を口にするが、ワタシの欲している気持ちを満たすはずもなく。ワタシはただ、そのうち必ず飲めるはずと信じ続けた。


 少し時間を置いて水飲み場へ行く。でも、水は出てこない。


 しばらくして再び水飲み場に行く。それでも水は出てこない。


「水……。水……」


 ワタシは格子に噛み付いて揺さぶったり、後ろ足で激しく地面を叩いたり、ぴょんぴょん飛び跳ねたりして見えない二人に訴えた。


「水が無いよ! ねぇ! 水が無いってば!」


 でも、その想いはなかなか届かなかった。そういえば今日は『おはようの人』どころか『おっすの人』も、いつもやってくる時間に来なかった。届かない。ワタシの想いが届かない。


「嫌われちゃったのかなぁ……。やだよう……。寂しいよぉ……」


 やがてワタシは冷え込んだ格子の中で丸くなって瞼を閉じた。浅い記憶を巡る旅はとっても楽しかった。『おはようの人』は笑ってワタシを抱きしめてくれる。ちょっと冷たい手は苦手だけど『おっすの人』もせっかくだから撫でさせてさせてあげよう。

 

「とっても眠い……。うん、今日はこのまま眠ってしまおう……。そうすれば喉の渇きも忘れられるはずさ……」


 浅い記憶を辿れば『おはようの人』に連れられてやってきたこの部屋。最初は不安だったけど、あの人も『おっすの人』もワタシを温かく迎え入れ、生きる世界は違えども、ワタシと家族のように接してくれていた……。


「家族……」


 そうだ、ワタシはいつしかあの人たちを家族と思っていた。喜びも、悲しみも、怒りも、ワタシの全てを受け止めてくれた。


 もっともっとあの人たちに甘えたい……。


 ワタシは暗い、暗い部屋の中に居た。どうやら夢を見ているのだろうか。遠い記憶の中で、何度か見覚えのあるこの夢の果てにあるものは……。何だったっけ……。


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