-7-
ワタシがこの部屋に来て、毎日のように『おはようの人』と『おっすの人』と顔を合わせているうち、ワタシもいつの間にか歳をとったようだ。次第に肌寒さに敏感になっていた。以前はそれほどでもなかったが、ここの所やけに身体が冷えるのだ。
そうそう、先日驚いた事があった。ワタシのそんな気持ちが伝わったのだろうか、あの人達は二人揃って部屋に訪れると、冷たい風が通り抜ける格子の箱の中に、四方を牧草に包まれた小さくかわいいワタシだけのお家を設けてくれたのだ。そう、それはまさにワタシの理想郷でもある『牧草の部屋』だ。その時、ワタシは咄嗟に感じたものだ。
「何だ、言葉は通じなくても、少しは人間とだって意思の疎通が出来るのかもしれないなぁ」
小さくてもかわいい『牧草の部屋』。さっそく小脇に設けられている小さな出入口からその中に入ってみた。何と暖かい部屋だろうか。おまけに天井、壁、全面に渡って美味しそうな匂いの牧草で包まれている。こんなに居心地の良い部屋は、記憶を遡ればあの大地震に見舞われたバスケットの部屋以来ではないだろうか。
ワタシは嬉しくてその部屋を出入りしては、格子の外で満足そうな顔をする『おはようの人』と『おっすの人』に、感謝の気持ちを込めてお礼を言うのだった。
「やぁ、やぁ。ありがとう。気に入ったよこの部屋!」
満面の笑みでワタシは語りかけた。……と言っても、二人とも気付いてはいないようだが。でも、まぁワタシのぴょんぴょん飛び跳ねる行動を見て笑うあたり、二人とも満足そうなのは何となく分かった。それは思えばこの人たちと暑さ寒さを重ねてきた故の感覚からくるものだった。
それからは牧草の部屋の中で丸くなって眠る事にした。部屋の外は寒い日々も、ここなら外敵からも身を隠せるし、ゆっくり眠れるとあって、快適そのものだった。
だが、ある日ふと考えた。この牧草の部屋は確かに落ち着ける温かい部屋ではあるが、あまりに暗すぎる。部屋の外はこの中に比べればまだ光も差し込んで明るかった。
おかげで今まで気に留めなかった小さな物音ですら、それはそれで不安な気持ちに苛まれるようになった。何故なら四方の視界を完全に遮られたことで、天敵の気配を察する事もできなくなったからだ。それはいきなり襲われかねない本能の警告だった。
いや、この際ぶっちゃけてしまおう。天敵への警戒もあるが何よりこの芳醇な香り漂う牧草で造られた部屋は……。
「……美味しそうだ!」
ワタシはその日から部屋のリフォームに着手したのだった。気分は『大工のうさぎ』って感じ。いや、『うさぎの大工』かな。とにかく今日この時、記念すべきワタシの日課が追加された。




