-2-
永かった。ワタシの脳は今も揺れている。でも、地震はようやく鎮まったようだ。
「はぁ……。死ぬかと思ったよ」
ふと気づけば身体が牧草まみれになっていた。「これが地震というものか」と、恐ろしさを身に沁みて感じていた時だった。バスケットの屋根が開き、柔らかな光が一気に差し込んできた。その光はさっきまで恐怖に怯えていたそれとは明らかに異なる、とても穏やかなものだった。
「おいで」
差し出された掌。それは『ホームページの人』のものだった。ワタシは軽々とその人に抱かれ部屋から抱え上げられた。
「良い匂いがするな」
何だか妙に落ち着く匂いのする場所だった。先ほどまで毎日のように嗅いでいた、マーブル模様のように入り混じる鳥獣の臭いではなかった。見渡せば、『餌を運んでくる人』も、あの不愉快な隣人の姿も見当たらない。何より、好奇に満ちた人々の姿も無い。
「今日からここがあなたのお家よ」
ワタシは『ホームページの人』に抱き上げられながら、その言葉の意味を遠い記憶を辿り噛み締める。そして心から感動したワタシは思わず叫んだのだ。
「ワタシはついに自由を勝ち取ったんだぁ!」
『自由』。あぁ、なんて素晴らしい言葉なんだ。もうあの光も、人々の目も、落ち着かない臭いも、鬱陶しいあいつの顔も見なくて済む。どこにも私の天敵らしき存在はない。この広い世界がワタシの安住の地なのだ!
しばらくはその現実を噛み締めながら、『ホームページの人』の温もりに包まれて、束縛の無い世界のはじまりに身体で舌鼓を打っていた。だが、『ホームページの人』は、いきなり残酷な告知をする。
「さぁ、ここがあなたの部屋よ」
見れば四方を格子に囲まれた箱状の物体を指さすではないか。ワタシは咄嗟に『ホームページの人』に尋ねた。
「何ですかこれは?」
遠い記憶を辿ってみる。ああそうだ、これはきっとワタシが逃げ出さない為の檻。そうだ、檻なのだ。
「……て、檻ッ? はぁっ? ちょっ、自由! 自由!」
そんなワタシの声は届くことも無く、抱えられるままにゆっくりと格子の箱の中へ送られたワタシ。やがて手のひらが遠のき、キーッというこそばゆい不快音を残し、格子の扉がワタシの自由を奪ってゆく。
「……騙された」
自由を勝ち取ったかと思えば一転、冷たい現実を突きつけられた。あんまりだ。遠い記憶が『アメとムチ』という言葉を引き出し、ワタシの脳裏を駆け巡った。
「ちょっと待っててね。お水入れてくるから」
そう言うと『ホームページの人』は、この檻の扉よりさらに大きな扉を開け、やがてこの自由なる世界から立ち去った。
「ちょっと、せめてここから出して! そっちには行かないからさっ! ねぇ!」
その声はやはり届かない。諦めたワタシは薄暗くなった檻の中でうずくまると、何だか妙に疲れが押し寄せ、やがていつの間にか眠りについたのだった。
夢の中でワタシは不安でいっぱいだった。きっと寝言の一つも口走っていただろう。ただ、そんな夢の中で、あの人の手がとても温かく心地よかったことが唯一の希望であり、深く刻まれた記憶だった。




