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あらゆるイケメン達が、王女の私を称賛してきて最高です!  作者: 逆立ちハムスター


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2/2

その称賛、致死量

「……ジルヴェスター殿下。少し、よろしいでしょうか」


私は、顔面に迫りくる超絶イケメンの圧を扇子で押し戻しながら、引きつった笑みを浮かべた。

ジルヴェスター王太子は、そのサファイアのような瞳をキラキラと輝かせ、手にした分厚い手帳——通称『ホメーテ王女全肯定・聖典』を愛おしそうに撫でている。


「なんですかな、ホメーテ王女! 貴女の声は、春の訪れを告げる小鳥のさえずりよりも清らかだ。その一言一言を銀板に刻んで、我が国の国宝にしたいほどですよ!」


「いえ、そうではなくて。……その手帳、中身を少し拝見しても?」


「もちろんですとも! これは私が貴女を想い、貴女を観察し、貴女という奇跡を言語化した結晶ですからな!」


差し出された手帳を開いた瞬間、私は自分の目を疑った。

そこには、外交手腕や王女としての威厳といった「公的な褒め言葉」の向こう側……いや、崖っぷちのその先にある、狂気的なまでの詳細なログが刻まれていたのだ。


『〇月〇日。朝食時。王女殿下はクロワッサンを召し上がられたが、指先に付いた一粒のパン屑さえも、重力に逆らうかのような優雅さで処理された。その指の動きは、神がチェスを指す際の手つきに等しい。まさにパン屑の支配者、粉塵の女神である』


「……パン屑の支配者?」


私は思わず呟いた。

待って。昨日の朝食って、私のプライベートな寝室の隣の小食堂で、侍女が二人いただけのはずよね? なんでこの人、パン屑の行方まで知ってるの?


ページをめくる指が震える。


『〇時〇分。廊下ですれ違った際、殿下は右足をわずか三センチ高く上げ、絨毯の毛並みを整えるかのように歩まれた。その歩行は大地への慈愛に満ちており、道行く蟻たちもその慈悲に涙したに違いない。歩く福音、絨毯の守護者。……ああ、その一歩に踏まれたい』


(……怖い。この男、怖い……!)


褒められたい。私は確かに、世界で一番褒められたい女だ。

だが、これは何?

「外交がすごい」とか「顔が綺麗」とか、そういう大雑把な、いわゆる「インスタ映え」する褒め言葉を求めていたのであって、廊下での足の高さなんて、自分でも意識してないわよ!


「……ジルヴェスター殿下。貴方、これ、いつ書いていらっしゃるの?」


「常にです! 貴女という太陽が昇っている間、私のペンが止まることはありません! 昨夜、貴女がバルコニーで月を眺めていた際、左のまつ毛が一度だけ、通常より0.2秒長く瞬きをした……あの『憂いの秒数』についても、今から三時間は語れますぞ!」


「ストップ。一旦止まって」


私は手のひらを彼に向けた。

ゾッとした。背筋を這い上がるのは、快感ではなく、冷たい戦慄だ。

これはもはやファンではない。……ストーカーだ。しかも、超高学歴・超絶イケメン・超大国の王太子という、逃げ場のない最強のストーカーである。


(褒められるのは好きだけど……「左のまつ毛の瞬きの速度」を褒められて喜ぶほど、私は変態じゃないわ!)


……と、思っていた。

そこまでは、至極真っ当な人間の感覚だった。


しかし。

ジルヴェスターが、私の拒絶を「謙遜」だと勘違いしたのか、さらに一段階ギアを上げてきたのだ。


「ああ……! その拒絶のポーズ! 突き出された右手の五本の指、その角度の黄金比! 貴女は今、この私を拒んでいるのではない。無礼な光(私)から、自身のあまりにも眩しすぎる神性を守ろうとしているのですね!? なんという自己犠牲! なんという奥ゆかしさ! 拒絶さえも慈愛に変える、貴女はまさに『拒絶の聖母』だ……!」


「……えっ?」


拒絶の、聖母。

私の手の角度が、黄金比……?


(……ちょっと待って。今、私の指の角度、褒められたわよね?)


私は、突き出した自分の右手を見つめた。

ただの「やめて」というジェスチャーだ。なのに、この男のフィルターを通すと、それは世界を救う聖母の御業みわざに変換される。


『拒絶の聖母、ホメーテ』。

……あら?

……悪くない。

いや、むしろ……。


(……ゾクッとした。今、すごくゾクッときたわ!)


これまで浴びてきた「お綺麗ですね」「お賢いですね」というテンプレートな褒め言葉が、急に安っぽく感じられてきた。

そんなものは誰でも言える。だが、このジルヴェスターはどうだ。

私の無意識の挙動、自分でも気づかない癖、細胞レベルの動きを拾い上げ、そこに「神性」を見出し、全力で肯定してくる。


これは、オーダーメイドの称賛。

私という人間をミクロの単位まで分解し、そのすべてに金箔を貼っていくような、究極の全肯定……!


「……続けて」


「えっ?」


ジルヴェスターが、一瞬だけ呆気に取られた顔をした。


「……続けなさい、ジルヴェスター殿下。その手帳の、第204項目……。私が『お茶を飲む際に、カップの底を小指で支えた角度』について、貴方の見解を聞かせなさい。それがどれほど高潔で、どれほど宇宙の真理に近いのかを……!」


私は扇子を閉じ、彼を射抜くような視線で見つめた。

今や私の瞳には、恐怖など微塵もない。あるのは、新境地へと足を踏み入れた開拓者の欲望だ。


「……おおおお! さすがは我が光、ホメーテ王女! その強欲なまでの美への探求心! 私の言葉を『食事』として摂取し、さらに輝こうとするその貪欲さこそ、王者の風格! 承知いたしました! では語りましょう! あの瞬間の小指の角度が、いかにして大陸の平和を100年早めたかを……!」


「ええ、言いなさい! もっと細かく! もっとマニアックに! 私の毛穴の一つ一つが、貴方の言葉で歓喜に震えるまで!」


応接間には、ジルヴェスターの陶酔しきった称賛の声と、それを受けて頬を紅潮させる私の吐息だけが響き渡った。


……傍らで控えていた私の専属侍女が、死んだ魚のような目で、音も立てずに部屋の扉を閉めたことに、私たちが気づくことはなかった。

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