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あらゆるイケメン達が、王女の私を称賛してきて最高です!  作者: 逆立ちハムスター


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1/3

至高の外交

「……王女、貴女の瞳には何が見えているのですか? 昨今の小麦価格の暴落を逆手に取り、余剰在庫を醸造ギルドに流して高付加価値の蒸留酒へ転換させ、その税収を教育支援に充てる……。この一連のキャッシュフローの構築。もはや芸術の域です。貴女が微笑むたびに、国家のGDPが3パーセント跳ね上がるのではないかとさえ思えてくる! それだけではありません。南方の砂漠地帯における水利権争い。三代にわたる紛争を、貴女は『魔導式蒸留プラント』の共同運営という形で解決に導いた。単なる利益の分配ではなく、技術協力という形で両国を『運命共同体』に仕立て上げたその手腕……。まさに、歴史に名を刻むべき天才の所業です!」


「もっとよ。もっと言いなさい。その綺麗な唇を動かして、この私を、私の国を、世界の中心であるかのように崇め奉るのです……!」


豪華絢爛な応接間のソファに深く腰掛け、私は扇子で口元を隠しながら、内心でそう叫んでいた。

私の名前はホメーテ。このエスタシオン王国の第一王女。

そして今、私の目の前には、隣国からやってきた「歩く発光体」こと、ジルヴェスター王太子が跪いている。


見てほしい、この顔面を。

彫刻のように整った鼻筋、夜空を溶かし込んだような深い紺碧の瞳、そしてさらりと流れるプラチナブロンドの髪。彼がまばたきをするたびに、物理的な「キラキラ」という効果音が聞こえてきそうなほどの超絶イケメンである。普通なら、この至近距離で見つめられただけで、世の令嬢たちは鼻血を吹いて卒倒するだろう。


だが、私は違う。

私は、彼が放つ「甘い言葉」を、一滴残らずこの身に浴びるためにここにいるのだ。


「……ホメーテ王女。私は、貴女の前に跪けるこの瞬間を、我が人生最大の誉れと感じております」


さあ、どんどん来なさい!


「なんと言っても、この王国の外交手腕……。それはもはや芸術の域に達していると言わざるを得ない。周辺諸国とのパワーバランスを、糸一本の狂いもなく操るその采配。聞けば、昨月の通商条約の改正も、すべて貴女の助言があったとか」


「あら、そんなこと……。ほんの少し、ペンを動かしただけですわ」


嘘よ。一週間徹夜して、相手国の弱みを徹底的に洗い出した成果よ。さあ、もっとそこを掘り下げて!


「『ほんの少し』? おお、なんという謙虚さだ! 貴女のその爪の先ほどの努力でさえ、我ら凡夫が一生をかけて成し遂げる功績を凌駕しているというのに! 貴女が微笑むだけで、国境の緊張は霧のように消え去り、貴女が言葉を発すれば、頑固な外交官たちも聖書を拝む羊のように大人しくなる。……ああ、ホメーテ王女。貴女はまさに、乱世に舞い降りたエルメデューラ(平和の女神)外交のカリスマだ!」


(いいわ……! 最高にいいわよジルヴェスター! その『外交のカリスマ』ってフレーズ、今度から名刺に入れたいくらいだわ!)


私の心拍数は跳ね上がり、背筋にゾクゾクとした快感が走る。

そう、私——ホメーテは、重度の「褒められたがり」なのである。

王女として完璧に振る舞うのも、夜な夜な政務に励むのも、すべてはこの至福の瞬間を味わうためのガソリンに過ぎない。


ジルヴェスターはさらに顔を近づけてきた。まつ毛の長さまで数えられそうな距離だ。彼の吐息が私の頬をかすめる。


「さらに言わせてください。この城の庭園の美しさ、そして民の活気……。これらすべては、貴女という太陽が照らしているからこそ輝いている。貴女の聡明さは、北極星よりも確かな導きとなり、貴女の慈悲深さは、母なる大地よりも深い。……失礼、言葉が足りないな。貴女の存在そのものが、この大陸における唯一の『正解』なのです」


「……っ、ふふ、……まぁ、それほどでも……ありますけれど」


ダメ。ニヤけそう。扇子が震える。

「唯一の正解」って何? 数学の公式かなにか? でも好き。すごく好き。

もっと、もっと私を語彙力の限界まで褒め殺してちょうだい!


「この私の瞳に映る貴女は、あまりにも眩しすぎる。もし私が詩人であったなら、貴女の一日を記述するためだけに、一生をかけても足りない叙事詩を書き上げるでしょう。貴女が歩けば、道には花が咲き乱れ、貴女が眠れば、夜空の月さえもその美しさに嫉妬して雲に隠れる……!」


(そうよ! 月なんて隠しちゃいなさい! 太陽も今日は休業よ、私がここにいるんだから!)


私は脳内でスタンディングオベーションを送っていた。

ジルヴェスター、貴方、もしかして私のために「褒め言葉辞典」を丸暗記してきたの? 素晴らしいわ。その努力に免じて、次の関税交渉は0.5%くらいまけてあげてもいいわよ。


しかし、この超絶イケメン王太子。

褒め方が異常に「重い」のである。

彼は私の手を取り、まるで壊れ物を扱うようにそっと指先に唇を寄せた。


「ホメーテ王女。貴女の放つその高貴なオーラ……。私は今、酸素を吸うのも忘れるほどに見惚れている。貴女は、エスタシオン王国の至宝という言葉では到底足りない。全人類が、毎日朝昼晩と貴女の方角に向かって礼拝すべき存在だ」


「礼拝……。それはさすがに、やりすぎではございませんか?」


「いいえ! むしろ足りないくらいだ! 貴女を褒める言葉を並べるには、この世界の言語はあまりにも貧弱すぎる!」


ジルヴェスターの瞳が、情熱でギラギラと燃え上がっている。

……ちょっと待って。

いくら褒められたい私でも、これ、ちょっと様子がおかしくないかしら?

彼はただの「外交的なお世辞」で言っているにしては、あまりにも熱量が……というか、瞳の奥に「ガチ」の気配が漂っている気がする。


「ああ、ホメーテ王女! 貴女のその、少しだけ困惑したような眉の寄せ方さえも、世界一の宝石職人が生涯をかけて彫り上げた彫刻より美しい……! 私にもっと、貴女を称えさせてほしい! 許されるなら、これから三日三晩、休むことなく貴女の素晴らしさを歌い続けたい!」


(三日三晩!? それ、私が寝かしてもらえないってことじゃない!?)


至福の時間は、いつの間にか「耐久褒め殺しレース」へと変貌しようとしていた。

私の承認欲求は満タンを通り越し、もはや溢れ出して床をビショビショに濡らしているレベルだ。


「さあ、次は貴女のその聡明な知略がいかに大陸の歴史を塗り替えたか、第17章から語らせていただこう……!」


ジルヴェスターが懐から、何やら分厚い手帳(まさか全部私への褒め言葉か!?)を取り出した。


私の戦いは、まだ始まったばかりだった。

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