第7話 絶望の淵で、レジェンドと出会う
凛夏の世界が広がり始めます
「もう、全部終わりにしよう」
そう決意して飛び込んだのは、
唯一の安らぎである山本勇次の配信枠だった。
入室順位は3番目。
勇次は画面の向こうで、
いつも通り気だるげにコーヒーを啜っていた。
「お、ミサキさん。いらっしゃい。
……あれ、今日蓮くん配信してるよね?
なんでうちに来たの?」
勇次の素朴な疑問に、凛夏の指が震える。
『ブロックされちゃいました……』
コメント欄がざわついた。
そこへ、連の枠での騒動を知っているリスナーが
事情を書き込む。
ミサキが投稿した動画のこと、
それに対して連が名指しで罵倒したこと。
「……詳しく聞かせて」
勇次の目が、
これまでに見たことがないほど鋭く、
険しくなった。
凛夏がポツポツと状況を説明し、
『もうアプリ辞めようと思います』と打ち込むと、
勇次は鼻で笑って一喝した。
「辞める必要なんて、1ミリもないよ。
ミサキさんがいなくなったら俺が寂しいし。
あんな奴のせいで才能を潰すなんて、
作家としてもライバーとしても損でしょ」
(……え、寂しい?
勇次さんがそんなこと言ってくれるの!?)
あまりにもストレートな言葉に、
凛夏の涙が引っ込んだ。
「いい? ここは今日からミサキさんの避難所。
誰にも文句は言わせないから」
勇次の言葉に、
増えてきたリスナーたちも「何事?」と
最初は戸惑いつつも、すぐに
「俺たちもミサキさんの味方だよ!」
「ここにいればトップライバーとも繋がれるから、
連なんて忘れな!」と
過保護な親戚のような盛り上がりを見せ始める。
そこへ、
画面に衝撃のプロライバー入室エフェクトが舞う。
『大西直也が入室しました』
(……大西直也?
まさか、私が大ファンのあの天才ピアニスト!?)
固まる凛夏に
勇次がニヤリと笑う。
「おー、直也。いいところに来た。
ミサキさん、紹介するよ。
こいつが本物の大西直也。
プロのピアニストで、
このアプリのプロライバーだ」
レベルは驚愕の200。
画面の端で光り輝くプロの証。
「直也、この子さ。
推しにブロックされて病んでるんだけど、
配信も頑張ってるんだよ。
仲良くしてやって」
勇次の無茶振りに、凛夏は
『恐れ多すぎてコメントできません!』と
画面の前で悶絶した。
『はじめまして、ミサキさん。
勇次から聞きましたよ。
大変だったね。フォローしたから、
今度うちの枠にも遊びにおいで』
本物のレジェンドからのフォロー。
凛夏の頭は真っ白になった。
しばらくして直也は退室した。
「よし、直也の配信が始まったみたいだ。
みんなで行くぞ!」
勇次の号令とともに、
リスナー全員で大西直也の枠へ
「大移動」することになった。
勇次が配信を切り、
凛夏も慌てて直也の枠へ飛び込む。
そこは、別世界だった。
数千人のリスナーがひしめき合い、
高級ギフトが花火のように絶え間なく打ち上がっている。
「ミサキちゃん、いらっしゃい!」
直也がピアノの椅子に座ったまま、
カメラに手を振る。
驚いたことに、
そこにはトップライバーの健太をはじめ、
名前しか聞いたことがないようなプロライバーや
トップ層が勢揃いしていた。
(……え、この人、有名なモデルさん!?
こっちは人気俳優……!?)
プロフィールを覗くたびに心臓が跳ね上がる。
「ミサキちゃん、
繋がりたい人をどんどんフォローして挨拶しなよ。
ここの連中はみんな実力主義だから、
変な嫌がらせなんてしないからさ」
直也の言葉に背中を押され、
凛夏は震える手でトップ層の人々をフォローしていった。
『ミサキさん、よろしく!』
『遊びに来てくれるの待ってるよ!』
届くのは、連の枠の閉鎖的な空気とは正反対の、
カラッとした歓迎の言葉。
凛夏は気づいた。
自分が見ていた世界は、
この巨大なアプリの、
ほんの小さな水溜まりに過ぎなかったのだと。
お読み下さりありがとうございます
次回もお楽しみに♡




