第5話 画面が滲む、裏切りの夜
ゼロQLIVE」の世界は
結局のところ「人間関係」がすべてだ。
事務所の社長からも
「横の繋がりを大事にしろ」と
口を酸っぱくして言われていた凛夏は
自分の配信をこなしつつ
初見のライバーの枠へ挨拶回りをする日々を送っていた。
もちろん、心の本命はいつだって連だ。
そんなある日。
凛夏の配信枠に、一人の初見リスナーがふらりと現れた。
いや、初見ではない。
連の枠で何度も見かけたことのある
顔なじみのリスナーだ。
『ミサキちゃん、初配信おめ!
……っていうか、今ももかちゃんの枠
すごいことになってるよ』
不穏なコメントに、凛夏の手が止まる。
『ももかちゃんの配信で
連くんと一緒になって
ミサキちゃんのことバカにしてたよ。
あいつガチすぎて引くわー、とかw』
(……え?)
画面の中、コメント欄が一瞬で氷河期に突入した。
事務所の社長
これが「横の繋がり」のなれの果てですか?
凛夏は引き攣った笑顔を必死に張り付けた。
「あはは! それ、わざわざここで言う必要ある?w」
努めて明るく返すと
そのリスナーは『ごめん、空気悪くした』と
安物のギフトを一つ投げて
逃げるように去っていった。
『ミサキちゃん大丈夫?』
『気にするな!』
と流れるリスナーの優しさが
今は逆に痛い。
「ごめんね、みんな。
ちょっと空気が凍っちゃったから
今日は早めに終わるね!」
満面の笑みで配信を切った。
カメラのインジケーターが消えた瞬間
凛夏の顔から表情が抜け落ちた。
静まり返った部屋。
スマホを握りしめたまま
凛夏の目から大粒の涙が溢れ出した。
(ももかちゃんはいいよ。
最初から嫌われてる自覚あったし。
でも、連くん、あなたまで……?)
連が長時間配信をすれば
寝不足になりながら付き合った。
自分の食費を削ってギフトを投げ
彼の情けない愚痴も「そうだね、大変だね」と
全肯定で聞いてきた。
それなのに、裏では「引くわー」の一言で
片付けられていたのか。
そこへ、一通のDMが届く。
送り主は、連のリア友を自称するリスナーの海斗。
『お疲れー。
今日終わるの早くね? なんかあった?』
(……この人に話せば
光の速さで連くんに伝わる。
それは分かってる。でも……!)
凛夏は震える指で打ち返した。
『連くんとももかちゃんにバカにされてるって聞いて
泣きそうになったので。もう無理です』
感情のままに送信ボタンを叩き
スマホをベッドに放り投げた。
怒りと悲しみは
一晩寝ても収まらなかった。
「裏掲示板にぶちまけるのは卑怯。
私は作家。文章で戦うわ」
そう、これは正当な自己表現だ。
凛夏はアプリ内の
「日常動画」投稿機能に
名前こそ伏せているものの
誰が見ても連とももかだと分かる呪詛を書き連ねた。
『信じていた人に裏で笑われるのが
一番のエンターテインメントなんですね。
お幸せに』
その日は初めて
連の配信をボイコットした。
代わりに、別のライバーの枠へ潜り込み
リスナーたちに「聞いてよ、酷いと思わない?」と
愚痴をこぼし続けた。
一方、動画の存在を知った連のDM欄は
リスナーからの報告で炎上していた。
『連くん、ミサキちゃんが病んでるよ!』
『動画見た? あれ絶対二人のことでしょ』
「はあ!? なんだよこれ。
俺らが原因?
いやいや、俺はももかに話を合わせただけだし……」
自分たちの失言は棚に上げ
公衆の面前(アプリ内)で恥をかかされたことに
連は逆ギレ気味に唇を噛んでいた。
爽やかなイケメンの仮面が
今にも剥がれ落ちそうなほど険しい顔で。




