第12話 王者の降臨と身勝手な再開希望
粋のあるクリスタルと身勝手な連
「クリスタル様……私なんかのこと、
認知してくださってたんですか?」
恐縮しきりのミサキ(凛夏)に対し、
画面には王者の余裕が漂う関西弁のコメントが躍った。
『全部のコメントは読めへんけど、
ギフトくれた奴の名前は覚えとるで。
前にお礼言うたことあるけど、忘れとったんか?』
「あ……!」
ミサキは記憶の糸を手繰り寄せた。
かつてクリスタルの枠で勇気を出して投げた時、
「おお、ミサキ。おおきにな!」と言われたことがあった。
当時は初見でも呼び捨てにする彼のスタイルを知らず、
「同名の別のミサキさんだろう」と
スルーしてしまっていたのだ。
『呼び捨て嫌やったら言うてな。ちゃん付けしたるから』
「いえ! むしろ呼び捨て大歓迎です!」
即答するミサキに、
コメント欄は
『Mかw』
『大物すぎるw』と草の嵐。
『はは、おもろい子やな。また来るわ。ほなな』
クリスタルはそう言い残すと、
挨拶代わりと言わんばかりの高額ギフトを
画面いっぱいに爆発させて去っていった。
そのあまりに鮮やかな引き際に、
サブ垢で潜んでいた連(勝利)は、
もはや開いた口が塞がらなかった。
王者が去った後も、
ミサキの枠は熱を帯びたままだった。
そんな中、
かつては連の熱烈な信者だったリスナーが
ポツリと書き込んだ。
『……やっぱり、連くんより
ミサキちゃんを選んで正解だったよ』
「えっ、なんでですか?」
首を傾げるミサキに、
そのリスナーは滔々と理由を並べ立てる。
『これだけトップ層に愛されてるのに、
全然天狗にならない。
ギフトを煽るどころか、
小さな花束一つでも全力で喜んでくれる。
誰かの愚痴も悪口も言わないし……。
正直、連くんとは月とスッポンだよ』
これには山本勇次も『うんうん』と
力強く同意のスタンプを送る。
それをきっかけに、枠内は
「ミサキ褒め殺し大会」へと発展した。
「ミサキちゃんは俺たちの癒やし!」
「照れて顔真っ赤にするの可愛すぎw」
次々と投げ込まれる「可愛い」のコメントとギフトの嵐。
ミサキは「もう、やめてくださいよ〜!」と
スマホの前で悶絶するが、
その様子がさらにリスナーたちの「投げたい欲」を刺激する。
地獄のような連の枠とは対照的な、
多幸感溢れるお祭り騒ぎが続いていた。
配信を終えた凛夏は、
興奮冷めやらぬままファンクラブの管理画面を開いた。
そこにはクリスタル、大西直也、山本勇次といった
レジェンド級の名に加え、
多くのリスナーたちの名が並んでいる。
「……50名。嘘みたい」
新人カテゴリー卒業を控えたライバーとしては、
異例中の異例である。
中堅層の山本勇次ですら35名なのだ。
ちなみに、連のファンクラブには
現在、白百合ももかしかいないことを彼女は知らない。
その時、一通の通知が画面を横切った。
送り主の名を見て、凛夏の心臓がドクリと跳ねる。
「……連くん?」
ブロックを解除しなければ送れないはずのDM。
わざわざ外してまで何の用かと思えば、
そこには長文の謝罪と、
「また昔みたいに戻ってきてほしい」という
身勝手な言葉が並んでいた。
(……あの時、サブ垢で見てたのはやっぱり連くんだったんだ)
クリスタルがVIP会員になったのを見て、
自分の人脈に利用したくなったのだろうか。
かつての自分なら舞い上がったかもしれないが、
今の凛夏には、その魂胆が透けて見えた。
彼女は、一文字も返信することなく、
静かにスマホを閉じた。
一方、画面に「既読」のマークがついたのを
何度も確認しながら、連は爪を噛んでいた。
「……なんで返信が来ないんだよ。
俺がわざわざ謝ってやってるのに!」
自分の価値が暴落していることに
まだ気づけない男のイライラだけが、
暗い部屋に虚しく響いていた。
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