第9話 格差社会の洗礼
連が見た勇次枠での凛夏の姿
連(勝利)は大西直也の枠で
「紹介」された興奮冷めやらぬまま、
「よし、俺も配信して
トップ層のリスナーを奪うぞ!」と
意気込んで退出した。
その背中を見送った大西直也は、
ピアノの鍵盤を軽く叩きながら、
残った社長にさらりと苦言を呈した。
『社長、助言っすけど。
あの連って子
ミサキちゃんをブロックしたらしいじゃん?
しかもあそこの枠、
3ヶ月でリスナーが総入れ替えになるって有名だよ。
それって配信者としてどうなの?
少し教育し直した方がいいんじゃない?』
社長は冷や汗を拭いながら、
『……助言、ありがとうございます』とだけコメントし、
逃げるようにギフトを投げて退室した。
一方、山本勇次も
「俺も配信しよーっと」と抜け、
それを見たミサキ(凛夏)も
「また来ます!」と直也に挨拶をして、
馴染みの勇次の枠へと移動した。
数分後。勇次の枠に、
配信を始めたはずの連がひょっこり現れる。
「あれ、連。配信は?」
勇次の問いに、連は恥を忍んでコメントを打った。
『……誰も来なかったんで、切りました』
(……誰も来ない!? 俺、中堅層なのに……!?)
連のプライドは、開始早々ズタズタだった。
勇次の枠には、次々とリスナーがなだれ込んでくる。
『ミサキちゃん、お疲れ!』
『ミサキさーん、さっきの直也さんの枠すごかったね!』
後から来たリスナーたちが、
配信主の勇次を差し置いてミサキに挨拶をする光景に、
連は奥歯を噛み締めた。
「おいおい! まずは俺に挨拶でしょーが!
なんでミサキちゃんが先なのさw」
勇次が笑いながら突っ込む。
その和やかなやり取りを眺めていた連は、
ふとミサキの横に表示されている
「枠レベル」に目を疑った。
(……95!?)
その配信枠への貢献度を示すレベル。
連の枠で彼女が最後に見せたのは50だった。
だが、この半年で彼女は勇次の枠の超常連
——いわゆる「主」となっていたのだ。
ちなみに大西直也の枠でも30。
対する連は、
1年近く顔を出していなかったため、
レベルは「1」である。
ミサキを中心に楽しげに盛り上がる配信。
連は、その中に一言もコメントを挟めないまま、
ただ画面を見つめることしかできなかった。
その時、画面に「大西直也からバトル申請」の通知が届く。
「お、直也か。みんな、勝ちに行くよ!」
勇次が「受ける」をタップすると、
二人の画面が分割された。
通常5分程度のバトルだが、
なぜかこの二人は15分から20分という長時間設定で、
ひたすら喋り倒すのが恒例だ。
「直也、なげーよ! ピアノ弾けよ!」
「えー、だって勇次と喋りたいんだもん。
ミサキもそう思うよね?」
(……直也呼び。
……やっぱり、ミサキをトップ層に引き上げたのは、
この山本勇次だったのか)
連は自分の見通しの甘さに愕然とした。
バトルが始まると、
ミサキが先陣を切って高額ギフトを投げ始めた。
「ミサキに続け! 野郎ども、気合入れろ!」
勇次が熱く叫ぶ。
彼はバトル中、リスナーを愛着込めて
呼び捨てにするスタイルだ。
ミサキが投げると、他のリスナーも
「ミサキちゃんに続けー!」と一斉にギフトを投げ出す。
大西直也は『ミサキは勇次推しだもんねー』と
肩をすくめるが、
直也側のリスナー「レイコ」が超弩級のギフトを投下し、
メーターが真っ向から塗り替えられた。
「よっしゃー! レイコ!ナイス!」
直也が叫ぶと同時に、
負けじとミサキがさらに高いギフトを被せる。
「ミサキ、ありがとな! 無理すんなよ!」
漫才のような掛け合いの末、
バトルは終了した。
勇次はふと真面目な顔で付け加えた。
「ミサキちゃん、あんま無理しなくていいからね。
みんなも、ミサキちゃんにばかり頼らんどいて」
その言葉に、連は胸を突かれた。
自分はいつも、投げてくれるリスナーに
「もっと、もっと」と頼り切っていた。
自分の時より遥かに多額のギフトを、
楽しそうに勇次に捧げるミサキ。
連は、猛烈な嫉妬とイライラに苛まれながら、
暗い部屋でスマホの光を睨みつけていた。
お読み下さりありがとうございます
次回もお楽しみに♡




