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はつ恋
彼女は花圃に突っ立ていた。華やかな花々、果てしない地平線、澄んだ青空、聳える夏雲。それら総てを彼女が領していた。彼女を取り囲む総てが、まるで彼女の一部のように思え、その完成された、謂わば名画の様な実景は私の心躰に安らぎを与えた。風はおろか音も無く時間すらも忘れ去られ、真の静寂を私は初めて知った。しかし美は永くは続かない、煙草の煙のように認識した直後には空に還ってしまう。それが世の常なのだ。それを知ってか知らずか鳳蝶が数匹、何処からともなく飛び立った。寸後、颶風が巻き起り彼女の世界は予期された崩壊へと歩みを進め始めたのである。崩壊の最中、彼女は私を見つめ微笑む。その悪戯めいた微笑は自分の運命を知らぬようである。これが私と彼女との最初の出逢いだ。あまりにも完成された出逢い、これ以上の出逢いを私は知らない。