第16話 森の民と骨面猿
(間に合え!)
気配を感じる方に向かい、ひたすら走る。
枝が顔をかすめる。
足元の木の根に躓きかけ、転びそうになる体を立て直す。
この数ヶ月、森の中で毎日狩りをすることで俺は新たなスキルを手に入れていた。
気配探知Lv5。
探知に引っかかっている魔物の数は四体以上。
そのすぐ近くに、人の気配が一つか二つ。
(……囲まれてるな)
興奮する魔物。
ケガをしているのか、その場から動かない人の気配。
人側の劣勢は明らかだ。
どんな魔物かは分からないが、俺が加勢したところで一緒にやられるだけかもしれない。
「でも、だからと言って見過ごせるかっ」
毒づきながらも足は止めない。
そうして走っていると、木々の隙間から少しだけ開けた場所が見えてきた。
そこは森の中にあって、わずかに木々が途切れた場所だった。
中央の大きな木の幹を背に、ひとりの男が立っている。
長い耳。
日焼けした肌。
緑がかった革の胸当てと、長弓。
「……エルフ?」
足を止めた俺は、前世でも今世でも見たことのないその姿に思わず呟く。
男は右足を庇うように半歩引き、弓を構えながら周囲を睨んでいる。
ズボンには血が滲み、動きもどこかぎこちない。
そしてその頭上。
太い枝の上。
そこには同じく長い耳を持つ少女が身を屈め、しゃがみ込むようにして弓を構えていた。
肩までの栗色の髪を後ろでひとつに結び、薄緑色のチュニックに軽装の革鎧といういでたち。
手には小ぶりの弓。
だが、腕が震えている。
矢はつがえているものの、とても当たるとは思えないような有り様だった。
「ギャッ、ギャギャッ!」
「キィィーー!」
周囲から聞こえてくる、囃し立てるような耳障りな声。
よくよく見ると周りの木々の影に、猿のような魔物が取り付き隠れている。
もちろんただの猿じゃない。
頭には、動物の頭骨をそのまま被ったような白い仮面。骨の眼窩の奥にはぎらぎらした黄色い目が光っている。
手の爪は異様に発達し、隙あらば獲物に襲い掛かろうと、木々の間を移動しながらエルフたちを取り囲むように石や木の実を投げつけている。
(……スカルエイプか)
ゲーム『シルフェリア・ノーツ』にも登場する頭骨の面を被った猿型モンスター。
単体だとそこまで強くはないが、群れで出てくると木々に隠れながら入れ替わり立ち替わりで攻撃してくる厄介な連中。
たまに投げてくる木の実には中に毒や睡りの粉が仕込まれていて、割れるとそれが周囲に撒き散らされる。
あげく接近を許せば、あの長い爪で即死攻撃をかましてくるえげつなさだった。
(よりによってあいつらか)
俺は猿に気づかれないよう、木陰に身を隠しながら状況を観察する。
エルフの男は飛んでくる石や木の実をギリギリのところで避けていた。
ときどき弓を引いて反撃するものの、足を痛めているせいか狙いが安定せず、なかなか当たらない。
「おじさん!」
木の上の少女が叫び、男に背後から近づこうとしていた猿に矢を放つ。
「キィッ!」
が、狙ったスカルエイプはひらりと身を翻してそれを避け、再び木々の奥へ逃げ込んでしまう。
「くっ……!」
顔を歪める少女。
その時だった。
バシッ!
「きゃっ!!」
別のスカルエイプが少女を狙って石を投げ、それが彼女の弓に命中する。
「あっ!!」
手から弓が滑り落ち、地面に落ちてカランと音を立てた。
(やばいな。あのままじゃジリ貧だ)
確認した限り、二人を襲う猿は六体。
負傷したエルフの猟師が一人。
武器を落としたエルフの少女が一人。
猿どもは明らかに二人をおちょくり、遊んでいる。
ゆっくりじっくり、なぶり殺しにするつもりなんだろう。
ク◯が。
(どうするか––––)
スカルエイプのレベルは20前後。
俺が近距離でやり合えるのはせいぜい一匹だ。
あの数の敵中に飛び込めば、一匹と戦ってる間に背後からザックリやられるのが目に見えている。
(……やっぱり奇襲と搦手でいくしかないか)
俺は腹を決めると、スライムびんを召喚した。
「さあ、戦闘開始だ」
俺は右手のびんを、一番近くのスカルエイプに投げつけた。





