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ヒーロー試験・終了

モンキーガイの試合ブースから出ると、他の受験者達は目を丸くして呆然としていた。

そして受験者の半数くらいは俺を、もう半数はデーモンマンの試合ブースを凝視していた。


デーモンマンの試合ブースでは、丁度ソイの試合が終わったところで、出てきたソイと鉢合わせた。


「よっ、ソイちゃん。そっちの試合はどうだった?」

「それなりに高得点だったよ。カラーボールは4つ当てることができたけど、向こうの攻撃も1つ当たっちゃってさ。幸い、左足にちょっとついた程度だったから減点は少なかったよ」


プロ相手にカラーボールを4つ当てられるソイも凄いが、異能がチートすぎるソイ相手にカラーボールを当てられるデーモンマンも凄いと思う。

他の受験者は、そんな二人のハイレベルな戦いを見たせいで、驚いて固まっていたのだろう。


「ゼンのおかげで、尻尾の動きを予測しやすかったよ。それでも、ゼンみたいに全部を避けるのは難しかったけどね。戦ってみて改めて思ったけど、プロの胴体にカラーボールを当てられるなんて、凄いねキミ」

「はは、褒められると照れるな」


俺は思わず笑みが溢れた。


「ゼンはモンキーガイとの試合はどうだったの?」

「まぁ、色々あったけど満点もらえたよ。これで合格確定だ」


「えぇ?! また満点? ……それで、この空気か」

「ん? どうかしたか?」


「キミ、みんなの注目の的になっているのに気づかないの? 二人のプロヒーローに圧勝する鬼才は目立って当然だよ」


「圧勝って程でもないけどな。勝つまでに割と手こずっていたし。そう言うソイだって、相当目立っていると思うぞ? なんせヒーロー映えする強力な異能ばっか持っているんだからな」


「確かにジロジロ見られているなぁとは思うけれど、キミほどじゃないよ。ところで、ゼンは合格ラインを超えたんだよね? だったら3人目とは戦わないの?」


「どうだろうな? とりあえず試験官に聞いてみるか」


俺は、さっき試験内容を説明してくれた女性試験官を探して、話しかけた。


「すみません、質問よろしいでしょうか?」

「どうしましたか? もしかして、棄権しに来たのでしょうか?」


棄権?ある意味そうなるのか。


「はい、そのことについて尋ねに来ました」

「やっぱり。来ると思いました。実技試験前のチェックをうまく誤魔化せたところで、どうせ実技試験に合格できないのですから、最初から諦めて帰ればよかったのです。プロのヒーローはいかがでしたか? 実力差を嫌というほど感じたでしょう?」


どうも話が噛み合わない。

女性試験官は何か勘違いしているようだ。


「先程、2人目のヒーローとの試合を終えたのですが、その時点で合格ラインの80点を超えました。3人目と戦う必要はありますでしょうか?」


「……え?」


女性試験官は、まるで俺の言ったことが頭に入っていないかのように、目を丸くして固まった。


「すみません、聞き間違いかもしれないので、もう一度話してくださいますか?」

「ヒーロー2人と戦った時点で80点を超えたのですが、それでも3人目と戦うべきですか?」


すると、ようやく俺の言ったことが理解できたのか、大きな声をあげて驚いた。


「嘘!? あなたが?」

「はい。信じられないのでしたら、デーモンマンさんとモンキーガイさんに確認してください」

「僕も彼が戦っているところを見ていました。彼の言っていることは本当です」


女性試験官は俺に疑いの眼差しを向けながらも、渋々確認を取る。

そして俺の言ったことが事実だとわかった途端、苦虫を噛み潰したような顔で俺を見た。


「本当のようですね。でしたらモーメン・トイ戦を棄権しても合否に影響はありませんので、お好きにどうぞ」


お好きにどうぞ、と言われたら、戦うかどうか迷ってしまうな。


「じゃあ棄権し……」

「へぇ〜、棄権するんだ。やっぱ大したことないじゃん」


すると突然、俺を煽るような声が背後から聞こえてきた。

振り返るとそこには、ピエロのような格好をした少女が、風船ガムを膨らませながら立っていた。


「モーメン・トイ! 貴女、なぜここにいるのですか? 試合はどうしたのです?」

「だって〜、誰も来ないんだもん。暇だし来ちゃった」


彼女がモーメン・トイか。

興味本位で異能を鑑定してみる。

……う〜ん。彼女には勝てる気がしない。


「いくら暇だからといっても、貴女は……」

「それよりキミさぁ、他の2人に圧勝したくせに、最後の最後で逃げちゃうワケ? ダッサ! 超ダッサ!」


少しカチンときたが、ここで挑発に乗ったら彼女の思う壺だ。


「てか、どうせ『2人のプロヒーローに圧勝できたからモーメン・トイ(わたし)にも余裕で勝てる』とか思ってんでしょ? 甘いね。本気の私は、あの2人とは桁違いに強いから」


「でしょうね。だから俺は、負けるのがわかっているので棄権します」


「負けると知ってるから戦わないの?! ヤバい、真正のチキンじゃん! ダサすぎでしょ! もしかしてアンタ、チェリーボーイ?」


レディにここまで煽られて戦わないのは、流石に男が廃る。


「わかりました。でしたら、戦います」

「そう来なくちゃ! 調子乗ってるアンタに、プロの本気を見せてあげるから。プロヒーローの面子にかけて、アンタを潰す!」


出る杭は打たれるとは、このことだろう。

きっと二連続で満点を取ったせいで、彼女に目をつけられてしまったのだ。

俺はため息をついて、渋々モーメン・トイの試合ブースへと向かった。


「怖気付いて逃げなかったことだけは褒めてあげる。大丈夫、一瞬で終わらせてあげるから」

「『一瞬で』ですか」


十中八九、あの異能を使うのだろう。

俺に勝ち目があるとすれば、あの異能を使われる前に透明化できた時だけだろう。

限りなく不可能に近いが、戦うと決めたからには成功させたい。

俺は瞬時に透明になれるよう、審判役の試験官の声に神経を研ぎ澄ませた。


「それでは、試合開始!」

その合図と同時に、俺は瞬時に透明になった。

……つもりだった。

俺の頭や胴に何かを勢いよくぶつけられたかのような感覚もある。


「はい終了〜! 透明になってもムダです、お疲れ様〜!」


やっぱり駄目だったか。

『時間停止』の異能は流石にズル過ぎる。

こんな異能を使われたら、誰も勝てないじゃないか。


せめて時間停止の異能が、俺の時間を操るものであれば異能無効化の異能で防げたのに。


異能無効化は万能じゃない。

鑑定の異能やモンキーガイの毒霧のように、俺に直接干渉する異能しか無効にならない。

例えばソイの持つ超加速の異能は、あくまでソイ自身に干渉する異能だ。

だから俺の異能で超加速を無効化することはできないし、ソイが仮に超加速で俺に突進してきたら、超加速を加味したダメージを喰らうだろう。


今回のモーメン・トイの時間停止は、あくまで時間そのものに干渉するから、俺の異能でも防げなかったわけだ。



俺は透明化を解除する。

そして身体を見てみると、やはり染料で真っ赤になっていた。


「上には上がいるのよ♪」

モーメン・トイは得意顔で、勝っても尚、俺を煽る。

負けるとわかっていたとはいえ、やはり負けると悔しい。





まぁ、この後時間を戻すし、その時に再チャレンジしてみるか。


俺は今日の終わりに『死に戻り』の異能を使って、今日の始めまで時間を戻した。

そして1周目の自分と同じように、試験官に帰れと言われた後、土下座をして、デーモンマンやモンキーガイと戦った。

その後、1周目と同じようにモーメン・トイの挑発に乗って、再び戦うことになった。


今度は勝てるだろうか?


「はい終了〜! 透明になってもムダです、お疲れ様〜!」


あぁ、またこの台詞か。

負け確定演出によって、俺は2周目も失敗したことを悟った。


その後、3周目、4周目……100周目、1000周目……。

何周しても一向に勝てない。


俺はいつしか、モーメン・トイが『はい終了』と告げるタイミングを正確に把握できるくらい、負け続けていた。


次こそはモーメン・トイより先に透明化したい。

とは思っていても、今回も失敗するんだろうなぁ。


「「はい終了〜! 透明になってもムダです、お疲れ様〜!」」


そんな思いがあったからか、俺は無意識のうちに、モーメン・トイの台詞を寸分違わずに被せて喋っていた。


「え、なにアンタ。キモいんだけど!」


これには流石のモーメン・トイも引いていた。


「すみません。耳にタコができるくらい何度も負けてたので、気づいたら被せて喋ってました」

「はぁ? 意味わかんないんだけど。ってか、アンタと戦うの、初めてだし」


「俺、何度かタイムリープしているので」


本当は死に戻りだが、それを言ったらもっと引かれるだろうと思ったので、敢えてタイムリープだと言った。


「へぇ。なかなか面白い異能を持ってんじゃん。それで、アタシに勝つまで時間を戻しているワケだ」

「はい」


モーメン・トイに勝つためだけに時間を戻しているわけではない。

が、それを言ったら面倒なことになりそうなので、言葉を飲み込んだ。


「言いたいことはわかっています。時間を戻してやり直すなんて反則ですよね。勿論、最終的には1周目と同じように負けるつもりです。ただ、一回だけでも勝ってみたいと思ったのでチャレンジしました」


「別に反則じゃなくない? だってソレもアンタの異能でしょ? だったら勝てるまでやればいいじゃん!」

「えっ?! いいんですか?」


「当たり前でしょ。まぁ、どうせ何度やり直したところでアタシが勝つけどね〜♪」


なるほど、勝者の余裕というヤツか。

それならお言葉に甘えて、勝てるまでやってみよう。


…。

……。

………。

というやりとりをしてから、俺は一体何周しただろうか?


少なくとも体感では1万周は超えている。

それでも今までモーメン・トイには勝てなかった。



今日という日でやり残したことはないし、もうそろそろ明日へ移行するか。

泣いても笑っても、次でラストだ。


俺は覚悟を決めて、最後のモーメン・トイ戦に挑んだ。


「怖気付いて逃げなかったことだけは褒めてあげる。大丈夫、一瞬で終わらせてあげるから」

「『一瞬で』ですか」


そうだな。

何度戦っても、勝負は一瞬で終わった。

今回も一瞬なのか?

それとも…。


「それでは、試合開始!」

はい終了〜!

透明になってもムダです、お疲れ様〜!



って……あれ?


モーメン・トイ、いつもの台詞を言っていないよな?

何度も言われたせいで、一瞬幻聴が聞こえた。


身体には何かをぶつけられたような感覚はないし、審判も終了の合図を出していない。


…ということは!


「よっしゃぁ!! やっと成功したーっ!」

俺は思わず、ガッツポーズをして大声で歓喜した。


モーメン・トイは透明化した俺を警戒してか、姿を現さない。

いや、正確にはモーメントイの残像が点滅するかのように、あちこちに現れては消えるを繰り返している。


きっとモーメン・トイは時間停止を連続で使っているのだろう。


①時間を停止する

②俺がどこから攻撃してくるのか探す

③時間停止を解除する


……というのを延々と繰り返しているから、点滅しているように見えるのだろう。


きっと今、彼女にカラーボールを投げたところで確実に避けられる。

だから俺に出来ることは、このまま時間切れになるまで透明化して引き分けに持っていくことくらいだ。


その結論に至った俺は、大きく伸びをしながら5分が経過するのを待った。


……ん?

ちょっと待てよ?

よく考えたら、普通に勝てる方法があるんじゃないか?


試合開始から3分経過したタイミングで、勝つ方法が閃いた。


俺は分身を出すと、ジャイアントギャガーに変身した。

ジャイアントギャガーは日本のヒーローで、その肉体は一軒家くらい大きい。

試験会場を潰さないようにうずくまって、試合ブースの中にギリギリ収まったところで、分身の透明化を解除した。


するとモーメン・トイは逃げ場を失って、移動するスペースが大幅に減った。

そこから俺は分身を1人ずつ出しては、空いているスペースに埋まり、モーメン・トイの逃げ場を潰す。


やがてモーメン・トイは逃げ場を失い、分身の俺に挟まったまま()()しなくなった。

透明化した本体(おれ)は彼女に近づき、カラーボールをぶつけて染料をつけることに成功した。


「試合終了!」


審判の合図とともに、俺は分身を消して透明化を解除した。

するとモーメン・トイは歯を食いしばって、俺を睨みつけた。


「ちょっとアンタ、何なのよアレは! 反則でしょ!」


えっ?!

やっぱり時間を戻すのは反則だったのか?


「すみません。でしたら今回の試合は0点で構いません」

「いや、そういう意味で言ったんじゃなくてさぁ」


じゃあ、どういう意味だ?

俺がすんなり反則を受け入れたからか、モーメン・トイはバツが悪そうにした。


「とにかく、時間止めるより先に透明になるなんてズルい! アンタが勝てたのは、たまたま私より先に動けたからってだけで、本当なら絶対にアタシが勝ってたんだから!」


ああ、その通りだ。

今回勝てたのは本当にマグレだ。


「まぁでも、結果は結果だし、満点つけとくよ。くれぐれも、私に勝ったからって調子に乗らないこと!」


モーメン・トイに凄まれたものの、初めて満点をもらうことができた。

試合ブースから出ると、他の受験者達だけでなく試験官達も、俺をジロジロと眺めてはコソコソと噂話をしていた。

1周目の時は誰も俺のことを見ていなかったから、初めての展開に戸惑う。


そこに1周目同様、女性試験官がやってきて俺に話しかけた。


「モーメン・トイまで倒してしまうなんて…! 貴方、一体何者なんですか?」


負けた時は散々モーメン・トイと一緒に小馬鹿にされていたので、彼女の驚く顔を見てちょっとスカッとした気持ちになった。


「3人のプロヒーロー相手に満点だなんて、こんな事、数年に一度あるかないかの快挙です。非常に不服ですが、貴方の実力を認めざるを得ません」


俺、まだこの人に認めてもらえてなかったんだ。


「風間善さん。ヒーロー試験、合格おめでとうございます。これからの活躍に期待してますよ」

「ありがとうございます!」




アメリカに来て早半年。

ようやく俺は、この国にヒーローとして認められた。

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