ヒーロー試験・デーモンマン戦
ヒーロー試験の模擬試合。
俺が最初に選んだ相手は、デーモンマンだ。
デーモンマンは、コウモリのような黒い翼と、7本の黒くて長い尻尾を持っているダークヒーローだ。
尻尾と翼の色に合わせて、真っ黒な全身タイツを着て、ヤギのお面を被っていた。
アメリカンヒーローらしい筋骨隆々な肉体は、全身タイツによって、より際立っているように感じた。
日本だと中肉中背のイケメンヒーローがモテるから、デーモンマンみたいなヒーローは新鮮に感じる。
アメリカのヒーローはマッチョが好まれると聞いたことがあるから、きっとデーモンマンも人気ヒーローなのだろう。
「それでは、試合開始!」
審判役の試験官がそう宣言すると、俺はすぐに下準備をしてデーモンマンに近づいた。
俺が分身を複数作り出すと同時に、人の脚くらいの太さの尻尾が、何本も勢いよく俺に向かって伸びてきた。
デーモンマンの異能を事前に鑑定していなかったら、コレを尻尾だと理解できずに戸惑っていただろう。
デーモンマンは『サイズ変更』の異能を持っている。
だから電線くらいの太さしかない尻尾を『サイズ変更』で大きくすることで相対的に太くしているのだ。
分身達は、襲い掛かる尻尾を避ける。
だが突然、何もない空間から尻尾が現れて、一体の分身を勢いよく叩きつけた。
攻撃を喰らった分身は、あまりのダメージに消滅してしまった。
このカラクリも異能を鑑定していなかったら、理解できていなかっただろう。
デーモンマンは『ワープ』の異能を尻尾に使うことで、あらゆる方向から尻尾をワープさせて攻撃している。
デーモンマンの尻尾の先を確認すると、それを証明するかのように、何本かの尻尾は次元の穴のようなものに入っていて尻尾の先が切れていた。
「これであと9体。だが、本体は貴様だ!」
するとデーモンマンは本体目掛けて、まるで鷹が獲物を狙うかのように勢いよく飛びかかった。
そして手に持っていたカラーボールを投げつけた。
咄嗟に近くにいた別の分身でガードしたものの、分身の胴体にはベッタリと染料がついてしまった。
「分身に染料がついた場合も、失格になるんでしたっけ?」
「無駄な心配はするな。じきに本体にもつけてやる」
デーモンマンは器用に尻尾で分身を攻撃しながら、逃げる本体を追いかけ、カラーボールを投げるタイミングを見計らっている。
分身の一人がデーモンマンの背後から近づくことができたため、俺はその分身にカラーボールを投げさせようとした。
だがカラーボールを投げる直前に尻尾の攻撃を喰らい、分身はカラーボールを地面に落として消えてしまった。
「これで残り8体、カラーボール4つだな」
その後、攻防を繰り広げ、残り時間は1分を切った。
その間に俺はカラーボールを3つ投げたが、全て躱された。
しかもデーモンマンの攻撃によって、分身は6体も消されてしまった。
だけどデーモンマンのカラーボール攻撃も当たっていないから、お互い無傷だ。
「これで残り2体。カラーボール1つだ。ここまで生き残れるとは、貴様、なかなかやるな」
「お褒めいただき、ありがとうございます。デーモンマンさんも分身を8体も倒すなんて凄いです」
「8体じゃない。9体だ」
デーモンマンと悠長に会話している間に、分身がまた一人、消されてしまった。
「これで残るは本体だけだな」
デーモンマンは俺目掛けてカラーボールを一直線に投げてきた。
不意打ちでも死角からでもない、わかりやすい攻撃だ。
舐められたものだ。
「さすがにコレは避けれますよ」
俺は、まっすぐ飛んできたカラーボールを左に逸れて避けようとした。
がしかし、急に四肢を紐のようなもので縛られて身動きが取れなくなった。
「これで終わりだ」
そのまま身動きが取れず、俺はカラーボールを胴体に喰らってしまった。
一瞬、何が起こったか理解できなかったが、デーモンマンの尻尾を見て、そのトリックに気がついた。
デーモンマンの尻尾は7本あるにも関わらず、俺に襲いかかっていた尻尾は3本しかなかった。
尻尾の先を見てみると、7本中3本は切断されたかのように途中で切れている。
だけど残りの4本は、不自然に短く、先が尖っていた。
恐らくデーモンマンは、目視できないレベルまで尻尾を小さくした後、『伸縮自在』の異能で尻尾を伸ばし、俺に気づかれないように近づいた。
そして機を見計らって、尻尾で俺を縛り、身動きを取れなくしたんだ。
カラーボールが本体に当たったのは残念だったが、狙い通りだ。
俺は分身を消して種明かしをした。
「何っ?!」
デーモンマンが驚くのも無理はない。
なんせデーモンマンが本体だと思っていたのは、分身だったのだからな。
俺は試合開始と同時に、分身を本体に見せかけるトリックを使っていた。
分身は基本、本体から分裂するように現れる。
だから本体が透明化するのと同時に、複数分身を出し、そのうちの1体を本体とぴったり重なるように出すと、あたかもその分身が本体であると錯覚させることができるのだ。
本物の俺は、透明になってデーモンマンのすぐそばにいる。
「どういうことだ?!」
デーモンマンが慌てて本体を探している間に、俺は持っていたカラーボールを全てデーモンマンの胴体へとぶつけた。
デーモンマンの真っ黒な全身タイツは、染料によって鮮やかな赤色になった。
「これで終わりですね」
それを見た審判役の試験官は、試合終了を告げた。
デーモンマンは唖然としながらも、俺を採点した。
結果は勿論、50点満点だ。
ブースの外から試合を見ていた他の受験者達は、その試合結果に、目が点になっていた。
「これ程の実力者だったとはな。一緒に働けるのが楽しみだ」
「ありがとうございます。デーモンマンさんと一緒に働けるよう、残りの試合も頑張ります」
俺はデーモンマンと握手してから、試合ブースの中から出た。
外へ出ると、ソイや他の受験者達が、出迎えるように俺を見た。
「ゼン、お疲れ様。さっきの試合、凄かったよ! プロのヒーロー相手に圧勝だなんて、君は相当な実力者だったんだね」
「まぁな」
これでも元・日本のトップヒーローだし。
「ソイはもう戦ったのか?」
「いいや。ちょっと緊張しちゃって。でもゼンの試合を見て、デーモンマンがどんな技を使ってくるか分かったから、僕もこの後戦おうと思う」
「そうか、頑張れよ。見てて分かったとは思うけど、デーモンマンは尻尾を伸ばしたりワープさせたりして攻撃してくる。目視できないレベルで小さくしている尻尾もあるから、見逃し注意な」
「小さい尻尾もあったんだ。そこまでは気付かなかった」
「最後の方に、俺が身動き取れなくなっていただろ? あれは小さい尻尾に巻きつかれて動けなくなっていたんだ」
「へぇ〜。そうだったんだ。君、分析力も凄いんだね」
「まぁ、鑑定の異能を持ってるからな。相手がどんな技を使ってくるか、ある程度予想できる」
「便利な異能だね。だったら、次の試合も余裕なんじゃない?」
「どうだろうな。とりあえず、次はモンキーガイと戦ってくるよ。お互い、合格できるように頑張ろうな!」
俺はソイとグータッチをして健闘を讃えあった後、モンキーガイの試合ブースに入って、試合を申し込んだ。




