55話 混戦
帝王種
この地に初めて足を踏み入れた偉人として知られる「始まりの人」の力の一端を有していると言われ、世界に認められた帝王は同族の魔物を使役する。
高い知能を有し、普通の魔物は持たない固有能力を保有している。
トワたちが出会った帝王種は『闘豚猪』の帝王種オークロードは『暴徒』。一定時間、膂力とスピードを飛躍的に上昇させるスキルである。
「竜帝のスキルは何だ?」
「たしか『再生』だったか?どんだけダメージを与えても時間をかければ傷が癒えるってやつだ」
「反則だろ」
「それに加えて、この量のドラゴンってのはシャレにならないぞ」
ジギラスは嘆息混じりにあたりを見渡す。
彼らを囲むのは数えるのも億劫になるほどのドラゴン。
それぞれがAランク相当の魔物である。
「ずいぶんカラフルだね」
「そうですね………。赤、緑、青……、あっ白色のドラゴンもいますよ」
「楽しそうにしているところ悪いんだが、ちょっとは警戒してくれ」
アイシャだけは表情に変化が見られないが、腰にぶら下げていた2振りの剣を抜く。
〈六神天将〉の彼女をもってしても予断を許さない状況なのであろう。
「撤退は…………出来ないよな。四方を囲まれてるし、したところで戦争が始まったら俺たちの負けだ。やるしかないのか?」
「賛成だね。逃げられないんだったら殺るしかない。とりあえずジギラスたちはあの黒いのを足止めしといて。私とトワ君は周りのを片しておくからさ」
もうリーティアはやる気だ。
魔素を身体中に巡らし、身体能力を向上させる。同時に長剣にも魔素をコーティングすると、空気さえも断絶するかのような重厚な輝きを見せる。
「了解した。お前ぇ等も一緒に行動しろよ。この足場じゃ普段のように戦えないだろうからな。こっちは俺とアイシャに任せて暴れろ」
「はい。戦闘は私たちの中では得意ではない方なのですが、精いっぱい頑張ります」
2人もいつの間にか戦闘準備を整えている。
トワだけが未だに目の前の絶望から目を背けようとしていた。
彼の眼の奥にあるのは数か月前のオークロード。触れられたら死という緊張状態での戦闘を強要されたあの時の記憶が蘇り、足が震える。
帝王種というトラウマからミラの時以上の恐怖を感じていた。
(なんでここにこんなに強い魔物がいるんだ?鉱山に行くには必ず通る道に。まさか罠なのか?だとしたら誰が。まさか、考えたくはないがアイシャなのか?)
ネガティブな感情はネガティブな思考を惹起する。
自分たちがここに来る原因となったのは確実に鉱山のせいで、それを教えてくれたのは………。
「はぁ………はぁ………」
冷汗が吹き出て、呼吸も短くなる。
動悸も激しさを増し、下半身の感覚も消える。
こんな状態では戦う事さえも━━━━
「大丈夫だよ、トワ君。トワ君はあの時よりもずっと強くなってるんだもん。死闘で得たもの、学校で習ったこと、ジギラスに殺されそうになりながら学んだこと。いろいろあるじゃん。トワ君は死なないよ」
「――――!」
そう、あの時とは違う。
彼女の言葉で多くのことが思い起こされる。
恐怖だけではない。
戦う勇気も、勝利への希望も。
「ああ、そうだな。俺は死なない」
魔素が踊る。
空間を支配し、魔素を使役し、幾重もの魔法陣を展開する。
「ここは通過点だ。すぐに終わらせるぞ」
■□■□■□
『行け。殺したら喰らっていいぞ』
アセシナートの命令の通り、色とりどりの竜がトワたちの下へと飛翔する。
「行きますよ!ジギラス君」
「分かってる」
同時にアイシャとジギラスはアセシナートに挑む。
彼の竜帝を自由にさせたならば、すべてが破壊されかねない。
「私たちも行こう」
「おう。余計なことを考えるのは後回しだ」
トワは応えるが早いか、展開していた魔法陣に魔素を通す。
アセシナートが拠点にしているからか、ここら一帯は魔素濃度が高く、トワもこれまで以上に魔法が自由に使える。
「星雨」
もはや使い慣れた中級魔法『星雨』を天空に設置し発動する。
濃縮された魔素が何匹ものドラゴンに風穴を開けるが、巨体を誇る魔物は意に介さず彼らを襲う。
「少しくらい躊躇しろよ」
「帝王種のせいもあるかもね。命令に逆らえないのかも」
リーティアは剣を構え、竜の攻撃を受け流す。
当たれば即死のものばかりではあるが、大振りな分攻撃を受け流すなど彼女にとっては児戯にも等しい。
トワも口を大きく開けて近づく魔物を余裕をもって避け、横顔に魔法を喰らわせている。
もちろんそれだけで死ぬドラゴンではないが、明らかにダメージは負っている。
顔の半分を焦がしていたり、もう飛べない程翼に切り傷を負ったりなど。
Aランク相当の魔物とは思えないほどに、そう、言うなれば、弱かった。
「どういうことだ?思ってたよりもずっと楽だ」
「だよねぇ。これは私の予感が当たってたのかも」
「予感?」
リーティアの予感とは次の通りだ。
魔物を操る帝王種ではあるが、どの程度正確に操れるのか。
答えは「全て」なんじゃないか。
やろうと思えば行動の全てを完璧に操ることができるのではないか。しかし、すべての魔物を支配下に置くことは不可能だ。いや、帝王種自身も戦闘中ならば1体の魔物すら正確にコントロールするのは難しい。
いわば、運動をしながらゲームをやっているようなものだ。
そのゲームを何台も同時に操作するのは、いくら高い知能を有している帝王種であろうと不可能なのではないか。
「なるほどな。だから簡単な命令だけをしてオート化してるってことか」
「そうなんじゃないかな。今思えばオークロードの最期、私の後ろのオークを操っていたからアイツ自身も弱かったんだよ。あの時の私がオークロードに勝てるとは思えないし」
「でもだったら操作しなければいいんじゃないか?魔物の全てが本能に従って戦った方が厄介なわけだし」
「知らないよ。近くにいたら勝手に操作するようになっちゃうのか、それとも操作しなければいけない理由があるのか………。ま、そこら辺は学者の人たちに頑張ってもらいたいね」
しかし、彼女の予感は大方当たっているのだろう。
オート化された動きは予想しやすく、撃退は難しくない。もちろん当たったら即死の攻撃ばかりで油断は禁物だが、余裕は持てる。
と、思っていたが………。
「待って、トワ君!いったん引くよ!」
「!?了解」
意味も分からないままその場を引くとすぐに、上空から炎のブレスが押し寄せる。
上を向けば、赤い色のドラゴンが翼をはためかせており、口からは焦げたような黒い息が漏れていた。
「魔法か?」
「スキルじゃないからそうなのかな?ドラゴンの生態なのかもしれない」
「赤色が炎なんだったら、他の色もヤバいかもな。警戒しておくぞ」
「はーい」
トワの言った通り、近くにいた青色のドラゴンが力を入れて地面を踏む。
瞬間、殺気を感じた2人が避けた場所には鋭い氷柱が何本も生えてくる。
氷の魔法だろうか。
裕に人を殺せる魔法を魔法陣の展開もなしに発動しているのだろうか。
「ちょっと面倒になったね」
「誤差の範囲だ。俺が魔法を撃って少し数を減らす。持ちこたえてくれ」
「りょーかい」
トワの作る魔法陣は先ほどとは違い、初級魔法『土槍』だ。
しかしつぎ込む魔素は初級魔法とは思えない量の魔素だ。
魔法陣が完成した瞬間にトワは手を地につけ、地面に変化をもたらす。
「土槍」
発生と同時に青色のドラゴンに地面から生えた槍が貫く。すぐに生命活動を終えた様にぐったりと倒れこんだところを確認すると、リーティアが飛び出す。
狙いは上空にいる赤いドラゴンだ。
土槍を足場に常人離れしたジャンプ力で跳びあがり、一閃。
「落ちて!」
少女の剣の煌めきは竜の首を落とし、その首すらも足場に上空に残っている竜を何体も地上に落としていく。
「どっちがバケモノか分からねぇな」
「トワ君聞こえてるよ!」
「…………すんません」
空中を闊歩する彼女は正に流れ星のようで、彼女が通った後は竜が堕ちていく。
空から落ちてくる竜に地上にいる竜が潰され、それでも行動不能に陥る。
「この分だったらあと20分もすれば向こうに加勢に行けるかもな」
「それまでアセシナートが何もしてこなかったらだけどね」




