54話 魔物
「それでは、作戦を立てていきましょうか」
翌日ギルドに集まった俺たちは、併設されている食事場で卓をかこっていた。
俺たちの手元には飲み物があるが、すべてアイシャが奢ってくれたものだ。
ちなみにジギラスは2杯目である。
「みなさんの話が本当であるならば、この国はコリプランに戦争を仕掛けるでしょう。しかし、この国は魔法学校のあるコリプランよりも魔法技術に劣ります。人口はこちらの方が多いでしょうが、強力な魔法が数をものともしないことは存じていると思います」
たしかにアイシャの言う通り、魔導士の力は絶対だ。
この世界にも剣術や兵法はあるが、遠距離から数百人を消し飛ばせる魔法を使える者には勝つことは出来ない。
実際、コリプランの宮廷魔導士のエリーナが使っていた『星雨』なんかを思い出したら、すぐにその光景が目に見える。
「ちなみにみなさんは1つの鉱石を知っていますか?」
「鉱石?」
「ええ、ある特殊な鉱石です」
いきなり話が変わったかと思うと、アイシャは地図を机に広げた。
この国、トリアスの地図だ。
「今私たちがいるのがここ、首都であるシンラです。注目してほしいのは、ここから東にまっすぐ行ったところにあるこちらの鉱山です」
アイシャが指をさしたところには確かにユガビト山と書かれた山があった。
これが何だというのだろう。
「こちらの鉱山からとれる鉱石は魔法を跳ね返します。そしてトリアスはこの鉱石で武具を作ることに長けています」
「おいっ、嘘だろ!どういうことだよ」
「落ち着いてください、ジギラス君。今は戦争を止めることが第一です」
魔法を跳ね返す鉱石。
聞いたことのない代物だが、そんなものがあるのならばトリアスが戦争に積極的なのも分からなくはないな。
………なるほどな。
「つまり俺たちがまずやることはこの鉱山を占領しようってことか?」
「ええ、そういう事です。占領まではいかずとも、鉱石の掘り起こしを少しでも遅らせることが出来れば、戦争もそれに伴って遅延するでしょう。もちろん、守りも厳しいでしょうが………」
「いや、それしか手が思いつかないからな。とりあえずはそれで行こう」
地図に赤いインクで印をつけて地図をしまう。
俺たちのやるべきことが決まった。
東の鉱山に行き、その鉱山から産出される鉱石を掘り出させないようにする。
「あとはどれくらいの守りがいるかだが、こっちにはジギラスもいるし〈六神天将〉のアイシャさんもいる。問題ないだろう」
「トワ君、それってフラグになっちゃってる」
「けど実際にいるか?このメンツで苦戦する奴なんて」
「確かに!いないか~」
こうして、見通しの甘いまま件の鉱山へと向かうのであった。
■□トリアス東部―ユガビト山周辺―□■
首都から1日も歩かないうちに、俺たちの足は沼地を踏んでいた。
ひどい沼地というわけではないが、動きを制限するのには十分な地面をしている。
そして俺には分からないが、空気中の魔素もかなり濃くなっているらしい。
「これも鉱山の影響なのか?」
「さあ、どうでしょう。そういう話は聞いたことがありませんが、不思議な鉱石のとれる場所ですからね。何がおかしいのかなんて分からないですよ」
それもそうか。
魔法を跳ね返す鉱石━━俺たちは魔石と呼ぶことにした━━については、ジギラスも知らなかったみたいだし、研究も進んでいない。
もしかしたら魔石から魔素が漏れ出ているのかもしれない。
ん?そうなれば俺が魔石をもっておけばいつでも魔法が使えるってことなんじゃないか?
「おかしいのは魔素だけじゃないよ」
口を開いたのはリーティアだ。
彼女は普段のお茶らけた雰囲気は鳴りを潜め、いつでも愛剣を抜けるようにしている。
「魔物の気配を感じない。魔素濃度と魔物の量がおかしいでしょ」
「たしかにそうだな。もう沼地に入ってから数時間も経ったが、魔物と一度も遭っていない。トリアスは魔物退治に積極的なのか?」
「いえ、私の知る限りそういった話は聞いたことがありません。むしろハンターに任せきりで大変なんですよ」
じゃあ、なおさら変だ。
既に俺たちは居住区を大きく離れ、魔物の楽園に足を踏み込んでいるはずだ。
それなのに魔物がいない理由は一体なんだ。
魔石の影響か、魔王が近くにいるのか、それとも………根絶やしにされたか。
「――!?」
俺がその考えに至った瞬間、全身を恐怖が包んだ。
同時にリーティアたちも同じ感覚を得たようで、顔を青ざめさせている。
「なんなのこの魔素量!?普通じゃない。ミラちゃんぐらい………、ううん。ミラちゃん以上かも」
「ガチかよ。魔王以上のやつがいるなんて聞いてないんだけど」
想起させられるのは数か月前の『憤怒魔王』ミラ・リューラス。
トワとリーティアが限界を超えた果てにようやく打倒せしめた超越の存在。
彼女以上の魔素を持った何かが感じられた。
『我が楽園に足を踏み入れる愚か者よ。歓迎しよう』
その声は宙から聞こえた。
顔を上げ、目に入って来たのは巨大な魔物だった。
体長数十メートルはありそうな黒色の巨体に、見る者を畏怖させる翼。額には王の風格をもたらす角が煌めいていた。
「マジかよ………」
その声は誰のものだっただろうか。
絶望が張り付いたそのセリフは、魔物の奏でる風切り音でかき消される。
『我が名はアセシナート。この地を統べる王にして、一切を消し去る者だ』
口上と共に彼の後ろから幾匹もの魔物が、ドラゴンが姿を現す。
アセシナートと名乗ったドラゴンに付き従うように翼をはためかせてやってくる。
「これは………」
同族を操る魔物の異端児。
王を資格を持って生まれる帝王の証。
待っていたのは、竜帝だった。




