52話 覚醒する力
皆さんこんにちは、ディポニー不動産です。
今回紹介するのはこちらのお部屋。ほら、見てくださいこの広さ。6人入っても何も気にならない広々とした空間。
3食持ってくれる親切な大家さんもいますし、これだけで気に入る方もいるのではないでしょうか。
しかも立地は王城まで徒歩0分!都会なんてもんではありません!港区女子の皆さんも悲鳴を上げて逃げ出すシティーボーイになれるのです!
これだけ揃って家賃0円!おっと、敷金礼金なんてコスいものももらいませんよ。
外の風景が見れないのが玉に瑕ですが、どうでしょうか!
契約したい方はぜひトリアス国の王さまに会いに行きましょう。すぐにでも入ることが出来ますよ。
………。
「………はぁ、空しいだけだ」
無職の方のように物件紹介をしてみたはいいが、空しいだけだった。
リーティアもジギラスも乗ってきてくれないから余計にそれを感じる。
「ちょっとは俺のボケに乗ってきてくれよ」
「いや、ちょっと異常に体がダルくて」
「私もー」
あれ?役人の人たちも倒れてる。
毒か?いや、毒だったら俺もヤバいはずだし、俺じゃなくてジギラスがやられてるのが不思議だ。
俺じゃなくてジギラスに影響があるもの………。
まさか………
「多分、魔素を浄化する魔法が使われてるんだと思う」
俺と同時にその答えを出したのはジギラスだ。
「いや、浄化っつうよりも吸収かもしれねぇな。人は体の中にある魔素を切らすと魔素欠乏になっちまう。トワ坊はそもそも魔素を持ってないから大丈夫なんだと思うが、俺たちは別だ。俺は慣れてるから倒れるまではいかないけど、普通は相当辛いはずだぜ」
「魔素を吸収する魔法なんてあるのか?無敵じゃないか」
「さすがに何らかの弱点があるはずだぜ。発動するのがめちゃくちゃ大変とか、複数人じゃなきゃ発動できないとかな。まあ、俺は魔法に詳しくないから分かんないけどな」
たしかにそんな魔法が在ったら最強だし、有名なはずだもんな。
初めて魔素が無くて良かったと思えたわ。
だけど、リーティアたちのことも心配だし早いとこ脱出しないと。
「脱出とは言ってもどうやって出るかも分からねぇし、どこに行くかも決めないとじゃないか?俺らがここから出たらお尋ね者になるんじゃねえか?」
わぉ、お尋ね者か。
そりゃヤバいか。
だけど、俺たちは一応コリプランからの使者として呼ばれてるわけで、そんな俺たちを捕らえるのって国家間の問題としてどうなんだ?切り捨てるとかじゃないとしても相当な問題行動をしてるんじゃないか?
特に役人の人たちを牢屋にぶち込むなんて明らかな叛意を持ってるとしか。
最悪、戦争とかになるんじゃ。
「あー、目的はそれなのかもしれねぇな」
「ん?」
気怠そうにしながらも、合点がいったようにジギラスが俺の思考に割り込んでくる。
「いや、トリアスがどうして俺たちをこんなところにぶち込んだ理由に思い至ったんだよ。同時に俺たちが護衛を頼まれた理由にも納得がいった」
あ、そう言えば出発前にそんなことを話していた気がする。
あの時もジギラスは何か知ってるっぽかったけど、こんな状況で思い出したってことはあんまりいいことじゃなさそうだな。
「これは歴史の話になるんだが、トリアスって国は元は小国だったんだ。だけど200年くらい前に一人の天才魔導士がそれを変えちまった。そいつのおかげでトリアスは周辺の国をどんどん吸収していって、今では大陸でもトップレベルの大国になっちまった。そんで次はコリプランに戦争を仕掛けられるって思った矢先に『憤怒魔王』が両国の間に鎮座しちまってな。さすがに『魔王』はヤバいってなってコリプランに攻め入ることはなかった。だが今回、『憤怒魔王』がいなくなり、コリプランのハンターが来るっていう大チャンスが到来した。要は、強いやつを捕まえたら戦争で勝てんじゃね?っていう考えがよぎったんだろうな」
なるほど、正確には俺たちはコリプランのハンターじゃないけど、向こうとしては強いやつを捕まえることが目的だったんだろうな。あわよくば仲間に引き込みたいのかもしれないが。
「ええ、私どもの狙いはトリアスが変なことを考える前に条約を結ぶ事でした。相互不干渉、もしくは良好な関係を築きたかったのですが難しそうですね」
だいたいわかって来たぞ。俺たちが役人の護衛を頼まれた理由が。
それと俺たちがするべきことが。
「つまり私たちは役人さんたちがトリアスで殺されないために遣われたってわけね」
「恐らくな」
「それにしても戦争か~。さすがに他人事で済む問題じゃないよね。止められることなら止めたいけど、とりあえずここから出ないと話にならない」
とはいっても、この魔素の無い状態でどうやったらこの牢獄を脱出できるだろうか。
いくらこの牢獄が堅牢であるとしても、魔法が使えたら簡単に壊せるし、ジギラスが本調子だったら壊せるかもしれない。だが、どちらも魔素が無いという状態では不可能な手である。
あれ?意外とピンチか?
「トワ坊は魔素欠乏になってねぇんだから、壁とか壊せねぇのかよ」
「壊せるはずないだろ。むしろ本調子だったら壊せるジギラスの方がおかしいんだって。俺は身体強化を使っても………、ほら壊せない」
魔法の使えない僕なんてカスみたいなものなんだし、ジギラスが気力で何とかする可能性に賭けた方がいい気がするよ。
いや、無理か。体調悪そうだし。
俺なんてむしろ普段よりも体調がいいように感じるんだけど。
「アレ?マジで体調がいいんじゃないか?」
普段の重い鉄のコートを着ているみたいな感覚がなくなってる。
ドラ〇ンボールとかでよくある、腕輪を外したらドスンッて音鳴って「アレを付けたまま戦ってたのかよ」てなるやつくらい違う。
それに地球の頃にいた万能感も戻ってきているような気が………。
「あ」
「ん?どうしたトワ坊。何か秘策でも思いついたのか?」
「いや、もしかしたら俺今最強かもしれない」
「コイツは何を言っているんだ?」とでも言いそうな顔をしたジギラスを横目に、俺は静かに思案する。
超能力が使える。
気が付いたのはそれだ。しかも、いつものように体の中だけ、指先のほんの少しの距離だけといった程度のことではなく、何の制限もなく使える。
どうしようか。
超能力を使えばこの程度の牢屋など簡単に脱獄できるが、俺が超能力を使うところをジギラスたち、特に役人の人たちに見られたらどうなってしまうだろうか。
魔法ではない力を使うことを知られたら、実験対象になるだろうか、異端児としてお尋ね者に逆戻りか。
そんな普通の生き方も出来なくなってしまうのだったら、この牢獄にいた方が………。
「うぅ……」
ふと、リーティアの顔が目に入った。
いつもの元気な表情は鳴りを潜め、顔を青くしている。
これがジギラスの言っていた魔素欠乏だろう。どんな症状があるのかは知らないが、顔を見るにかなり辛いのではなかろうか。
「バカだな、俺は」
少しは成長したと思っていたけど、何も変わっていなかった。
自分のことしか考えられないバカだった。
超能力がバレたってなんだ。俺は世界のために戦ってるんだ。戦争を止められなかったら、コリプランに危険が及ぶ。アルジェルトやカンガル、ユナも危ないかもしれない。
どうにかして止めないといけないんだ。
「みんな!外に出る準備をしてくれ。脱出する」
「はぁ!?どうやって!それに外に出てどうするんだ!」
「それは出てから考えよう。とりあえずこの気持ちの悪い部屋から出たいだろ」
そう言うと俺は意識を集中する。
久しぶりに使うのだ。加減を間違えたらいけない。
全員が脱出の準備が整ったのを確認すると力を解放する。
「今から見せるのを他言しないでくれよ」
――発動。
俺を中心に巻き起こった力は目の前の鉄格子に浴びせられる。
空間を捻じ曲げるほどの力の奔流は鉄格子をいとも簡単に破壊し、目に見える壁の全てを破壊しつくす。
同時に魔素を吸収する魔法が解除されたのか、空間に魔素が戻り始め、俺の万能感は消え失せる。
「やっぱり加減できなかったか。さあ、急いで脱出するぞ」




