50話 明日の絶望を希望へと変えていく。
俺たちが目を覚ましたのは外の様子がにぎやかになってきたころだった。
布団から体を出し外に耳を澄ませると、昼の時とはまったく別の村であるかのような喧騒が伝わってきて、一瞬、寝ている間にどこか他のところに連れていかれたのではないかと考えてしまったほどである。
とりあえず、となりで寝ているリーティアの肩を軽くたたき、彼女がまどろんでいる間に外に出る準備を進める。と言っても、ほとんど準備することなどないのだが。
彼女も完全に目を覚まして一緒に家の外に出ていくと、夜なのに目が眩むような明るさがそこにはあった。
「わぁぁ、きれい」
電気などまだないこの世界なので、使っている光源は火である。
あちらこちらに街灯のようなものが見られ、いたるところに食べ物を食べている人たちが笑っていた。
「おお、来られましたかっ。そろそろ呼びに行こうと思っていたところなのです」
俺たちに気づいた村長が顔を綻ばせて歩み寄ってくる。
ひとしきり挨拶をして彼と別れる。せっかくの宴なのだからずっと気を遣う相手といるのはもったいないからな。
「それにしても、この村にこんなに豪華なお祭りをする余裕があったことにびっくりだよ。お昼の様子を見てた時は貧乏な村だとばかり思ってたからさ」
「それは俺も思ったが、いくら何でも歯に衣着せない言い方過ぎるだろう。まあ、村の危機がなくなったから少し無理をして開かれたんじゃないか?」
その危機を追い払ったのが俺たちだと思うとどこか恥ずかしい気もするが、悪くはないかな。
周りを見てみると昼に話を聞いた商人のキュリーさんが何かの肉と野菜を混ぜた串状の食べ物を売っていた。
「おお、ハンターの坊主たちじゃねえか。お前さんのおかげで俺も夜にわざわざこの村から出ていかなくて済んだんだ。礼を言うぜ。どうだ、一本食っていかねえか?この辺りでは取れない野菜だぜ?」
そう言って串焼きを2本こっちに渡してくる。もちろん、料金は取られた。礼は言うだけならタダだからな。
砂漠であるこの辺は確かに野菜はあまり取れないため、この串焼きも少し高い。けど、その分美味い!肉のとろけるような旨みと野菜のシャキシャキとした歯ごたえ、それらが絶妙にマッチして至高の味わいへと至っている。これが某料理漫画だったら服がはだけているほどだ。
「うん!おいしい!」
どうやらリーティアも同じ意見らしい。危ない危ない、彼女の場合は放送禁止になってしまいかねない。
とまあ、冗談はさておいて本当においしいな、この串焼き。キュリーは商人じゃなくて料理人をやった方がいいかもしれないと思うレベルだ。
もう一本ずつ買って祭りを再度回りだす。財布の中身はほとんど空だけど、王さまからもらう予定のお金があるから大丈夫か。
いろいろな屋台が並んでいてそれの新鮮さに目を光らせていると、正面に見覚えのある少年が見えて手を振ってきた。
ライト・グランゼだ。
「おにいちゃん!」
「よおライト。元気か?」
父を連れたライトに手を振って応える。
ライトもずっと俺たちを寝ずに待っていて疲れていると思うが、それを感じさせない溌剌さが目に見えて、それだけこの祭りを楽しんでいるのが分かる。
「本当にありがとうございました。他の者も目を覚まして、ケガも特にありません。本当に礼をしなくていいのでしょうか」
「大丈夫だって。それより聞きたいんだけど、魔物に連れ去られた人って何人いたの?私たちは3人しか見つけられなかったんだけど」
魔物の正体がワームであったことは村長と相談して、村の人たちには言わないようにした。通常のワームにも恐れを抱いてしまうかもしれないし、そうなると生態系が崩れてしまうこともあるため、このような処置をとることになった。
連れ去られたのを見たライトや彼の父は知っているかもしれないが、わざわざ言いふらすようなこともないだろう。
「いえ、私のほかには4人が被害に遭ったそうですので、あなたたちが助け出してくれた人ですべてだと思います。それにしても、どうして捉えた私たちをすぐに食べなかったのでしょうか。もちろんそれに救われたわけですが」
たしかにどうして5人もの人たちをそのまま捕らえたままにしていたんだろう。村長が言うには襲撃は2週間前からあったようだから、最初に捕まった人はそれだけの間飲まず食わずだったわけだ。どうして生きていられたんだ?
「それって植物の少ないところに棲むグリーンオールのおかげじゃない?あいつの近くにいると空腹ものどの渇きも感じなくなるっていう夢みたいな魔物?なんだって」
なんだよそのご都合主義を形にしたような魔物は。
「そんな奴がここにはうじゃうじゃいるのか?」
「う~ん、違うと思うよ。そもそも数年前までは発見すらされていなくて、今でもその生態に関してはわかんないままなの。どうやって生まれたのか、どこから来たのか、何を食べるのか。だからギルドも常時依頼を出して探しているみたいだよ。案外、神様がくれたご褒美なのかもね、願えば叶うって言葉もあるみたいだし」
たしかにそんな魔物がいれば繁殖して村や町に一匹おいておくだけで食糧問題は解決できるもんな。それでもある程度は分かっているみたいだから、将来的に乱獲されるのかもしれないけど。
まあ、その魔物のおかげで村の人たちは餓死しなかったし、ワームもそいつのおかげで腹を空かすこともなかったのかもしれないから感謝してもしきれない。
「ねえねえ、おにいちゃん。魔物は強かった?どんな魔物だったの?どうやって倒したの?」
異世界じみた不思議な生物に思いを馳せていると、ライトが目をキラキラさせながら俺に近づいてきた。魔物が何かは言えないが、どうやって倒したかぐらいは言ってもいいかもしれないな」小さい子のおねだりを断るのも気が引けるし。
「とにかくでっかい魔物で、力もすごかったんだ。それでも戦っていくうちに弱点を見つけてそこを攻めまくる。これで何とか村の人たちを救って倒すことができたんだ」
超能力のことは言ってもピンとこないだろうし伏せていいか。ワームも魔素が見えるというのは弱点出なくむしろ強みだったんだろうけど、今回ばかりは相手が悪かったな。
「じゃあさッ、これまでにどんな魔物と戦ったの?」
「どんな感じで倒したの?」
「強かった?」
ライトは何度も俺たちの冒険の話を聞いてきて、それに答える度に彼の目の輝きが増していっているような気がした。
俺もまだハンターになって1年ほどだからあまり話せるような濃いことはなかったが(ミラのことは秘密にしておいた方がいいよな)、それでもライトが楽しそうに聞いてくれるのが気持ちよくてつい、話すのに夢中になってしまった。
ひとしきり話すとライトが俯いてもじもじしていたから「大丈夫か?トイレか?」と聞くと頭を振って小さな声で話し出した。
「ねぇ、おにいちゃん。おにいちゃんはどうやってハンターになったの?やっぱり厳しい授業とかしたの?」
ん?質問の趣旨が変わったな。
それにしても、どうやってハンターになったか、か。
俺の場合は行く当てもない時にリーティアに拾われてその流れとしか言いようがないのだが、普通はどうなんだろうか。
「俺は特にそういうことはしてないが、リーティアはどうなんだ?」
「私?私は家を飛び出してやることがなかったからハンターになったんだ。だから修行とかはしてないかな?」
は?家を飛び出した?
「待て、聞いたことないんだけど……」
「あれ?言ってなかったっけ。まあ、特に言うようなことじゃないから」
はあ、そういやコイツはこういうヤツだった。
まあ、今は追及するような時じゃないから後で聞いておくか。
「……とまあ、ハンターになるために修行とかはしてなかったかな。ハンターになってから強くなるって人がほとんどだと思うぞ。それでも最低限の力はみんな最初からあったけどな」
そう言うとライトの顔が徐々に上を向いていって、最後に俺に目を合わせて話し出した。
「じゃあさ、僕も………僕もハンターになれるかなッ?僕もおにいちゃんみたいな悪いヤツをやっつけて、みんなを守ってあげられるハンターになれるかなッ?」
彼の顔には少しの不安と強い決意が秘められていた。
そうか、ハンターにないたいのか……。
「……ライト、ハンターっていうのはいつ死ぬか分かんない仕事だぞ。俺だって今こうして立っているが、どこかボタンを掛け違えば何回死んでたか分からない。そんぐらい危険な仕事なんだ。それでもお前はやりたいのか?」
俺はわざと今までよりも強い言葉で、強い口調で少年に問う。
ライトはその俺の言葉に少しも引かず、やりたいことは決まっているのだと言わんばかりに顔を引き締めて俺の方を見ていた。
「それでもやりがいの方が大きいのがこの仕事でしょ?」
「ハハっ、いうじゃん」
それを言われたら何も言えないじゃないか。
「それじゃあ、これだけは約束してくれ。死ぬな。逃げていい、みっともなくていい。だから絶対に死ぬな。そうしたら次は絶対に回ってくるからな」
「うん!」
「よし、いい子だ。やっぱりお前はスゴいヤツだな。お前が死んだら俺もリーティアももちろん、お前のお父さんも悲しいから死なないでくれよ」
俺の言葉に力強く頷いたのを見てその場を後にする。
リーティアはいつの間にか買っていた食べ物を持って付いてくる。いや待て、ほんとにそれはなんだ?食べ物なのか?
「よかったの?ハンターは優しい世界じゃないって知ってるでしょ?」
「………いいんだよ。ハンターになることをライトは半ば決めてたんだ。俺が言ったところで止まらないよ。それならアドバイスした方がいいだろ」
「確かにそうだねー」
「そうすると決めたのならやればいい。それが正しいか間違っているかなんて分からないんだから。それが分かるのは結果を出した後なんだから」
夜が明け朝が来た。
この夜は誰も寝れなかったんじゃないか?それだけみんな緊張していたのだ。
それでも夜が明けてみれば拍子抜けするほどに何もなかった。人がいなくなったこともなく、それどころかケガを負う人さえいないハッピーエンドが待っていた。
「それじゃあ、俺たちはこれで帰ります。皆さんお気をつけて」
「本当に、本当にありがとうございました。そして疑ってしまいすみませんでした」
「いいんですよ。警戒するのは当然のことですから。それでは、またいつか」
こうして俺たちの休暇が終わった。
幕間も終わり、次の章の準備を進めています。
忙しくなり始め、執筆の時間を取れないでいます。
今しばらくの時間が必要になりますことをここに謝罪いたします。




