49話 完!虫討伐
相手の弱点、そして、勝ちの可能性となる俺の力が分かり、少しだけ視界が上になる。
そんな俺を傍目に彼女はワームのところへと駆けていく。
ワームはもう俺を見失ったようでキョロキョロとしているが、向かってくるリーティアを無視することは出来ずに迎撃に気を取られている。
さて、俺の超能力はどれほどの力がでるのだろうか。
地球にいた頃は大型マンションを持ち上げたり、集中すれば進む電車を止めてことも可能であった。もちろん試したことはないが、それほどの万能感が宿っていた。
それに、発動条件もよく分かっていない。
先ほどの状況を思い出す限り、相手に触っていることが条件なのかも知れないが、他にも気づいてない条件があるのかもしれない。今試している時間がないのが口惜しいが、この戦闘後に色々と実験してみないとな。
リーティアとワームは激しい攻防を繰り返していた。
彼女を先に倒せば俺への対処も可能と判断したのか、先程よりも攻撃に力を入れてリーティアを殺しに来ていた。
ワームの魔素を見る能力はかなり強力で、彼女のスピードにも対応出来ていた。おそらくだが、彼女の周囲の魔素の動きを読むことで行動を予測しているのかもしれない。ジギラスがやっていた手だな。
そのことにリーティアも気付き、ジギラスとの修行でやっていた自身で傷を受けて魔素の動きを乱すという荒業で対応する。途端に魔素の動きが巡り、ワームも彼女についていけなくなっていった。
戦闘はまさに互角。
攻撃の当てられないワームと当ててもダメージを与えられないリーティア。どちらも攻撃出来ないことに変わりはないがそれでも、このままでは一撃でも当てればいいワームは時間をかければ勝つだろう。
だから、それを覆すために俺がいる。
超能力で身体を強化して戦場に入り込む。途端に肌がピリピリした感覚に襲われる。戦場には独特な雰囲気がある。
とりあえず俺は触ればいい。
ヤツに触りさえすれば、サイコキネシスで硬質化した表皮もろとも吹き飛ばせる。対して向こうはリーティアを相手取りながら、感知できない俺を触らせてはいけない。
「イージーだな」
巨体に向かって駆けだし右手をヤツの表皮に当てる。そして肉体をグルンと捻じ曲げるように超能力を働かせると、ワームの喘ぎ声と共に血しぶきを盛大に噴き出しながら肉がはじけ飛ぶ。
思ったよりもグロい。
俺の右手はもちろん、体全身が紫色の血で染め上げられてしまった。リーティアが頑張ってくれてる手前文句は言ってられないが。
ワームは未だに俺の姿を捉えられてはいないらしい。ヤツの血を浴びて魔素が付着するかもしれないと思ったが、そういうものではヤツの目では見えないのかもしれないな。
「さっすがー。その調子で全部いっちゃおう!」
リーティアがサムズアップして俺を褒めてくれる。
こんなにグロい絵面を前にそんないい笑顔でいられる彼女に少し引いてしまうが、まあ、子供のころから異世界にいたのだから慣れているのかもな。
とりあえず、手で触れるだけでワームにはサイコキネシスが使えるっぽいから楽でいいや
戦っていて分かるが、やはり『憤怒魔王」ミラは異常なほどの強さだったな。ワームのようなただ大きいだけの敵よりもよっぽど素早いし、攻撃力もあったと思うから、彼女と比べたらこんな虫程度どうってことない。
段々と肉をそぎ落としていくと、その身を大きく回転させてあたり一帯を吹き飛ばそうとするが、さすがの俺でもそんなに分かりやすい攻撃には当たらず、
そこからは一方的だった。
ワームの目には映らない俺が体に触れて消し飛ばすだけ。
時々ワームが適当に身体を動かし反撃を仕掛けようとしてきたが、それもリーティアが防いだりして俺に攻撃が届くことはなかった。
決着がついたのは開戦から30分ほどが経った時だった。
徐々に体の動きが悪くなっていたワームが急に攻撃を止め動かなくなって、生き物の死を感じた。死因は出血多量だろうか。体の4割以上をえぐり取ったからそうなってしまうのも仕方ない。
「ふー、やっと終わったね」
「そうだな。もう全身がべっとべとだよ」
額の汗を拭く動作をしながら話しかけてくるリーティアに、俺も返り血を振り払うようにして応える。今の俺の姿だけ見たら、まるで悪者だな。
それにしてもなかなかの強敵だった。
ミラのような理不尽さはなくとも、強固な守りに巨体が合わさってまともに戦っていたら一昼夜かかっていたかもしれない。そんなにかかったら村の人たちは俺たちが逃げ出したか、死んだかと思うだろうな。
あとはライトのお父さんや連れ去られた人達がみんな無事だといいけど……。俺たちは3人しか助けられなかった。村長や商人からは襲撃は何回かあったとは聞いていたが、実際に何人攫われたかは分からず気になっていた。もしも、俺たちが来るのが遅くて助けられるはずだった人が帰らぬ人になっていたら………
「大丈夫だよ、きっと」
「!………そうだな」
リーティアがそう言ってくれるんならそう思おう。コイツは時々こういうことを言うから調子が狂うな。
気づけば、周囲にいたはずの小さなワームたちがいなくなっていた。リーダー格のヤツがやられて逃げ出したのか、それともアイツに脅されて従ってたのかもしれない。
リーティアが言うには、ワームは基本は人間を標的にせずに魔物や動物などの野生に生きる奴等を捕食しているらしい。今回人間が攫われたのも、リーダー格のアイツがデカくなりすぎたのが原因じゃないかと。
「ワームは野生の掃除屋って言われるくらいなんだから、人を襲うなんて知らなかったよ。ギルドもここら辺にワームが出ることは知っていたと思うけど、今回のことは予想してなかったと思う」
「それじゃあ、敵が絞れないのも無理ないな。今後も例外が起きるかもしれないし、しっかりギルドに報告しておかないとな」
そういうことなら、小さなワームを追わなくてもいいかもな。ここら辺には魔物が少ないと言ったって、小動物だったり虫だったりは生息しているから餌には困らないだろう。
ここへ来た時の穴へ行って連れ去られていた3人を担いでそのまま帰路に着く。ずっと裸だとあれだから、俺たちの着ていた服を羽織っておいた。目のやり場にも困るし。
暗闇の中を進むのに慣れたからか、行きよりも短い時間で村に着いた。あとでこの穴は塞いでおかないとな。ここから他の魔物が入ってくるかもしれないし。
「おにいちゃん!!」
穴から顔を出すとライトが俺に気づいて駆け寄ってくる。
駆け寄る途中で俺が担いでいる男の人に目が留まり、脚が自然と勢いが落ちる。
言葉を話そうとも口が動くだけで声は出ず、その代わりに彼の両目からは大粒の涙がとめどなくあふれてきていた。
「お………とう……さん?」
ようやく口にだしたその言葉はたどたどしく、それでも確かな喜びが詰まっていた。
止まっていた足が動き出し、その速さは段々勢いを増していく。
「お父さん!!」
その声で目を覚ました彼の父はライトの声に気づいて、ゆっくりと口を開く。
「ライト?あれ?私はどうして………?」
「ううん。何でもないんだよ。お父さんが無事だったらいいんだ。よかった、本当に、よかったよ」
涙を浮かべながらも懸命に笑顔を保とうとするライトの姿で自分の身には何かが起きたこと悟り俺と目を合わせる。
「あの、何があったかは存じませんが、ありがとうございました。この恩はいつか必ず」
「いいんですよ、そんなことは。ハンターとしての仕事をしただけですから。それに大したことはしてませんので」
「ですが……」
「トワ君がいいって言ってんだからいいの。手伝うんだったら他の人たちも届けないと行けないから、この人たちの家を教えてよ」
食い下がる彼であったが、リーティアの担いでいる人をみて「ザントさん!カイサさん!」と声をあげて誘導をしてくれた。俺たちだけだと彼等の家が分からないままだったから助かった。
小さい村だから連れ去られた彼等を家に届けるのにさほど時間はかからなかった。ザントさんの家もカイサさんの家も、戻ってきた彼等を家にいた人たちが涙を浮かべて喜び感謝を示してくれた。
その後、とりあえずの報告をと村長の家に赴き、話をする。村長は帰ってきた俺たちを見て顔を崩し着席を促す。
「それで……どうでしたか?」
何が、とは聞かないのは魔物の正体も分からず、本当に俺たちが倒すことが出来たのか半信半疑だからだろうか。
「村人を攫っていたのはワームという魔物でした。非常に小さい個体が村に忍び込み上位の個体に献上していたようです」
「ワーム!まさか、そんなことが。ここらに生息していたことは皆知っていますが、我らを襲ったことはありませんでした。それだから、まだ見ぬ魔物を想像していたのですが」
予想外のことに目を剥き驚いた様子で答える。それほどワームという魔物に関しては無害だと思っていたのだろう。
今いる小さいワームが襲うことはないだろうし、滅多にあのような巨大なワームが出現することもないだろうが、警戒しておいた方がいいだろう。
「そうですか、そうですか。我らとしましても何回もギルドのお世話になっていてはいけませんからね」
まあ、ギルドに依頼するのにも金はかかるしな。普通はここを納める領主なんかがギルドに金を払うそうなんだが、今回は魔物の正体が分からずにどれくらいの金がかかるか予想出来なかったために、この村の人たちが金を出したらしい。もうワームは討伐されたし、抗議したら払い戻しがあるかもしれないからそれを願うしか出来ないな。
「ああ、ちょっと……」
報告も終わって帰ろうと扉の方に歩いて行こうとすると、後ろから声をかけられて足が止まる。
「今夜は祭りです。もうじき空も暗くなりますしどうです、参加しては?」
「いえ、俺たちはもう……」
祭りの招待に答えようとして村長の顔を見ると、真剣な表情をしていて、まるで何かを頼み込んでいるようだった。それにまだ昼の15時程度だ。暗くなるのはまだ先で……
ああ、そうか。
「せっかくですので参加させてもらおうかな。お酒は飲めないからよろしくな」
その返事を聞いて安心したように息を吐くと「それでは準備がありますので」と言ってそそくさと出ていった。
「よかったの?今から帰ったら近くの街ぐらいには着くと思うけど」
顔に?マークを浮かべて覗き込むようにしてリーティアが聞いてくる。
「村長からしたら、俺たちが本当に敵を倒したのか、これで本当に人攫いは止まるのかが分かんねえだろ。正面から「まだ敵が生きてるかもしれないから残って」なんて言えないしな」
「何それ、私たちを疑ってるってこと?」
「そう怒るな。むしろ村をまとめる立場からしたら妥当な判断だと思うぞ」
「それはそうだけど……。なんか釈然としないな〜」
「加えて、俺たちがワームを倒してたとしても他の魔物が襲ってくる可能性もあるだろ。俺たちを護衛としたいっていうのもあるだろうな」
まあ、信じてもらってないと言ったら気分が悪くなるが、村長もそれだけ警戒してるんだからしょうがない。疲れた俺たちは、あてがってもらった部屋で夜まで寝させてもらった。
そろそろこの章は終わります。
幕間ですしね。
ブックマークをしてくれると私の意欲につながります。




