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始まりを刻む  作者: 桶満修一
第1章 超能力者の異世界転移
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5話 希望の作り方

 ――どうして僕はここにいるんだ?


 死地に舞い戻った僕が思ったのは、そんな場違いなことだった。

 目の前に広がる脅威も、背中にいる重傷の少女もうまく頭の中に入ってこないで、ただ自分自身に対する疑問だけがあった。

 恐怖がなくなったわけでも、ましてや死を覚悟したわけでもない僕がどうしてこのような場所にいるのか自分でもよく分かっていなかった。

 いや、違うな。

 自分をだますのはやめだ。

 リーティアを助けたいというこっぱずかしい理由で、僕は僕の意志でここにいる。


 「トワ君…………なんで?」

 「はぁ?なんで?お前を助けるために決まってんだろ」

 

 返答と同時に彼女を見ると、彼女は数分前の健全な状態は見る影もなくそこら中から鮮血が滴り、今も肩で息をしているほどに疲れ切っていた。

 そんなになっている姿でも、彼女の美しさを損なわないのは不思議でならない。

 しかし僕が彼女に見惚れていると、彼女はその可愛らしい顔を不安と焦燥に歪ませて声を荒らげる。


 「どうして逃げなかったの!君がいてもあいつ等には勝てない。私はもう、いいから!君だけでも………逃げてよ……」

 「うるさい!あんだけビビった顔しておいてそんなこと言ってんじゃねえよ。そういうのは死ぬのをなんとも思わねえ奴が言うもんなんだよ!そもそも何が余裕の依頼だよ、明らかにやばそうなブタがいるじゃねえか!」

 「~~~仕方ないじゃん、わかんなかったんだから!それにトワ君がいなかったらこの依頼を受けてなかったんだから、ちょっとは責任感じてほしいよね」

 「さっきまで自己犠牲満々だった奴が言うセリフじゃないよなあ?やっぱりお前はそういうの向いてないんだわ、僕と一緒で」

 

 その後も、『バカ』や『偽善者』など、この場が死地であることを忘れているかのように言い合いを続ける2人は、どこか滑稽で、多くの者はそれを生を諦めたかのように映るだろう。

 しかし実際は違う

 言葉をかけあうごとに2人の目には生気が宿っていき、口角が上がっている


 「ここで死ぬ気は毛頭ない」と言うかのように、2人の気持ちは高揚していた


 『なんなんだ、キサマは。見たとコろ肉体には余分なニクが多く、まとモに戦えルのカも疑問だ。それとも、矮小な力しか持たぬザコのくせニ、至高の戦闘に水を差そうとしているのか?』


 あと少しで強力な相手を打倒できていた豚帝王は、急に出て来ては自分の勝利の邪魔をしてきたトワに不満なようだ


 「ブタの親玉さんには悪いけど、あんたの言う通り今の僕は何の力もないよ。ここには僕のエゴで立たせてもらってるよ。それとオークってイノシシだよな?なんで豚帝王なんだ?」

 「さあ?最初に名付けた人がそう決めたんじゃない?見るからに豚だしさ」


 死の淵に近づいているという事実に気分が高揚し口調が変わっていることに彼は気づかない。体験したことのない圧のなかでは自分を保つことも容易ではないのだ。

 そのトワの応答に起源を悪くした豚帝王は眉間にしわをよせ、メイスを握る手には力が入る。


 「それじゃあ、リーティア。一緒にあいつらを倒してさっさと魔法の勉強をやろうぜ」

 「ちょっ、倒すって………。トワ君まともに戦えないんじゃないの?」

 「こんなにカッコつけて僕だけ応援してるわけにもいかないでしょ。それにリーティアだけじゃ勝てそうにないし」

 「いや、ぜんぜん余裕だけどね?なんなら片手だけで勝てちゃうけどね?」


 そんな負けず嫌いで意地っ張りな会話は豚帝王をいらだたせ、我慢の限界を迎えた豚帝王は目の前の貧弱な種を殺さんと襲い掛かっていく

 その様子を2人は不思議と慌てることなく捉え、小さくコミュニケーションをとる。


 「僕が時間を稼ぐから、周りの奴をよろしく」

 「いいけど………大丈夫なの?」

 「3分がギリかな?」

 「十分だよ」


 かくして、この場における最後の死合いがはじまる


▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 『殺スぞ、ニンゲン!』

 「痛いのも勘弁してほしいんだけど、無理そうだ」


 驚異的な速度で迫るオークロードからの攻撃を、トワは驚くべきことに避けることに成功していた。まともに食らえば、痛みだけではおさまらない攻撃も紙一重ではあるが回避していたのだ。


 「トワ君なんで避けれてるの!?超能力をフルで使えるようになったの!?覚醒フェーズきちゃ?」

 「それが出来たら苦労してないんだよなぁ。残念ながら外に向かって使うのはまだ無理。ムリ男」


 オークロードの攻撃をかわしながらリーティアの疑問に応える。

 それを自分に対して舐めていると解釈した豚帝オークロードは攻撃の手を早めるが、それでもトワにはそれは当たらない。


 「だけどっととと、危ねぇ。体の外は無理でも、体の中で使うのは出来るんだよね。ていうかさっき気づいた」


 永遠の言った言葉は真実であり、身体を構成する筋肉をサイコキネシスで無理やり強化することで、人間離れした身体能力を引き出しているのだ。

 さきほどの、リーティアをオークから守るために突き飛ばしたのもこの力を使ったのは言うまでもない。力のない男子高校生が体重100キロ以上ある魔物を突き飛ばせるはずがない。

 

 (まあ、こんな使い方したことなくて集中力えぐいし、無理やり強化しているわけだから身体中バッキバキでめちゃ痛いんだけどね。)


 地球にいたころではこのようなことをする必要がなく、慣れていない操作だけに現状ではこの強化は長く続かないのは永遠自身も分かっていたのだろう。加えて現状の強化率では、いくら筋力が増しても無手では豚帝王にダメージを与えることは出来ない。

 避けることに全精力を注いでも尚、時折メイスが頬や足を掠めその度に顔が恐怖で滲む。

 足がすくむ余裕さえなく、攻撃なんてして隙を見せたくないというネガティブな理由もあった。

 それゆえの3分間の時間稼ぎ宣言だったのだ。


 「だから、頼むぞリーティア!!」

 「よくわからんけど頼まれたぁ!!」


 永遠の声にこたえるようにリーティアの速度が増し、多くの敵を殲滅していく。

剣で、魔法で、ある時は素手で。

 戦闘が開始して2分ですでに10体は倒していた。普通に生息するオークと違って、ロードの側近だからか膂力も技術も兼ね備えた強力な種であったが、リーティアの前では無力であった。

 戦闘が始まり3分が過ぎる頃にはリーティアによって、豚帝王以外のオークは殲滅され彼女の後ろにはオークの死体の山が築かれていた。

 

 「トワ君交代!あとは私に任せて!」


 もうオークがいないと分かるとすぐにオークロードとの交戦に移る。

 永遠は額には汗がにじんでおり、彼の美しい黒い髪は赤い液体で淀んでいた。

 当に限界を迎えていた永遠は、それでも約束を守り、なんとか遥か格上のオークロード相手に時間稼ぎをやってのせたのだ。


 「やっとか、遅いぞリーティア。はやくやっつけてくれ」

 「まかせてよ。トワ君がかっこいいとこ見せてくれたんだから、私も限界ぐらい超えないとね」


 永遠はそういうと崩れるようにその場を引いていく。

 それをみたリーティアは感謝のまなざしを少年に飛ばし、ナイフを片手に帝王に向き合う。

 闘志をいくら燃やしても、両者の力量差、失った体力、魔力は変わらない。最初の邂逅時よりも不利になっているのは、彼女自身も分かっている。

 しかし━━━


 「もう終わらせよう。孤独の王様」

 『孤独になった覚えはなイな』


 むしろ最初の邂逅よりも自信をもってナイフを向ける。

 少女の身には不釣り合いなほどの勇気と、覚悟を持って。


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