47話 戦闘は高揚と共に
身を隠しながら俺たちが向かったのは、出てきた穴から少しだけ離れたところだった。
そこに行った理由は、穴から何かを引きずった跡があったからに他ならない。
「…………」
「…………」
俺たちは敵がいるかもしれないここでは何も話さない。
奇襲が失敗するかもしれないということはもちろんあるが、それ以上に何かを話したら連れ去られた村の人たちの命が吹き飛んでしまうという、どこか迷信のような不安を感じたからであった。
「いた」
先を歩いていたリーティアが一言発した。
身を低くして視線の先を追うと、影のかかったそこには衣服の剥ぎ取られた人たちが寝かせられていた。
人数は3人、男性が2人に女性が1人だ。キバによって麻痺しているのか目を覚ます様子はなく、まったく動かないものだから一瞬、最悪の展開も予想してしまった。
「どうする?」
リーティアの言いたいことは1つであろう。
この人たちを危険を伴いながらも避難させるか、先に危険を排除するかどうかである。
先ほど俺たちが穴から出てきた時にワームは助けが来たのだと気づいたのだろう。それ故に無視できない状況を作り出し、新しいエサを誘き出そうとしている。
魔物にしては頭が回るな。
しかし俺の取る行動は変わらない。
「助けるぞ」
「いいの?」
罠と分かってるところに突っ込む。それがどれほどに危険があるかを知っているリーティアが聞いてくるが、ここは曲げられない。
いくら日陰にいるかといって、この炎天下の中で裸で寝転がっているのは危険であるし、何より3人のうち1人は女性である。何かが残ってしまったら大変である。
「いざという時はお前が守ってくれるんだろう?」
「!そんなこと言われると断れないじゃん」
リーティアの承諾を皮切りに俺たちは伏している人たちを助けに走る。
あと数歩といったところで俺たちの走っていた地面が嫌な音とともに少し揺れる。
「避けてッ!」
彼女の言葉が耳に届いた時にはもうそこには止まっておらず、2人とも真横に飛んでいた。
俺たちが回避行動を取った次の瞬間には地面からワームが出てきていた。
体長は30メートルを優に越しているように思われる巨体であるが、今はそんなことを言っている場合じゃない。
大きな口をあんぐりと開けて襲ってきた怪物に、身体がぞわぞわするような気持ちの悪さともし食べられてしまったらという恐怖を感じた。
グルンッ
目の見えない顔でどうやって認識しているのか、その巨体を勢いよく俺たちの方へ向けて威嚇をする。
いや、俺たちの方ではない。リーティアに狙いを定めたようだ。
俺には戦う力がないと見て、彼女さえ倒してしまえばいいと考えたのかもしれないな。やはりコイツは魔物ながら少しは頭が回るようだ。
「トワ君は先にあの人たちを助けてッ。時間稼いどくから」
リーティアがそう言ってくれたおかげで迷わず彼らのところへ向かう。
かわいそうだと言うかもしれないが、この非常事態で迷っていると何もうまくいかなくなってしまう。優先事項を間違えてはいけない。
3人の下へ駆け出した俺には興味がないようで、ワームはずっとリーティアの方を向いている。彼女さえ倒せば人間などいくらでも取れると言いたいのだろうか。
何の障害もなくたどり着くことができて3人の様子を見ると特に重傷はないようで、麻痺によって眠らされているだけだと判断できた。
これからここは戦場となるため安全な場所へ運び出そうと抱える。いくら超能力で強化しようと、3人を抱えるのは厳しかったが、そう何度も運び出すチャンスがあるとは思えなかったため無理して移動を始める。
移動を始めた瞬間にワームは俺の方へ首を傾ける。やはりエサを取られるのは嫌みたいだな。
「行かせないよー」
俺の方へ突進をしようとしていたワームはそれは叶わない。
彼女の長剣が走りワームの首筋を狙う。
それを躱すことに注意が向き、俺から目を離すワーム。
その一瞬を見逃さずに3人を避難させる。
彼らを連れて行ったのは、俺たちがここにくるのに使った穴の中だった。
ここなら地上よりも空気が冷たく、陽も当たらないため体調を崩すことはないだろう。ワームたちの通り道ではあるが、当のリーダー格が戦闘中なら気にすることもなかろう。
3人を置いてリーティアの下へと帰ると、そこでは激戦が繰り広げられていた。
すばしっこく動き回るリーティアに彼女に猛追するワーム。彼女等の動きは戦いに慣れていないものではすごい、としか言えなくなってしまうことだろう。
「あー、ムカつく」
リーティアが剣を振りながら愚痴をこぼす。
彼女の長剣という得物では眼前の巨体を前には有効打を討ちにくいんだな。それに加え、あのワームは長い間生きているからなのか皮膚が硬質化していて、適当に剣を振っただけでは傷をつけることも不可能みたいだ。
「イけるか?」
リーティアという高ランクハンターと希少種ワームの死闘に混ざるかどうか、混ざることができるかどうかを自問する。
今の俺の実力はDランク相当と言ったところか。まあ魔法を使えないこの状況では彼女らの戦いに混ざるのは危険だけど………。
「っと、そんな理屈はいらないんだよね。リーティアだけに頼るなんてことできないし」
付き合ってもらっている身なんだから俺も何かはやらないと。
走って彼女に追いつくと真剣だった彼女の表情がぱあっと明るくなった。
「トワ君!来てくれたんだっ」
「そりゃ来るだろ」
「あの人たちは大丈夫?」
「意識は失ってるけど、呼吸は正常だったから生きてると思うぞ。ケガも見た感じなかったからな」
「………女の人もいたよね?裸をジロジロ見たの?」
「今それ言うところか?それにあんまり見てない」
「少しは見たんじゃん。私以外のは見ちゃだめだよ」
そりゃ俺だって年頃の男だし。透視も全然できたことないんだから仕方ないだろ。
会話を弾ませるごとに俺たちの顔には笑顔が浮かび上がってきていた。
緊張するべき場面なのに毎回こんなんじゃあいけないのかもしれないが、つい気分が高揚してリーティアと言い合ってしまうのよな。
「とりあえず文句はコイツを倒してからにしようぜ」
「そんなことならパパッと倒しちゃうんだから」




