46話 小さな仕事と大きな魔物
トワたちはライトの家まで来ていた。
村長の家よりは少しだけ狭いが、掃除が行き届いており砂漠の中のこの村でも、家の中にはまったく砂が見当たらなかった。
「こっちだよ」
案内された先は部屋の真ん中に大きな穴の開いた部屋だった。
どうやらライトのお父さんの寝室らしく、ここで彼が魔物に連れ去られてしまったのだろう。
「お父さんが気を失った後にここまでの大きさにしたんだと思う。最初は本当に小さい穴だったからね。お父さんを連れて行く時に僕が音を立てちゃったから魔物は穴を塞がずに帰っていったんだと思う」
たしかに大の大人が1人入れるほどの穴だ。これまで攫った人たちの家にも穴が開いていたままだったら何かしらの対策をしただろうしな。
「やっぱりライトはスゴいヤツじゃないか。俺たちに助けを求められただけじゃなくて魔物も追っ払ったんだから」
そう言うとライトの顔色に少しだけ光が増したような気がした。
本当にこの子はよく平静でいられるもんだ。
連れて行かれてまだ1日も経っていないのならば、まだお父さんも生きているかもしれないな。
魔物が現れる夜まで待とうかと思ってたが、こうなったら今からでも追った方がいいかもな。それに相手がそれだけ小さいのならば、夜になったからといって見つけられるかは分からない。むしろ見つけられずに手をこまねく可能性のほうが高い。
「リーティア、準備は出来てるか?」
「とーぜん!!早く行こ」
「よし。ライトは村長さんに俺たちが魔物を追ったって伝えておいてくれ。何も言わずにいなくなったなんてなったら逃げたって思われちゃうからな。なに、気にすんな。夜までには帰ってくるよ」
俺の言葉にライトは決意の込もった顔で頷いてくれた。
その顔を後に俺たちは穴の中に消えていく。
穴の中はやはりというか、真っ暗で周りは何も見えなかった。
しかし、ここでも魔法が役に立った。
小さい火球を常に発動しておくことで、視界の問題は解決した。
リーティアがいきなりやったもんだから、酸素不足に陥るかもしれないかと思ったが、どうやら魔法で出した炎は酸素ではなく魔素を燃焼させているようで、その心配はなかった。
やはり異世界での常識なんて通用しないな。
「それにしても芋虫みたいな魔物か。リーティアは何か思い当たるヤツはいるか?」
「うーん、イモムシね〜。……あっ、ワームかな?」
「ワーム?」
聞きなれない言葉に彼女に聞き返すとワームの説明をしてくれた。
どうやらその魔物は一部の地域にしか生息しない珍しい魔物であり、大きな口と麻痺を持つキバで対象を保存するらしい。
「たしかにここら辺の柔らかい土だったらアイツらが棲むにはちょうどいいかもね。だけどエサが人間なんてワームなんて聞いたことないんだよね」
「もしかして、また帝王種なんてことはないよな」
1年前のオークロードとの戦闘を思い出して顔を青くしたまま尋ねる。
あの時は俺自身が死にそうになったということもあるが、リーティアも危なかったから軽くトラウマになってるな。
「ワームロードは存在しないから大丈夫だと思う」
聞くところによると帝王種は存在する魔物が決まっていらしい。
なんでも『始まりの人』が死んだ時にこの世界に存在した魔物に限られると言われていて、それゆえに彼の力の一端を得たことで、地域によっては神聖視されているのだとか。
「そんな危ないヤツを宗教の対象にするなよ」
「『始まりの人』様の悪口は許さん!」
「お前はエルメル教すら知らなかっただろ。そんな感じでふざけてたらいつか本当に信徒に恨まれるぞ。宗教の恨みは怖いぞ」
地球でも宗教の力はすごいものだったし、ここでも宗教がどれだけの力を持っているかは分からないからな。
それにしてもワームか。
どんな戦いになるか想像もつかない。
「お父さん、生きてるといいね………」
突然リーティアが一言発した。
彼女にしては元気がないというか、どこかセンチメンタルな雰囲気を醸し出しているもんだからドキリとしてしまった。
「そうだな………」
俺は小さい頃に事故で母と父はなくしている。
その時はまだ超能力にも慣れておらず自分一人を守るのに精いっぱいだった。
それからはあの時に一緒に死んでしまっていたらよかったと思ったことは少なくなかった。親戚の家をたらいまわしにされたり、家が人よりも裕福だったからか遺産のことでもめたり、超能力のことで悩んだことも一回や二回じゃなかった。
まあ今は異世界に転移して、死にそうになったり仲間に振り回されたりと厄介なことも多いが、生きていてよかったと心から思えるけどな。
「…………」
リーティアはいつもの様子が嘘のように黙ったまま穴の中を進んでいく。
そういえば、彼女にあった時から今まで家族の話を聞かないな。
最初にあった時からハンターとして生計を立てていたということも理由の一つになるのだろうが、意識的に放そうとしていないということもあるだろう。
彼女にも家族のことで話したくないことがあるのかもしれないな。
穴の中を進んで1時間が経とうとしていた時、視界の隅に光が映った。地上からの光だ。
1時間といっても、俺の腹時計の結果であり、暗い穴の中という環境ではそれがどれだけ正確であるかは分からない。
もしかしたら1時間なんかよりも経っているかもしれないし、実際のところは30分であったりするかもしれない。
光の導くままに進むとやっと地上に出ることが出来た。
隣を見ればいつも元気なリーティアも疲弊しており、景色の変わらない、終わりの見えない空洞の中を進むのが大変であったことが突きつけられた。
「………!トワ君、気を引き締めて」
瞬間、疲弊していたリーティアの顔はすっと引き締められる。
その言葉を聞いた瞬間に、俺も周囲の異常に気づく。
「気配が多すぎる……!」
そう、俺たちの周りの気配が今までにないほどに多かったのだ。
俺は気配を感じ取るのは苦手なのだが、そんな俺でも脂汗が出るほどの恐怖は感じ取れる。
普通の森でも異常といっていい値であるのに、ここは森ではなく砂漠である。普通であったらアリ一匹見つかるのでも苦労するのに、ここまでの気配を感じるのは異常という他なかった。
「これ全部がワームなのか?」
「……分からない。ワームは大きくて体長30メートルはあるんだけど、周りを見渡してもそれっぽいやつはいない。いったいどういうことだってばよ」
口調はふざけているリーティアも、彼女の顔は蒼白である。
しかし、いつまでも立ち止まってはいられないため、比較的気配の少ない方へと向かった。
とりあえずは安全な場所まで退避してきた俺たちはワームの対策を立てていく。
「トワ君が魔法で一掃しちゃうのは?ミラちゃんの時に使ったあの魔法だったら相手がどれだけいてもすぐに終わらせられるんじゃない?」
「俺もそれは考えたが、どうにもここら辺は魔素が少ない。超能力が使えない程度にはあるが、『星雨』を使えるほどにはない。もともとここら辺に人が寄りつかないこともあるんだろうな」
ミラの時は彼女が魔素を放出し続けていたから使えたが、あれだけの魔素はなかなかないだろうな。
今回俺はほとんど役に立たないかもしれない。
「そんなこと言わないでよー。私一人じゃあんなにいたら倒しきれないよー」
「いや、全部倒す必要はないんじゃないか?」
「?」
「いるんじゃないか、ボスが」
冷静になって考えてみたら当然のことで、小さい個体がエサを求めて人間の集落に忍び込むのは不可解なことであり、奴らを統率するボスがいると考えた方が納得できる。
「さっきは周りに30メートル級のはいなかったが、奴らの本当の巣にはいるんだと思う。そしてそこに連れ去られた村のみんなも放置させられている」
俺の言葉にリーティアは納得したようで、何度か頷いている。
「なるほどね。たしかにそれなら村の人たちが襲われた理由も分かるね。30メートルもあったらいくら何でも村の人たちには気づかれちゃうし、それで村から人がいなくなったら困るもんね」
この周囲は小さな動物や魔物はいるが、大型の魔物が腹を満たせる生物は人間しかいないだろう。それで配下の小さいワームを使って攫っているんだろうな。
「そうと分かればさっそく行こっか。倒すヤツが1匹って分かれば気が楽だよ」
「小さなヤツらのキバでも麻痺は出来るんだからな。油断するなよ」
「分かってるって」
自分的に気に入っている名前です。ライト・グランゼ。
1位は7章に出てきます。




