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始まりを刻む  作者: 桶満修一
第5章 大仕事の合間に小仕事
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45話 砂漠の中の小さな仕事

 チュール村について村の入り口付近に立っていると、壁越しに声をかけられた。


 「あなた方は………?」

 

 声をかけてきたのは老人で、杖はついていないまでも腰を曲げていて腰を悪くしているのは分かった。

 

 「ギルドで依頼を受けてきました。これが証明書です」


 そう言って声をかけてきた老人に羊皮紙でできた証明書を見せる。

 魔物に襲われている村へ入るときにはこれを見せる決まりがある。と言うのもハンターを詐称して村へと入り金品を盗む輩が後を絶たず、ギルドとしてもそれに対処しざるを得なくなりこのようなことをするに至ったらしい。


 「おおっ、ハンターの方でしたか。ささっ、どうぞお入りください」


 老人に促され村の中へとお邪魔する。

 村の中は魔物に襲われていることもあってか、どんよりとした雰囲気が立ち込めており、どことなく居心地が悪かった。


 それにしても俺たちを見てしっかり対応してくれてよかった。

 クリプン町にいたころ、ジギラスから「ハンターじゃねえ奴の中には子供を侮るやつらもいる。お前らなんかは若く見えるから注意しろよ」と言われていたから少し気にはなっていたのだが、杞憂で終わってよかった。

 まあ、村人からすれば危機を救ってくれる人が来たと思ったら、それが子どもだったりしたら恨み言を往ってしまうのもしょうがないのかもしれないな。


 老人について行き村の中心部にまで行くと、1つの家に案内された。

 どうやらそこが老人の自宅らしい。


 「ようこそ来ていただきました。私、村長のヤコブと申します。この度はこんな辺鄙なところまでよく足を運んでいただきました」


 丁寧にあいさつをされ、少しうろたえてしまう。

 あまりこっちではこんな対応をしてくれる人に会わないからな。俺たちが普段相手にするのが依頼主だったりハンター仲間だったりするのが原因なのだが。


 「いえ、こちらこそ。もう少し早く伺いたかったのですが、申し訳ないです」


 一通りの挨拶を済ませ依頼の詳細を聞く。


 「魔物は夜にやってきます。だいたい2週間前から夜に現れ、その度に村民が1人ずつ捕食されてしまい、皆恐怖に震えています。最初の内は1日おきだったりしたのですが、最近は毎晩のように現れ、次は自分が襲われるのではないかと思うと夜も眠れません」

 「魔物の姿を見た者はいないのですか?」


 毎晩現れているのなら姿を見た者がいても不思議じゃないんだが。

 

 「それが、誰も魔物を見た者はいないのですよ。皆魔物を怖がり夜は自分の家に閉じこもっていることもあり、いつも人がさらわれたことに気づくのは朝なのです」


 う~ん、そんなことあるのか?

 いくらみんなが家に閉じこもっているからと言って誰も見てないなんて、よほど魔物がすばしっこいとかなのか?


 「まあ、夜に現れるんだったら今はどうすることも出来ないわね。それまでこの村でゆっくりしていて大丈夫かしら」

 「ええ、もちろん。エディスから来たのでしたら見慣れないものも多いでしょう。ぜひ見物していってくだされ」


 老人の家を出て村の中を廻る。

 そういえば村長の名前を聞くのを忘れてたな。まあ、いっか。


 村の中は首都エディスのような活気は全くなく、むしろ雰囲気は下がっていた。

 この村に来訪する人が少ないことや、この村が砂漠のなかで生きていくのに必死ということもあるかもしれないが、やはり魔物によって命の危機に迫られているということが大きいのかもしれない。


 「私、さばくって初めて来るわ。めっちゃのどが渇くね」

 「俺もそうだよ。本当に暑くて嫌になってくる」


 エディスはそんなことなかったのだが、やっぱり海風が関係していたのか?まあ、地球の常識で考えても分かるもんではないし、気候のことについては考えなくてもいいのかもな。

周りを見渡しても村民の顔には笑顔が見当たらなく、彼らの顔には不安と絶望が張り付いていた。


 とりあえず話を聞こうと、家の外で洗濯物を干していた女性に声をかけてみた。この天気じゃ洗濯物は一瞬で乾くだろうな。


 「すいません、俺たちギルドから来た者なんですが、例の件について何か知っていることはありませんか?」


 周りには魔物によって家族をさらわれた人もいるだろうから、依頼の件については濁して聞いてみた。

 彼女は洗濯物を干す手を止めずに応える。


 「ああ、ハンターさんが来てくれたのかい。でもごめんね。あたしに知ってることは何もないのよ。この頃は朝起きるのが嫌になるよ。大抵どっかの家からむせび泣く声が聞こえるんだからね」


 女性の名前はキュリーと言った。

 彼女の言うには、昔からこの辺りでは魔物による被害が多かったが、最近はそれが起こりすぎだという。どのように村に侵入しているのか、どうやって村人を騒がせずに攫っていくのかは謎のままだという。


 「まあ、あんたらも無理はしなさんな。あたしたちを救ってくれるのはありがたいけど、一番はあんたらの命なんだから。あたしにもあんたぐらいの息子がいてね………」


 キュリーさんはそこから長々と話して、いかに息子がかわいいか、すごいかを語ってくれた。最初は笑っていたリーティアも段々と欠伸を抑えなくなってきたから、彼女に挨拶をして別のところへ向かった。


 

 次に向かったのは商人のところである。

 商人と言う性質上、村の異変には敏感であると読んで話しかけた。


 「ああ、魔物の話しな。もちろん知ってるぜ」

 「本当か!?」

 「つっても詳しいことは知らねえけどな。商人ってのは自分の身は自分で守んなきゃなんねえからよ。こういう商売に関わる情報ってのは必死になってかき集めるもんなんだ」


 そう言って商人は俺たちに串焼きを渡してくる。こんな暑い中に食べたいとは一言も言ってないのだが、まあ情報の対価として買っておこう。

 うん、うまいな。何の肉だ?


 「魔物が現れるのは決まって夜だ。それも村のみんなが寝静まった真夜中。今まで何回か襲撃があったらしいが、その家の全ての鍵はかかってたらしい。家の中を荒らされた形跡もなく、残っていたのは人を引きずったような跡だけ。まあ、それも部屋の途中で途切れていたらしいけどな」


 身振り手振りを使って俺たちに説明する姿はどこか楽しんでいるように見えた。行商人は人と話すのが好きなのかもしれないな。

 それにしても、鍵がかかっていて連れ去られるとは妙な話だ。

 この世界は技術的には地球と比べるまでもなく低次元だが、魔法があるためいくつかの項目では地球よりも優っているのがある。その一つがカギだ。

 この世界の戸締りは魔法を使っており、決められた順番で魔素を動かさない限り開かないようになっている。もちろん魔法を使って扉を壊せばいいのだが、それをやったら家の中にいる人が物音で気づくだろう。


 「ま、俺っちが知ってんのはこんぐらいよ。俺っちは夜はこの村の外で野宿をして過ごしてるのさ。お兄さんらも死にたくなきゃそうしなよ。………っと、そこの嬢ちゃん、串焼きはどうだい?安くしとくよ」


 言うだけ言って彼は仕事に戻っていった。

 それにしても、村の中じゃなければ人を襲わないのか。何か理由があるのか?人がたくさん集まっているのを分かったように村の中だけを狙うのには。


 う~ん、何件か回ったけどこれといった収穫は無しか。

 これじゃあ夜になって魔物が現れるのを待つしかないかもな。それもどこに、どうやって出るかが分からない相手を見つけるとなると骨が折れることになるかもしれないな。


 「おにいちゃん!」


 村の中を見渡していたら、後ろから声が聞こえてきた。

 振り返るとまだ小学生ぐらいの子供が俺に向かって話しかけて来ていた。


 「どうした?」


 少年の顔をまっすぐと見えるように腰を落として話を聞く。


 「おにいちゃんたちはハンターの人たちなの?もしかして………あの魔物を倒しに来てくれたの?」


 少年の顔は汗がびっしりとへばりついていて、それは恐怖を孕んだ顔に他ならなかった。


 「あの魔物って………、君は魔物を見たことがあるの?」


 口をはさんだのはリーティアだ。少年の口ぶりからして、今村の人たちをさらっている魔物を見たことがあるかのような言い方である。


 「どうなんだ?」

 「うん、あるよ………。とっても小さくて、砂の中から出てくるんだ」


 村の人たちは夜は自分の家で閉じこもっていると言っていたが、その小ささゆえに家に入ってきていたのかもしれないな。

 それにしても、どうしてこの少年はそんなことを知っているんだ?

 疑問に思っていると少年は瞳に涙を浮かべながら、ゆっくりと、しかも筋道もめちゃくちゃなまま話し出した。

 整理すると次のようである。


 「僕のお父さんも連れていかれちゃったんだ。昨日の夜に僕、トイレに行きたくなって部屋を出たの。そしたらお父さんの声が聞こえてきたんだ。「うっ」とか「あっ」とか。何かあったのかなって思ってお父さんの部屋の扉を少し開けたら見ちゃったんだ。芋虫みたいな魔物を。そいつがお父さんの首を噛んだかと思うとお父さんは動けなくなって穴の中に連れていかれちゃったんだ。もう僕は怖くて怖くて、体が何かに縛られたかのように動かなかったんだ。」


 少年は話している間、終始震えていた。

 当時のことを思い出し、その恐怖が鮮明によみがえってきているのだろう。


 「お父さんはいつも僕に僕にとって正しいことをしろって言ってたの。それが幸せになれる道だからって。だけど、僕はあの時、お父さんを助けるのが良いってわかってたのに………何もできなかった。自分があの魔物にやられるのが怖くて………動けなかった」


 「だから、ハンターさん。僕のお父さんを帰してっ。僕、お父さんとまだ話したいこと、やりたいことがいっぱいあるんだっ。お願いっ、力を貸して」


 少年の顔は今にも泣きだしそうで、それでも彼の父を救える方法を必死になって探しているのだろう。

 この子は強いな。

 お父さんが連れ去られて泣き出してしまうほどに恐怖と絶望を感じているのに、少しでも希望のある俺たちに話しかけ、助けようとしている。


 「君、名前は?」

 「ラ、ライト・グランゼ」

 「よし、ライト。俺たちがお前の父さんを絶対に連れ戻してやる。だからもう泣くな。それに、お前は正しいことができてるよ。なんてったって、ライトがいてくれたおかげで俺たちがお父さんを助けられるんだからな。すぐに戻ってくるから家でゆっくり寝てろ」


 少年の、ライトの頭をなでると、彼はトワをまっすぐと見つめる。

 ライトの顔をよく見ると、目の下には隈が濃く残っており眠れていないのが分かった。泣いた跡もあり、それは父を失った絶望と、己への不甲斐なさからくるものであると想像できた。


 「じゃあ、ライト。俺たちをお前の家まで案内してくれ」


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