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始まりを刻む  作者: 桶満修一
第5章 大仕事の合間に小仕事
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44話 ハンターだもん。仕事はやらないとね

 ジギラスと別れたトワとリーティアはエディスのギルドに来ていた。

 近くの『憤怒魔王』という脅威がなくなったことで依頼掲示板にも目新しいものが増えているだろうと、せっかくお金を稼ぐなら楽しく稼ごうと思い足を運んだのだった。


 「わぁ、ぜんぜん人がいないね」


 カランカランという音とともにギルドに入るとリーティアがそう声に出した。

 つい先日まで『憤怒魔王』がここコリプランに攻めてくるという情報が広まっていたからか、ギルドの中は閑散としており普段の喧騒は見る影もなかった。

 みんな自分の貯金を崩して遊んでいるのだろう。


 「よぉ、本当にやりやがったな」


 掲示板へ向かおうとすると横から声をかけられた。声の聞こえた方へ眼をやるとジュンがそこにいた。

 『憤怒魔王』に脅かされて、ハンターの中で唯一命の重さを知ったハンターだ。

 まだ朝だと言うのに酒を飲んでいる。ダメな大人だ。


 「朝から酒を飲むなよ。肝臓がびっくりしちゃうだろ」

 「っんだよ、肝臓って。そんなのは知らねえ」


 まだ異世界に肝臓と言う知識がないのか、それとも知らないふりをしているだけなのか判断ができないが、ろくでもない大人であることには変わりはない。


 「そんなことよりもよぉ、お前ら本当に『憤怒魔王』を倒したんだな。どうだ?強かったか?」

 

 やはりその話題になるか。

 俺たちがミラを倒しに行ったのを知っているのはこの国で今のところコイツと鍛冶屋のおっちゃんぐらいで、そこに『憤怒魔王』討伐の知らせが届いたら俺たちが倒したということは容易に想像できるだろうしな。


 それにしても強かったか、か。

 正直なところ、強すぎてバカになってしまうぐらいだ。

 一度殴られるだけで骨が軋むほどのパワー、目では負いきれない速度で動く脚力。それだけでも強いのに触れただけで肌が焼けるオーバーレイなどと言う技に、挙句の果てには透明化なんていうチート。

 あいつが転生者って言われても信じられるぐらい神に優遇されてるだろう。どうして俺たちは勝てたんだ?


 「かなり強かったよ。何度も死を覚悟したし、痛みで目の前が真っ暗になったのも両手じゃ数えられないよ。思い出しただけでホラ、鳥肌が立ってる」

 「うへぇ、マジじゃねえか」


 顔を引きつらせながら顔を青くするジュン。

 おそらくこいつがミラの前に行ったら立っていることも出来なそうだな。


 「まあ、勝てたのは8割ぐらいリーティアのおかげだよ。俺はとどめをさしただけだからな」


 隣のリーティアを見ながらそう言うと、それまで黙ってた彼女は嬉しそうに目を輝かせ背中をバンバンと叩いてくる。


 「えへへ、そんなことないってぇ~。トワ君もすごかったじゃん~」


 とろけきった顔でそう言うリーティア。まんざらでもないのは言うまでもないことである。

 まあ、リーティアのおかげで勝てたのは本当だから何も言えないのだがな。

 俺が魔法書を読んでいる間ミラを相手に時間を稼いでくれたのも、そのミラの透明化を解除させたのも彼女のおかげであり、彼女がいなかったら応戦して数秒で死んでいただろうな。


 「こんなガキが、か。すげぇな」

 「それよりも俺たちが『憤怒魔王』を倒したのは秘密にしてくれるか?」

 「?どうしてだ?みんな知ったら驚くと思うぜ」


 たしかに名声は得られるかもしれないが、それよりも魔王を倒せる俺たちを国同士が取り合って戦争になんてなったりしたら寝覚めが悪いからな。

 それは闘争を失くそうとしている俺の野望に合わないからな。

 あとそれと、ミラが生きていることが知られたら、むしろ悪名が知りわたってしまうかもしれないからな。


 「ふ~ん、そういうもんか。俺だったら絶対言いふらすけどな。ま、そういうことなら分かったぜ。誰にも言わないと誓うぜ」

 「ありがとう。リーティアもそれでいいか?」

 「私はトワ君がいいならそれでいいよ。それより早く依頼受けに行こうよー」


 どうやらリーティアはジュンと話すことに飽きたらしく、俺の袖を引っ張って掲示板に向かう。

 ジュンに手だけで挨拶をしてその場を後にする。


 掲示板はハンターがいないからか、普段よりも倍近くの量が貼ってあった。

 特に多いのが、商人を連れての護衛である。

 危機感知能力の高い商人がミラの襲撃の報を聞いて逃げようとしているのだろうか。

 

 他にも、普段であったら人気ですぐに取られてしまう依頼も多く残っており、選び放題であった。

 例えば報酬のいい周辺の調査や近くの村で出た魔物の討伐なども今は残っていてホクホクだ。

 特にここコリプランでは近くに『憤怒魔王』がこの前までいたから周辺の調査に力を入れてるようなので他の地域よりも報酬を国が出しているらしい。

 村のほうも遠出する必要があるから報酬がいいのだが、実際のところは気分転換で行くハンターが多いためアタリの依頼と言われている。


 「何をする?リーティアの琴線に触れるやつはあるか?」

 「う~ん、お金は王様がくれたから報酬は気にしなくていいや。それよりも面白そうなやつは………、あっ」

 

 何かを見つけたらしく彼女は少し背伸びをして1枚の羊皮紙を手に取った。


 「これはどう?面白そうだし、トワ君もやりたいんじゃない?」


 その紙に書いていたのは近隣の村、チュール村に出現した魔物の討伐依頼だった。

 出現した魔物は不明、推奨ランクはBランク以上。正直言って危険も高くアタリの依頼でなかった。


 しかしこの依頼が出されたのはもう1週間も前であり、それはその間魔物に命を脅かされていたという意味になる。

 それは俺の生きている原動力なんだから。


 「そうだな。よし、受けに行こうぜ」


 紙を持って受付に行くと受付嬢が手続きをしながら話しかけてくる。


 「依頼を受けて下さりありがとうございます。なんだか不穏なうわさが広がって見ての通りハンターの方々が少ないんですよ。それだから依頼もたまる一方で……」

 「あー、その噂なら私も聞いたわ。けどもう収束し始めると思うよ。なんかこの依頼について注意とかある?」


 意味深なことを言わないでほしい。

 リーティアを放っておくといつか口を滑らしそうだな。


 「そうですね………。やはり魔物がどの種類なのかを特定できていない点ですね。すでに村人が何人か襲撃を喰らって帰らぬ人となっています。ランク、種類、獰猛性、どれも不明なため、少しでも危険を感じたら一度帰って報告してくれるとありがたいです」


 真剣な表情で俺たちに語る彼女は話を盛っているような雰囲気は感じない。

 まあ、一度帰ってしまうとその分村人が犠牲になってしまう人数が増えるのでその案は却下なのだが。


 手続きを終わらせジュンに挨拶をしてギルドを出る。

 未だ時刻は午前であり、件のチュール村までの距離を考えれば今出発すれば明日の朝には着くと思われた。


 「じゃあお昼ごはんを食べたら出発しようか」 

 「いや、昼には早いし携帯食を持ってもう出よう。」

 「えーー。あれおいしくないんだけどー」

 「許せリーティア。これが最後だ」


 額に指をあてて謝った。リーティアは知らないかもしれないな。



 ギルドを出て数時間後、俺たちはコリプランの西へと向かって歩いていた。

 西に行くにつれて建物の数や歩いている人も見なくなってきて、首都から離れていることが見れ取れた。

 

 「あー、おなか減ったー。ちょっと休もうよー」

 「もう少しだけ頑張ってくれ。地図によるともう少しで休めるところがあるそうだからな」


 ここに来る途中で携帯食は食べたが、味がないからかあまり食べた気がせずに腹をすかしてしまっている。やはりこういうところは地球が恋しくなるな。


 「うまい肉が食いたい」

 「私も………」


 そのようなことを言っている間に食堂が見えて来て、空腹に耐えれなくなった俺たちはそこに入り少し遅めの昼食をとった。


 「それにしてもまだミラちゃんがやられたっていう報告は聞かないね。魔王なんだからすぐにでも広がってもおかしくないと思うのに」

 「魔王だからじゃないか?あれだけの力を持ったやつがやられたってなればだれがやったのか、どうやってやったのかとかが議題に上がるだろ?だから民間にはまだ知らせてないだけなんじゃないか?それに、そもそも魔王の動向を四六時中見張っているわけにもいかないだろうしな」


 あんなバケモノに見張ってるなんて気づかれたら死んでしまうからな。

 そんなことだからまだ国民は気づいていないのかもしれないな。まあ、噂が立つぐらいミラの侵攻は有名になっていたから遠からず分かることだとは思うけどな。



 

 お昼ごはんを食べ終わり件の村へと向かう。

 今のペースで行けば予定通り明日の朝には着きそうだ。

 


 数時間ほど歩いたところで俺たちは砂漠を歩いていた。

 数メートル先も見えない程の砂煙の中を歩くのは人生初であり、前に出した足が埋まってしまって足元がおぼつかないこともあり少し時間がかかってしまっていた。

 1つの国の中で海が見えるところもあれば砂漠もあるのはこの国が横に大きい所以だろうか。それとも、この世界の魔素が何かに原因しているのか。

 そんなこともあり村まであと数キロを残して今日はここで野営となった。


 「ここら辺はなぜか魔物があんまりいなそうなんだよね。それでも一応警戒はしないといけないけどね。トワ君先に寝ていいよ。私まだ眠くないし、少ししたら起こすよ」


 お言葉に甘えてその場で眠る。

 野営の時はいつもこうだ。

 どちらかが先に眠り、もう片方が起きながらあたりを警戒する。俺たちは2人だから1人が取れる睡眠時間は多くないが、それでもなんとか日中の間は眠くならないで済んでいる。

 まあ、異世界でスマホやパソコンがないから眠りを妨げるものがないっていうのも昼間に眠くならない要因になっているのかもしれないな。


 そうやって俺たちは夜を明かした。


 太陽が上がってきたのを確認してリーティアを起こす。

 少しぐずる彼女であったが、何とか起こして件の村へと向かう。

 時刻は朝の6時ぐらいだろうか。こんなに朝早くに行動を始めるのは異世界に来てから変わったことの1つかもしれないな。


 昨夜の砂煙も晴れて見通しが良くなったおかげで昨日よりも砂漠の中を歩くのが楽しかった。

 見慣れない植物に見慣れない動物、ここの生態系は地球とは違うのだろうということが容易に想像できる。

 村の周りには土壁が建てられており、少しでも魔物を対策しようとしているのがうかがえた。


 太陽が真上に来たぐらいで件のチュール村に到着した。

 村は砂漠の中心に位置しており、砂漠特有である肌色の砂を固めた岩を多く使用した自然と共に生きているような印象が強かった。

 

 ここが村人が消えるという村か。

 何事もなければいいけど………。


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