43話 Aランクハンターってのは誰なのさ!
「ねー、トワくーん。どうしてあの依頼受けたのー?もうちょっと海を堪能したかったんだけどー」
「王さまの依頼を断れないだろ、特に本人の目の前じゃ。それにトリアスにも海はあるぞ。南に進むだけだからな」
「あれ?そうなの?ならいっか」
思った通りリーティアの意志は軽く、海が見れるのであれば別にどうでもいいようだった。と言うか、なんで俺よりもこの世界の地理に弱いんだよ。
「だけど役人さんの護衛なんて何をやるの?」
「分からないけど何か条約を結ぶみたいなことを言ってなかったか?この世界の歴史が分からないから推測も出来ない」
まあ、またいつか分かるだろうしいっか。
それからこれから来ると言われたAランクハンターを待たないといけないことを思い出した。
王宮の役人の護衛という重要な依頼であり、依頼の成功は絶対なのだ。
そのため、Aランクハンターという一国に3人もいない強力なハンターが今回の依頼には着いてくることになっていた。
「あーあ、あんまり変な奴に来られちゃうと困るのよね。ほら、私って美人でセクシーだから色目を使われちゃうかもしれないし」
リーティアが体をくねくねしながら放つ言葉は聞き流し、トワもそのことについて考えを巡らす。
確かにいくら腕が立つとはいっても、性格に難がある者とは一緒に旅をしたくない。特にトワたちはミラを倒したのは事実だが、それがギリギリの戦闘の結果だというのも事実なのである。
難癖をつけられて、万が一その者と戦闘になった場合に勝てるかどうかは不安が残るところでもあった。
━━コンコン━━
客室の扉が叩かれ2人の視線が向く。
「ノックをするっていうことはちゃんとしてるかも」
「いや、まだ分からんぞ。ノック2回はトイレの合図だ。ここをトイレと勘違いしてるバカ野郎の可能性も捨てきれない」
「おい、聞こえてるぞ。バカ野郎ども」
そんな罵声とともに入ってきたのは、無精ひげを生やした全身傷だらけの、どこか見知った大男であった。
「あれ?ジギラスじゃん。どうしてここにいるの?ここはトイレじゃないよ?」
「んなこたぁ言われなくても分かってるよ。にしてもお前ら、魔王に勝ったんだな。よくやったよ、本当に。すげえじゃねえか」
現れたのはクリプン町でも何度か顔を合わせ、俺たちに修行を付けてくれたAランクハンター、ジギラスであった。ジギラスは頭をボリボリと搔きながら部屋の中央まで来てソファに座る。
「お前ら強くなったなー。まさか本当にあの『憤怒魔王』を倒すとはな。こうして目の前にするとお前らがどれだけ強くなったのかすこしは分かるよ」
「ふふ、まあね。ていうか、助けに来てくれても良かったんじゃないの!」
「悪かったって。こっちにもいろいろあってな」
「魔王以上のいろいろってなんだーー!!」
ミラの時にジギラスが来てくれなかったことにまだ不満を感じているようだ。
たしかに、ジギラスが来てくれればもっと楽に倒せていたのかもしれないから不満を漏らしたくなる気持ちも分かる。
だがしかし、実際に当時のジギラスに何が起きていたのかを知る者は、今は誰もいない。
とにもかくにも、同行する者が信用のおけるものと判断できたため、護衛チームはこれで決定となった。挨拶を済ませた一行は使いの者から依頼の詳細を聞く。
今回の依頼は役人の護衛である。目的地は南方の国トリアス。『憤怒魔王』が領地を確立する前までは大国として多くの国を併合していった国であり、良好な関係を築こうとしているのだろう。
「それじゃあ、一月後にエディスのギルドで待ち合わせね」
リーティアのその一声を最後にその場は解散となった。トワとリーティアは行きの馬車でエディスまで帰ろうとしていると、そこに待ったをかけてジギラスも乗り込んできた。
「ちょっと、なんでジギラスも乗ってくるのよ。せっかくトワ君と2人きりなのに」
「まあ、そんなこと言ってくれんなよ。別の馬車を用意するのも面倒だろ。俺とリー嬢のなかじゃねえか。」
リーティアは文句を言っていたが、結局トワが許可を出したためジギラスも一緒にエディスに向かうことになった。車内はこれまでジギラスがどうしていたのか、魔王はどうだったのかなどを語り合っていた。
ジギラスはトワたちに修行を付けた後、万が一『憤怒魔王』が攻めてくるようなことがあった場合にエディスの町の守りを固めていたらしい。
「んなことよりよぉ、『憤怒魔王』はどうだったんだよ。どんぐらい強かったんだ?」
「どんぐらいって言われてもなー。めちゃくちゃ強かったっていうしかないよ」
そこからはミラがどれほど強かったかが語られる。
透明になり視覚ではとらえることのできない脅威。身体中から魔素を噴射し触れるだけで蓄積されるダメージ。純粋な身体能力。どれか一つだけでも凶悪的なのに、これら全部があったのだから今思い起こしてみてもどうして勝てたのかが分からないほどに強かった。
ミラの強さを1つ語れば、それに呼応してジギラスが絶叫だったり感嘆だったりをだすため面白くなって長いこと話してしまった。
リーティアの説明が「魔力をヴォーーってだしたり、ヒュンって移動したりヤバかった!!」みたいな説明しかなかったから、ところどころ解釈するのに苦戦していたがある程度は理解できただろう。
「そんでよ、魔王はどうなったんだ?国に渡したのか?」
「……あー、そのことなんだけどさ。……誰にも言わないでね?」
「あー、いやいや、そう気にすんな。殺しちまうのも仕方ねえさ。むしろ生かしておくことの方が難しいわ」
手をブンブンと横に振って大声で彼女を慰めるジギラス。
生かして捕らえるのが最善なのは当然であるが、実力の拮抗した戦闘では生死を考えていたら死に直結してしまうことは彼自身がよく分かっているのだろう。
「いや、そうじゃなくてね………。実はミラちゃん逃がしちゃったんだよね~。ははっ」
「はぁっ!?」
衝撃の告白に一瞬理解が追い付かず、ジギラスは「おまっ、それは」などの意味の伴わない言葉を繰り返す。
彼の理解を待たずに彼女は話し続ける。
「トワ君の魔法でとどめを刺したと思ったんだけど、生きてたみたいでね。それで意識のない敵を殺すのもあれだからってことで、殺さないことにしたんだよね」
「まてまて!言いてえことはいろいろあるがよ、じゃあ今もまだ魔王は生きてるってのか?」
「うん、そうだよ」
焦って問い返すジギラスに軽い調子で答えるリーティア。彼女は口をあんぐりと開けている彼を無視してミラとの約束を語りだす。
「ミラちゃんとね、約束をしたんだ。今後一切人さまの迷惑になるようなことはしないこと。この領地を捨ててどこかに行くこと。この2つを破った時にはまた私たちが倒しに行くってことをね」
戦闘後、ミラの様子を確認するとわずかではあったが息をしていた為、連れ帰り目を覚ますまで様子を見ていたのだ。
目を覚ましたミラは混乱していたが、起きた直後にトワとリーティアが先程の約束を交わしたのだ。最悪また戦いになることも覚悟していたが、ミラがひどく怯えていた様子であったため、その約束を破ることはないだろうと判断できた。
「お前ら…マジかよ」
言葉もないといったようなジギラスの反応が面白くてケラケラと笑うリーティアに彼も呆れるほかないようだった。
「いいか、お前ら。このことは俺以外の誰にも言うなよ。もし魔王が生きているってなったらこの国どころか、名声を得たいハンター共が躍起になって殺しにかかるからな」
「だいじょぶだって。ミラちゃんの姿を見た人はいないし、普通にしてればただのかわいい女の子なんだから」
得意風なリーティアを相手に何を言っても無駄と聡い、この話は終わりとなった。
一行がエディスに着いたとき、その町には肌寒さが訪れていた。暦上ではすでに夏が終わり、冬に入っていく時期である。町を歩く人の中にもちらほらと厚着をする人が出てきた。
「それじゃあ1ヶ月後にまた会おうね!それまでは私たちは傷を癒してるよ」
「おお、お大事に。俺はまあ適当に金を稼いどくか」
「死ぬなよ」
「わかってるよ」




