42話 謁見
『憤怒魔王』が撃退されたという知らせが届いた日、世界は震撼した。
絶対的強者である『憤怒魔王』ミラが敗れ、コリプラン国の首都であるエディスが魔王の脅威から解放されたという知らせが届いたからである。
誰の仕業なのか、新しい魔王の誕生を示すものなのか。その知らせを聞いた者たちは様々な憶測を飛ばし、それが余計に事態を混乱に招いた。
しかしながら、そのような中でもコリプラン国王、エドラス・フォン・コリプランは冷静だった。
すぐに事の真偽を確かめさせ、件のハンターについて調べさせた。
『憤怒魔王』が倒された日に近くに滞在していて、なおかつ一定以上の実力を備えている者など、あてはまるものは少なかったため特定は早かった。
「誰だ?この者たちは」
「一介のハンターとしか………」
手元にある紙切れを眺め、顔を顰める。
特定したハンターは確かに強い。1人はBランクのハンターであり、もう1人はたった1年で実績を上げてきているハンターだ。普通の魔物であれば難なく討伐することができるというのは報告から分かっていた。
だがしかし、魔王討伐となると話は別だ。
Aランクのハンターであっても敵わないと言われている魔王を、長年コリプランを脅かしてきた『憤怒魔王』を倒したとなると真偽のほどが分からない。
「すぐにこの者たちを呼びつけよ。魔王の撃退に何の報奨もなしでは他国に示しがつかんわ。それに、事の真偽も確かめたいしな」
「御意に」
……………………
……………
………
「ここにハンタートワ、ハンターリーティアはいるか。エドラス王がお呼びである。王宮についてきたまえ」
その呼びかけは2人が宿の自室で自堕落な生活をしているときに聞こえてきた。
ドンドンドンと、あまりにも大きな声が急に聞こえたものだから、2人の驚きようはベッドから体が落ちるほどだった。
「なになに!?敵襲?今度は誰!?」
「落ち着け、リーティア。お相手さんが今言った通り王宮からの遣いだ。俺らの待ち望んでいたのが来たってわけだ。」
ミラとの死合から2週間。1週間は2人ともほとんど寝たきりの状態であり、宿の女将が食事を持ってきてくれなかったらここで息絶えていたかもしれなかった。
受けた傷はまだ完璧には治っておらず、特にトワの両手は最後のミラの蹴りを真正面から受けたため未だに十全には動かせない状態であった。『憤怒魔王』戦において2人の財産は尽きかけていたため、報奨の話であろう王宮への招待は渡りに船のことであった。
扉の前にいる使者に招待に応じる返事をし、出かける準備を始める。使者は2人の若さとケガの深さを見て驚いたがそこはプロである、あからさまには態度に出さず応対した。
準備を終えた2人は王宮へ向かう。エディスはコリプラン国の首都ではあるが、国王が住んでいるのはもう少し北西に行ったところであり、到着するのに2日ほどかかるという話だった。
「王さまが首都にいないって不思議ね」
「そうでもないだろ。そもそも魔王がいつ攻めてくるか分からないところに王が住めるわけないしな」
「わっ、たしかに」
他愛のない話をしながらも馬車は目的地へと向かっていき、2日後には特に魔物や野盗に襲われることもなく王宮へと到着した。
「デカァァァァァいッ説明不要!!って感じね」
大国であるがゆえに、コリプラン国の王城はかなりの大きさとなっている。白を基調としたデザインに、所々に美しい海を彷彿とさせる優美な青が組み合わさり、見る者を問答無用で圧倒させる荘厳な城であった。
「こちらです」
通されたのはいかにも玉座の間といったところで、そこにはひげを生やした齢70ほどの男性が座っていた。老齢ながらも目に灯る光は失われてはおらず、精悍な顔立ちをしていた。
部屋に案内をした人が「こちらがエドラス・フォン・コリプラン王であらせられる」と言い、この国を統治する王であると分かった。慣れないながらも、打ち合わせしたとおりに片膝をつき、首を垂れて敬意を表すトワとリーティア。
「よい、楽にせよ。其方らを呼んだのはほかでもない。『憤怒』の討伐見事であった。どうであった?『憤怒』は強かったか?」
「それはもう………。思い出すのがイヤになるほどですよ。攻撃は重いし、速いし、挙句の果てには透明になるし。っと、申し訳ありません」
「よい。そうか、本当にお主たちが倒したのだな………。見事じゃ。褒美は何が欲しい。何でも………、とは言わぬが大抵のものであれば与えてやる」
「あっ、そうなんですね。それじゃあーーーむぐっ!!」
「失礼しました。我々は当然のことをしたまでです。褒美は不要かと」
トワに口を閉ざされたままリーティアが抗議するかのようにこちらを見るが、それには意を介さない。
「そういうな、ハンタートワ。それだけのことをしたのだ、褒美を与えねば余が軽く思われるであろうよ。遠慮はいらん、申して見よ」
まるでトワの返事を待っていたかのように言葉を紡ぐエドラス王。
「それでは陛下。恐れながら少しばかりの財を頂きたく思います」
「うむ、合い分かった。用意しよう。」
トワの要求を聞き、階下の者に目で指示をだす。
「まさかそれだけではあるまい。他になにか欲しいものは無いのか。何でもよいぞ」
王はトワたちがまだ報奨として望むものがあるように思えてそう尋ねるが、トワたちにはお金以上に欲しいものなんていうのは考えつかなかった。
(うーーん、特にないんだよな~。王さまとしては爵位でも与えてこの国に根付いてほしいのかもしれないけど、俺らには向いてないように思うし……。なんかあるか?リーティア。)
(特になし!だけどそろそろ手放して。舐めちゃうよ)
慌てて彼女の口から手を放し手のひらを確認する。そんな彼の様子を不思議そうに見るエドラス王に返答する。
「いえ、陛下。我々はこれで十分でございます」
トワの言葉に、瞳孔が開き驚きを見せるエドラス王。少しばかりの沈黙の後、彼が威厳を込めて話し出す。
「……そうか、欲の少ないことよ。それでは其方らに1つ依頼をだしたい」
予想していなかったエドラス王の言葉に唖然としたまま黙っていると、彼はトワたちの答えを待たずに言葉を続ける。
「これから南方のトリアスへの役人の護衛を頼む。むろん、報酬は弾もう。Aランクの者と一緒に行ってもらいたい」
エドラス王は響き渡る声でそう言った。
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