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始まりを刻む  作者: 桶満修一
第1章 超能力者の異世界転移
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4話 始まり①

 帝王種

 それぞれの魔物における頂点。高い知能を有し、自身と同族の魔物を使役することが出来る魔物の王。その力は魔物を生み出したと言われる『始まりの人』の力の一端を有していると言われるほど強力な存在。

 『豚帝王』は帝王種の中では下位に位置しているが、それでも配下を連れた王に一人の少女だけで勝てる道理などあるわけがなかった。

 

 「ずいぶんとお仲間も連れちゃって。寂しがりやさんなのかな?」

 『何、ほんノ10匹程度よ。どレモ我の一撃で死ヌ木っ端に過ぎンがな』


 気づけば幾匹ものオークが彼女の周りをかこっていた。

 

 (これは逃げられないなぁ。まさか帝王種が出るなんて考えてもなかったよ、トワ君の不運が連れてきたのかな?―ってトワ君は!?)


 頭の中で軽口を言うと、それと同時に後方に置いてきた永遠を思い出して不安を感じた。

 オークたちが彼女をかこっているという事は、もしかしたら永遠は既にオークたちに見つかってしまったのではないかと思ったのだ。

 実際のところは運よくオークが彼女を包囲する前に逃げ出しているのだが、そんなことを彼女が知れるわけもない。


 (逃げれてばいいけど。ジギラスにでも話してくれればコイツだってやっつけられるでしょ、それまで私はコイツをここで足止めする。ここまでかな)


 そう、ここでリーティアは既に決心していた。

 否、分かっていたのだ。


 ―――ここで死ぬ、と。


 オークロードとの1対1でも勝てる見込みは少ないうえに、敵の周りには主を身を挺してでも守る魔物もいる。

 勝率など、ない。

 しかし、だからこそ彼女は短剣を構えて真剣な顔で敵を見据える。


 「私はもう十分生きたよ」


一度は失った命を、生活をもう一度謳歌できた。

 魔法のある世界で恵まれた力を有して生まれ落ちて、これまでの人生には全くの未練もない。あろうはずもない。


 リーティアは覚悟の決まった目で自分の背丈の2倍はある魔物を見つめる。

 この狡猾で臆病で、仲間を仲間とも思わない帝王はリーティアの戦いを先んじてみていたのだ。先ほどのオークたちもこの王の配下だったのだろう。お供の内の3匹をおとりにして奇襲をかけられないように、戦いを有利に進めるようにと。



 「アンタはここで殺すよ」

 『やってミロ、小娘』


 片方は一介のハンター、もう片方は王の一角。

 決着は早い。



 「はあ………はあ………」


 口から漏れ出る息は自分の思惑を外れて音が出る。

 自分から出る音が静かな森を騒がせているのではないかと錯覚する。それでも走るのを止めることは出来ず、横腹が悲鳴を上げてもそれを上回る恐怖が胸の奥から湧き上がっていた。


 「逃げ…………なきゃ………。死ぬ…………!」


 思い出すのはあの醜悪なバケモノ。

 3メートルはあるだろう巨体は僕の脳裏に刻み込まれ、それがドロドロとした不安になって焦燥感を煽った。

 ――あんなものと視線があってしまえばすぐに死んでしまう。

 僕の足はより速く動いていく。

 

 ―――リーティア


 恐怖に侵された僕の思考に1つの光が灯る。

 置いてきてしまった少女を忘れることなど出来ようはずがなかった。


 「いや、変なことを考えるな!無理だ。僕が行っても何にもならない。邪魔になって死ぬだけ、無駄死にだ!」


 まるで自分を納得させるかのように言う。

 そうだ、地球の頃だったらともかく今の僕は何の力もないただの高校生。あんなバケモノを相手にしたところで一瞬で死んでしまうのがオチだ。

 ギルドに戻ってジギラスに知らせた方がリーティアの為にもなる。

 それに何より、死ぬのが怖い。


 「うっ…………」


 昨日痛めた左腕がズキズキと僕に死を思い出させる。

 あの時の痛み、恐怖、焦燥、絶望、自分という存在が消え去っていく虚しさ、全てが僕の足を加速させる。

 そうだ、僕はもうあんなことにはなりたくない


 ――あんまリー嬢に悪さしないでくれよ


 ふと、僕の心にジギラスの声が聞こえた。

 ギルドを出る直前に聞いた訳の分からない言葉。それが今、彼女を裏切っている僕の心を抉っていた。

 アイツは僕がこうなることが分かっていたのか?僕がリーティアの優しさにつけこんで彼女を裏切るという事が分かっていたのかもしれない。

 しかし、それでも僕の足は止まってくれない。

 これは裏切りじゃない、これは合理的な判断なのだ。そうやって自分に言い訳をする声が響く。


 ――大丈夫、トワ君のことは私が守ってあげるから


 その幻聴が聞こえた時、僕の足は進むことを止め、その場に立ち尽くしていた。

 昨日彼女に言われた言葉。

 あの時は軽く受け止めていたが、今になって思う。この絶望的な世界で人を守るという事がどれほど大変で、それでいてどれほど勇気を持った行為なのかと。

 そんな彼女を裏切っている今の僕が、僕は情けなくてたまらない。

 でも僕は死にたくない。死にそうにだってなりたくない。

 

 ――僕は

 ――彼女は


醜い葛藤の末、僕はーー走り出していた。





 戦闘が開始してすぐにオークが2体大きな音を立てて倒れこんだ。

 リーティアの早業により足の健を断たれ立っていることが出来なくなったのだ。普段であったら殺すところも、今の状況ではそこまでやっている暇がない。

 戦闘に関しては通常時よりも頭が回っているようだ。


 「はぁはぁ…………」


 必殺の威力を持った存在が自信を囲っているという緊張感からか、普段よりも動いていないにもかかわらず息が上がってきている。

 しかしそれでも短剣の血を振り払い警戒を薄めることなく戦闘態勢を整える。


 彼女の目的は、永遠の逃げる時間を稼ぐこと。

 豚帝王は沈黙を決め込み、まるで実力のすべてを見極めてから相手することを目標としているようだ


 (なんて臆病なんだろうね。こんな奴に負けたくないなー)


 そう考えている間にオークが数体一斉に向かってくる。

 リーティアの獲物は多対一に向いていないため、この時点でほとんどの者は死んでしまうだろう。

 しかしリーティアの出来ることは短刀術だけではない


 「火球(フラン)!!」


 向かってくるオークの内の1体を焼き殺し、それで空いた隙に入り込み残った3体を一刀の下に切り伏せる。


 「素晴らしいナ、小娘。よもやここまデやるとは思わなンだ」

 「そりゃどうも。魔物に褒められても全くうれしくないけどね。褒めるんならイケメンを連れて来てくれる?」


 軽口を飛ばすリーティアだが、内心はバクバクである。一発でもまともに食らえば戦闘不能のダメージを食らってしまうのだ。先ほどの攻防の時にかすった攻撃だけでも、きれいな頬から血が垂れ、透き通った銀髪を赤く染めている。


 「やっぱり、親玉を潰すのが手っ取り早いよね。相手してくれる?」


 この発言は、リーティアにとって半ば賭けであった。

 確実に倒せる相手ではなく、むしろ真っ向勝負で打倒する確率の方が高いであろう。

 しかし、手先のオークを差し向けられ続け体力、魔力ともに削られればその間で死んでしまうこともあるだろう。

 

 「それとも、小娘相手に負けることでも考えてんのかな?」


 少しでも自分が生きて帰れるように、トワが安全に逃げ出せるように、彼女は自分を卑下してでもこの誘いに乗せようとする。


 「イイだろう。我にすべてを見せてみロ」


 かくして、帝王と少女の戦いが始まった。

 帝王の獲物は刃こぼれのあるメイス。ハンターから奪った物だろう。それを振り下ろし少女を細切れにしようとする。

 それを少女は短刀で受け流して攻勢に出ようとするが、想像していた以上の力で体勢を崩してしまう。幸い、そこに付け込まれるようなことはなかったが、両者の間には明らかな力の差を確認できた。


 「うおおおぉぁぁぁああああああああ!」


 しかし、少女も負けたままではいられない。

力を振り絞るように腹の底から声を出し、限界を超えた速度で切りかかる。


 「グヌゥ」


 (ここでコイツを倒す!少しの目線の変化も、予備動作も見逃さない。よく見てよく動け。ここでコイツを倒せばあとは烏合の衆。逃げることも倒すことも問題ないよね)


 彼女は豚帝王に向けて頭と体をフル回転して、眼前の脅威を打倒せんとしている。

 それ故、彼女は気づけなかったのだ。


 そう、この空間は2つの生物では出来ていない

 

 彼女が気づいた時には、後ろのオークの内の一体がこぶしを振り落としていた。

 ただでさえ彼女は豚帝王という脅威と渡り合っているのだ。その上での意識外からの攻撃、避けれる道理などどこにもなかった。

 リーティアの脳裏には様々なことが渦巻いていた


 (あーやっちゃった。もう助からないなあと何秒だろうコンマ一秒ってとこかな知らんけどトワ君逃げ出せたかな。せめて一太刀は入れて逝きたかったなあ)



 (怖いな………死にたく……………ないな………)



 少女の小さな命の灯が消えんとしていた時、森の奥が騒いだ。



 「うおおおおおおおおお!!!!」

 「━━━━え?」



 その声の主は自身の身体でオークを突き飛ばし、死に瀕していた少女を助け出していた。

 そう、この場は彼女らだけで構成されているわけではない

 そこには1人の、臆病で、自分本位で、痛みに慣れていない、力を失った少年がいた。


 「トワ………君……?なんで………?」


 一度は逃げ出した少年はしかし今、この場に立っていた

 その理由は罪の意識か、あるいは正義の心か、はたまた死への恐れを克服したのか。

 否

 彼は、星見永遠は━━━


 「僕は自分の命も、お前の命も、どっちも守りたい。」


 彼はバカげた理想を語った。

 この世界で生きていた者たちが笑ってしまうような理想を。

 それが涙を流す少女の問いかけの答えかのように。

 避けようのない死を、当然となったこの世界の死を覆すことをここに誓って。


 ここに星見永遠の始まりを刻む。


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