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始まりを刻む  作者: 桶満修一
第4章 孤独の超越者
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34話 別れ 全てを経験する男


 「トワさんとリーティアさん、あれから学校に来ませんね」


 エディス魔法学校ではトワとリーティアの行方を掴めずにいた。

 この魔法学校では登校が義務付けられているわけではないので大々的に捜索が行われている訳でもなければ、むしろほとんどの者は2人のことすら知らなかった。

 しかし、彼らと親しかった者たちはその限りではない。


 「もうあれから5日目。どうしたんでしょうか」


 あの日、自分たちの分の料金を払ってくれて「明日またお礼しよう」と思っていた矢先の欠席だ。

 最初は体調を崩しでもしたのかと思ったが2人揃って休むのも、5日連続で休むのも不可解だ。もともと欠席したことなど一回もしたことないのだから、単純にサボったとも考えられない。


 「今日は来てくれてるといいなぁ」


 ユナがそう呟いて教室に入ると机に紙が一枚置いてあった。

 まだ朝早く教室には誰もいない。

 どこか嫌な感じがしたアルジェルト、カンガル、ユナの3人はすぐさま駆け寄り紙をじっと見る。

 宛先は自分たち。

 そして差出人は、件の2人。トワとリーティアであった。

 何かに突き動かされるように急いで封を解き中身を確認する。




 ユナとアルジェとカンガルーへ。 

 急にいなくなってゴメンね。いやー、手紙を書ける暇がなくてね。コレを書いてるのだって読んでる日の朝だもん。

 あっ、他の人が読んでたらユナたちに渡してね。


 さて、ここからが本題。

 いきなりのことだけど、もう学校には通えなくなっちゃった。

 理由は、言えない。

 言ったら絶対止めるだろうからね。まあ、重く考えないでよ。ハンター特有の急に出来た用事みたいなもんだから。

 この2ヶ月間、めっちゃ楽しかった。これまでこんなに友達が出来たことも、遊んだこともなかったからすごい新鮮な気持ちだったんだよ。

 頼ってくれたときだってすごい嬉しかった。私ってバカだから褒められたこともあんまりなかったんだけど、みんなは「スゴい、スゴい」って言ってくれてびっくりしてたんだよ。その時は調子に乗って誤魔化してたんだけど、本当は内心飛び跳ねて喜んでたんだ。

 長くなっちゃったかな?

 みんなのことは大好きだし、これからも友達でいたいって思ってる。

 だからみんなが笑って生きれる未来のために、いったんバイバイだね。

 また、いつか絶対会おうね‼︎

 


 リーティアが幅使ったせいで僕のところがあんまり残ってないから短めで。

 リーティアも言ったけど、急にいなくなってごめんな。心配してくれてたら嬉しいよ。

 

 正直僕は学校ってところにいい思い出がなかったんだ。

 故郷でも何年か学校に通ってたんだけど、授業はつまんなかったし友達はできなかった。周りの人なんて感情があるのかすら疑ってたくらいに他人に興味がなかった。

 だから魔法学校に通うことになった時、すこし不安だったんだ。

 アルジェたちが僕と疎遠になったらどうしようって。学校で過ごしてる時だって僕に気を遣って接してるんじゃないかって何度も不安だった。

 驚いたかな?僕も自分がこんなことを気にするようになるなんて思ってもなかったよ。


 でも、アルジェとカンガルーとユナはずっと僕に話しかけてくれて、安心したんだ。

 授業のことについて話し合ったり、みんなで一緒にご飯を食べたり、みんなとやったこと全部が初めてで今でも鮮明に思い出せるんだ。

 休日に遊びに行った時は楽しかったな。ダーツなんて初めてやったけど、あれ以来ずっと頭の中でシミュレーションしてるんだぜ?またやりたかったな。


 学校は今日で辞める。

 理由は言えない。エリーナ先生にも言っておいてくれ。

 僕のことなんてすぐ忘れちゃうかもしれないけど、それでも僕にとっては一生忘れない経験になったんだ。

 また会ったら、一緒に遊ぼうな。

 またな‼︎


             トワ、リーティアより。




 そこで手紙は終わっていた。

 一方的な謝辞を述べたその手紙を読んだ3人の反応は三者三様だ。

 急な別れに涙を流す者、状況が理解できず呆然とする者、自分の無力を痛感して自分に対して憤慨する者。


 「多分、トワさんたちは命を懸ける戦いに行ったんだと思う。相手が何かは知らないけど、2人でも勝てるか分からない強大な敵なんだと思う」


 推測したのはアルジェルトだ。

 少ないヒントから正確に事態を把握した彼の顔は、しかし無力感に苛まれている。


 「だったら!俺っちたちもトワっちたちの援護にーーー」

 「僕たちが行ったら邪魔になるから置いて行ったんだろ!」


 彼の推測を聞いたカンガルが驚いたようにそう言うも、アルジェにすぐに黙らされる。

 それを言う彼は苦しそうに、そして悲しそうな表情をしていた。


 「だったら勝てたら帰ってーーー」

 「………そうとも言えないよ。もともとあの2人にはやることがあったみたいだし、この学校も通過点の1つだったんだ。だから、いつかはこうなるって分かってた。分かってたけど、こんなに急に………」


 アルジェたちにはトワたちがしようとしていることは何も分からない。

 ハンターとして各地を回ることで何を為そうとしているのか、自分たちを助けたことにも関係するのか、何も分からない。

 しかし、彼らと過ごした時間は明確に自分たちへの刺激となった。

 だからこそ、別れの時は精一杯お礼を言いたかった。


 「………分かったよ」


 その時、それまで涙を流し話すことの出来なかったユナが口を開いた。

 未だ涙を流して鼻を啜る彼女は舌足らずに言葉を紡ぐ。


 「何が分かったんだ?」

 「私たちの、すること」


 そう言って、溢れる涙を腕で拭って覚悟を決めたように話し出す。


 「リーティアちゃんもトワくんも、また会おうって言ってくれてるんだよ!だったら私たちがすることは1つだけだよ!次に会った時に話せることをたっくさん準備しておくことと、もしまた今回みたいなことがあったら、今度はリーティアちゃんたちと戦えるぐらいに強くなることだよ!もう、足を引っ張るのはイヤ!今度はリーティアちゃんを守るから!」


 決意に満ちたユナの言葉はアルジェとカンガルを驚愕させた。

 普段、あまり自分の意見を言わない彼女がこのようなことを言うとは考えていなかったというのもあり、同時に彼女の言うことに深く納得したのだ。

 2人も感じていたのだ。

 もう守られてばっかではダメだと。


 「そうだな!こんなに急にバイバイなんて言われたことの不満書き溜めとこうぜ!次会った時に話すために」

 「そうですね。次は肩を並べて戦いたいですけ」


 そうだ、大事なのは今を嘆くことだけじゃない。

 本質は次どうするかだ。

 トワさん、リーティアさん、次会うのが楽しみです。







 「さて、俺もそろそろ行くか」


 場所は移ってエディスの街から少し外れたところ。

 傷だらけの男、ジギラスがゆっくりと歩いていた。

 その足が向かうのは『憤怒魔王』の領地であった。


 「さすがにアイツらだけじゃ勝てねぇだろうし、俺様が一肌脱いでやるか。マージで戦いたくないけど」


 2人には自分は戦わないと言っていたが、やはり心配になった彼は2人に内緒で援護をしようと朝早くに歩いていた。

 まだ、ジギラス以外誰もおらず静かな空気を堪能していた彼だったが、その直後背後から声をかけられた。


 「だったら行かなくていいんじゃないですか?」


 先刻の独り言に勝手に応えたその声につい足が止まる。


 「………お前か。何の用だよ」 

 「別に、ただのお願いですよ」

 「お願い?」

 「ええ、『憤怒魔王』を倒しに行くのをやめてもらえたいという簡単なお願いです」


 いきなり現れた男が言ったそれに特に動じることなく頭を掻きながら、あくびまじりに返答する。


 「一応聞いておくぜ。何でだよ」

 「私が『憤怒』を好きだからですよ。だから殺されたくない。あの2人が勝手に戦う分にはいいんです。その場合は勝っても負けても認められますから。しかしあなたが加勢すればあまりに不公平です」

 

 「そんなこったろうと思ったぜ、お前は変わんねえな。お前は俺を過大評価してるぜ。俺が行っても『憤怒』には勝てない。少なくとも今の俺じゃあな。それでもジャマをするって言うのか?」

 「ええ、もちろん」

 「なら、力ずくでも通るしかないな」


 ジギラスは殺気をも込めた目で男を見たが、男はどこ吹く風でまったくと言っていいほど気にしていない。

 Aランクハンターの殺気を受け流すこの男は何者なのか。

 彼の名はーーーー・ーーー・ーーーーー。


 「今の貴方では私に勝てないことは分かるでしょう?しかし、それでもあきらめないのは美しい。私には理解できないものですから」

「さぁ、ジギラス!ここを通りたければ私を倒してから行きなさい!]


 「これ、一度は言ってみたいって人が多い言葉らしいですよ」


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