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始まりを刻む  作者: 桶満修一
第4章 孤独の超越者
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31話 傷だらけの男

 


 「それで?どうするの、トワ君。このままじゃ絶対に魔王なんかには勝てないけど」


 ギルドを出た2人はすっかり暗くなった道を歩いていた。

 リーティアの判断は正確であり、今の彼らでは天地がひっくり返っても魔王には勝てない。


 そもそも魔王とは古代から存在する者であり、人間かどうかも定かではない。

 ジュンが言うには『憤怒魔王』は人間のような姿をしているが、数百年も生きる人間など存在しない。

 その数百という年月を戦いに捧げた魔王には、この世のハンターの誰一人としてまとも戦うことは不可能なのだ。

 まさに、災害と言って差し支えない。


 「それについては少し考えがあってな。興味深い噂をアルジェたちから聞いたんだ」


 そう言うトワの足取りは宿とは正反対の方向へと向かっていた。




 「なんで、アンタがここに…………?」

 「それはこっちのセリフなんだけど」


 2人が来たのは夜でも明るい酒場の一つ『まどろい』

 お酒がおいしいと噂のこの店には最近もう一つの噂が流れていた。それは「傷だらけの男が入り浸っている」という奇妙な噂が。


 「いると思ったぜ、ジギラス。元気そうで何より」

 「よくこの場所が分かったな。お子様には無縁の場所じゃねえの」


 もちろん「傷だらけの男」はネチャル国のAランクハンターのジギラスである。

 ネチャル国にいたころには何度も世話になり、それでも別れの挨拶をすることが出来なかった一人だ。


 「ジギラスどうしてここにいるの?」

 「あ?酒飲みたいからに決まってんだろ」

 「そうじゃなくて!どうしてコリプランに来てんの?」

 「あ、そっちか。どうしてっつったって仕事だよ。少し野暮用があってな。お前らはどうしたんだ?いやな予感がするんだが」


 酒を呷りながら青い顔をするジギラスに先ほどあったことを統べて話す。

 やっぱりか、と辟易したような彼は酒を飲み干し口を開く。


 「やめとけ、お前らじゃアイツにゃ絶対に勝てないぞ」

 「だからジギラスとも一緒に戦ってほしいの!」

 「俺が参加してもムダだ。息をする時間が少し伸びるだけだ。お前らもさっさと逃げろ。ネチャルまでは来ないだろうからな」

 「ムーーー」

 「ムーーーしてもだめだ」


 自分の意見を曲げようとしないジギラスにリーティアがため息を吐く。

 こうなるとジギラスに言うことを利かすことは難しい。しかも今回は明らかに彼の意見の方がまっとうなのだ。魔王に挑むから手伝ってくれなど、誰に頼んでも断られてしまうだろう。

 

 「どうする、トワ君?ジギラスお酒飲み始めちゃったけど」

 

 その言葉の通り、これで話は終わりだと言わんばかりに酒を頼んでは飲み干してを繰り返している。

 客も増えて来て酒場は盛り上がりの絶頂を迎えていた。


 「…………」


 トワは俯き周囲の喧騒も聞こえていないかのように考え込む。

 ジギラスは自分が魔王と戦うことも、弱い僕たちが戦うことも嫌がっている。現状僕たちが戦っても勝ちの目が見えないのは事実だが、それでも僕たちは『憤怒魔王』と戦わなければいけない。そうしなければ多くの人が死を迎え、死が日常に蔓延ったままになってしまう。

 ジギラスの協力を得るにはどうすればいいか。


 「………じゃあ、僕たちに修行を付けてくれないか?」

 「は?」

 「ジギラスが僕たちに修行を付けるんだよ。魔王に勝てるぐらいに。ジギラスは戦わなくていいし、それくらいなら受け持ってくれるだろう?」


 トワの出した提案につい杯を落としそうになるジギラス。

 驚きではなく、呆れで。


 「あのなぁ、俺は俺が死ぬのもお前らが死ぬのも嫌なんだよ!勝てねぇって分かってんのにどうして無駄な修行なんて付けなきゃいけねぇんだよ!」


 そう、トワの勘違いしていることはそこ一点だ。

 ジギラスは決してトワたちが死ぬことを放っておくほど冷酷ではない。むしろ、彼らを死地へ送ることを自分が死ぬことよりも嫌がっている。そのジギラスがどうして自信をつけさせる修行をさせなければならないのか。

 ジギラスの決断は曲がりそうにないのをトワはヒクついて笑って応える。


 「でも、そうしたら僕らはこのまま戦うぞ?絶対に負けるって分かった戦いにジギラスは何もせずに放っておくって言うのか?」


 「う………」


 トワの言に押し黙ってしまったジギラス。

 何も言ってこない彼の隙をつくようにトワは捲し立てる。


 「いやぁ、もちろんそれでもいいんだぜ?ジギラスには何もメリットなんてないし、むしろ面倒がなくなってせいせいするかもな。ただ僕たちが死ぬだけ。僕はともかくリーティアなんて何年も一緒にいるんだろ?いやぁ、悲しいと思うぞ、ずっと一緒にいる人が死んだら。ジギラスもそれでいいんだよな?」


 「はーやれやれ」とでも言いたそうな表情で語るトワを前に、ジギラスは青筋を浮かべながら彼の話を聞いている。もう帰ってしまおうかとも思ったが、しかしこのまま放っておくとトワもリーティアも死んでしまうだろう。

 トワへの応えは一瞬の沈黙を置いて諦めたようにため息とともに出てきた。


 「…………分かったよ。お前らに修行をつけるのは引き受けてやる。このまま死なれちゃ寝覚めが悪いしな。それで?あとどんぐらいで『憤怒』は来るんだ?」

 「えっとねー、ジュンが言うにはあと1週間くらいだっけ?私たちの準備もあるから修行で取れる時間は3日くらいかな」

 「………マジかよ。もちっと早く知りたかったが、しゃあねぇ。ろくなこと出来ないだろうがやるしかないか。よし!明日から修行をはじめる!今日は早く帰って寝ろ!」


 すでに時刻は夜の8時を回っている。

 今の時間から行動するには危ないし利も少ない。

 修行は明日から。


 「死ぬほど辛いだろうが、気張れよ」


▼△▼△▼△▼△▼


 「おっ、来たな」


 翌朝トワとリーティアが約束の場所に行くと、すでに準備万端のジギラスがそこに立っていた。

 ジギラスと待ち合わせをして遅刻しなかったときなどないというのに、今日はやけに早く来ている。


 「キャラ違くない?」

 「違くない。張り切ってんだよ」


 つい出てきてしまった本音を耳聡く聞いていたジギラスが律儀に突っ込む。

 見たところ、彼は腰に鞘に収まった件が一本あるだけで、それ以外は何も持っていない。


 「それだけでいいの?」

 「いいんだよ、別に。これも使う気ないしな」


 大事そうに腰の剣を撫でて応える。

 唯一の剣も使わないとなるといったいどうやって戦う気でいるのか不思議に思っていると、ジギラスが忠告するようにトワたちに声を洩らす。

 

 「修行期間が3日となると俺がいちいち教えてやってる暇はねぇ」

 「?ああ」

 「だからお前らには自分で技術を磨いてもらう。まあ、なんて言うの?つまりーーー」


 どこか要領の掴めない彼の言にトワもリーティアも何が言いたいのかと立ち尽くしているだけだった。

 そんな彼らを知ってか知らずかジギラスは拳を握りゴキゴキと鳴らして結論を述べる。



 「ーーー死合いだな」



 その言葉が鼓膜に届くと同時にトワの身体がまるで横に落ちていくように弾き飛ばされる。

 ものすごいスピードで後方へと吹っ飛んでいくトワに心配そうな視線を送ったリーティアであったが、全身を逆なでするような鋭い殺気を肌で感じ迫ってきていた剣を短剣で防御する。


 「戦闘中に気を抜くな。が、よく防いだ。次だ」


 それからも休むことなく攻撃が繰り返される。死合いとは名ばかりの蹂躙であった。殴られ蹴られ切り裂かれ、身体中の至るところに青い痣や切り傷が生まれるなか、それでも攻撃が止むことはなかった。



 そんな地獄のような特訓が5時間が過ぎ、トワとリーティアが動かなくなったころ、ようやくジギラスの動きは止まり、


 「よし、今日はこんくらいだな。しっかり体休めとけよ。明日も同じ時間にここでやるから覚悟があったらまた来い」


 と一言だけ言ってジギラスは帰っていった。


 彼の帰った後には疲れ果てて死にそうなトワとリーティアが天を仰いで横たわっていた。

 2人とももう立ち上がる元気もなく、特にトワなんかは最初の内は碌に防御もかなわず、もろにジギラスの攻撃を受けていたため、疲労と痛みは最高潮になっていた。

 

 「……トワ君……生きてる……?」

 「…………なんとかな」

 「容赦ないね……」

 「そうだな………………」


 2人ともまともに会話をするのもおっくうに感じるほどの疲れで、結局帰路に就くまでジギラスが帰ってから1時間が経ってからであった。

 その日は宿に帰ると2人ともすぐに横になって泥のように眠るのであった、


 


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