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始まりを刻む  作者: 桶満修一
第3章 魔法学校編
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28話 アルジェルトたちの戦い

 「もう無理だよーーー!!」


 街の外でトワたちが奮戦しているなか、アルジェルトたちは魔法学校の外で魔物を相手に戦闘を繰り広げていた。

 強敵はエリーナやハンターたちが処理してくれてはいるが、それでも数多くの魔物が街の中へと侵入してきており、学校に残った者たちはそれらの対処に追われていた。強い魔物がいないとは言うが、油断が出来ない魔物ばかりであるし、実戦をそう何度も体験していない生徒にとってはかなり神経が磨り減る戦闘を強いられていた。

 その結果が冒頭のカンガルの一文に要約されていた。


 「そんなこと言ってる暇ないよ!ほらっ、闘狼が来てるから!」

 「もう魔素がないよ~」

 

 そう弱音を吐きながらも初級魔法を使い闘狼を屠る。

 しかし彼の言葉がまるっきりの嘘と言うわけではないというのは、彼の額から滴る汗が物語っている。

 度重なる魔法の行使は彼の体の内にある魔素を確実に減らしていき、体力の限界も近い。


 「これってあとどれくらいで終わるんだ?」

 「分かりません。出来るだけ魔素は温存しておきたいのですが………」


 とめどなく現れる魔物を相手にそれは厳しそうだとアルジェルト。

 彼らのために補足しておくが、彼らの魔素量は決して少なくない。

 むしろ、一流の魔法学校に通っていることからも分かる通り、普通の者よりも魔素量は多く、普通であれば経戦能力は高い。しかし、彼らの戦い方が良くない。

 彼らは放出系の魔法ばかりで応戦しているのだが、これは魔素の消費が大きい。いわゆる『火球』や『風刃』がこれに当てはまるのだが、これらは魔素を自分の体から全て出し切ってしまうのだ。

 魔法学校での授業でもこれと似たようなことをアインス先生が言っていた。


 「魔法はいくつかの属性に分けることが出来ます。炎、水、土、空、音、など様々ですが、私のお勧めは「体」という属性です。こちらの属性の魔法は身体に影響を及ぼし、身体の能力を爆発的に高める力や、極めれば体を硬質のように固くすることも出来るのです。そして、これのいいところは魔素の消費が少ないところにあります。他の属性とは違い魔素が身体の内に残り続けるため、長時間の戦闘と魔導士の苦手とする近接戦闘を可能にします。ぜひ覚えてくださいね」


 トワとリーティアに聞いてみても同じようなことを言っていた。

 2人のことを信用していなかったわけではないが、当時のアルジェルトたちは「自分たちは魔導士なのだから、近接戦闘に急いで備える必要があるのか」と疑問に思っていた。

 しかし、今━━━


 (こうして魔物と正面から戦うとなると、身体強化の重要性が身に沁みます。彼らの動きを目で追うことは出来ても、身体がついて行けないのではどうしようもありませんからね)


 身体強化魔法を覚えていなかったことが悔やまれる。

 普段と勝手が違う魔法でとっつきにくかったからと、後回しにしたのが良くなかった。

 しかし、今は無いことを悔やんでいても仕方がない。


 「カンガル!ユナ!私たちは足止めに専念しましょう。これ以上の魔素の消費は魔素欠乏へと至ってしまいます。土魔法を中心に足止めを、とどめはアインス先生たちに任せましょう!」


 アルジェルトの号令がかかってからは早かった。

 声をかけられた2人とも、自分たちがこれ以上魔物を撃退することは難しいと悟っていたこともあったが、何より2人がアルジェルトを信用しているからこそできる行動の早さだろう。

 

 瞬時に土魔法を起動し、魔法陣を展開する。

 これまでと違うのは攻撃性がないところだ。これまでのように、土の形を変化させて魔物を攻撃する魔法ではなく、所々の地面を柔らかくするだけにとどめる。

 魔法名もないような些細な変化だが、それだけに魔素の消耗は抑えられる。

 そして、その柔らかくなった地面に魔物が足を踏み入れたら………………


 「かかった!」


 魔物は地中へとまた高隅に沈んでいく。

 数メートルほどの地下へと魔物を誘い、彼らが自力で脱出することは困難になる。魔素を感じ取れる人間には使えない魔法だが、それが出来ない魔物には効果てきめんのようだ。

 そして後は捕まった魔物にとどめをさすだけ。


 「よくやりましたよ。皆さん」


 その声と共に後ろにはアインス先生が立っていた。

 水稲の中にある水を球状にして、魔物へと飛ばす。それだけで数十匹はいる魔物たちは体の至る所に空洞ができ、死に絶える。

 凄まじい魔法である。


 「アインス先生っておれっちたちよりだいぶ魔法使ってるよな?すごすぎない?」

 「な、なんか昔はすごい活躍をしたって聞いたことはあるよ………」

 「マジか。魔素切れしないのかな?」

 「2人とも、話してる暇はないですよ。まだまだ襲撃は絶えませんから、張り切っていきますよ!」


 

▼△▼△▼△▼△▼


 「若い子の成長は早いものですね。羨ましい」


 そうつぶやくのはアインス・セカンダリアであった。

 エディス魔法学校の教師でありながら、現コリプラン国宮廷魔導士エリーナ・ルシフェリアの昔の師匠でもあった。

 彼の実力は魔法学校の中でも群を抜いており、生徒からは尊敬と同時に少しの恐怖さえ感じられるほどである。


 「私も頑張らなくてはなりませんね。『(レイン)(コード)』」


 詠唱が完了されると同時に視認も出来ないほどの水の線が戦場に行きわたる。

 アインスの魔力が灯ったその線が。


 「溌」


 その声が空気を震わせた直後、何十、何百という魔物が倒れ伏す。たった一回の魔法でどのようにこのような所業を行ったのかは誰にも分からない。

 しかし、これがアインスのやったことであるという事は、この場の誰もがよく分かっていた。あの教師はこれだけの不可能を可能にするだろうと。


 「ふぅ、これはやはり魔素を消費しますね。まぁ、あとは向こうの方々に任せましょうか。エリーナも成熟しかけていますし、トワさんたちにも期待できますしね。………おや?」


 一度落ち着きかけたアインスだが、目の端に映るモノを見て細い目をもっと細くする。

 視界の端に映ったのは大型の魔物『(ワイ)(ヴァーン)

 空を飛び、炎を吐き、手の届かないところから人々を恐怖のどん底へと陥れる凶悪な魔物だ。本来であれば街中へと入ってくることはなく、森の深くに生息する魔物ではあるのだが、今回のスタンピードで他の魔物と同様に来ているようだ。


 「アレはエリーナに仕留めてもらいたかったのですが、仕方がないですね。私が行きましょう」


 アインスは自分の中にある魔素をかき集めて魔法を再現していく。

 先ほどの『雨線』は対多数では凶悪な効果を発揮するが、飛龍のように体の大きな魔物には向いていない。だからこそ、彼が選択する魔法は、魔法たちは━━━。


 「魔導士の本領発揮と行きましょう」


 ━━━『火球』『火球』『火球』『火球』『火球』『火球』『火球』『火球』『火球』『火球』『火球』『火球』『火球』『火球』『火球』『火球』『火球』『火球』『火球』『火球』『火球』『火球』

 

 初級の魔法の魔法陣をいくつも、いくつも重ねて展開する。

 普通では見ることのできない魔法の同時展開。王宮魔導士のエリーナさえもこれだけの量の魔法を重ねて展開することは出来ないだろう。そして恐ろしいのは魔素量である。いくら初級魔法とはいえ、この量は尋常ではない。アインスの魔素量は〈(ゼク)神天将(スクヴァルト)〉のリヴェラルにも匹敵するかもしれない。


 「「「「「火球」」」」」


 重ねられた魔法が彼の号令を合図に凄まじい速さで飛んでいく。

 早さもさることながら、大きさも通常であれば拳ほどの大きさの火球は、太陽を思わせるほどの圧倒的な巨大へと進化していた。

 これはもはや別の魔法だ。


 ドンッ


 太陽は飛竜の胴体へと着弾し、あろうことか太いその体躯を貫通する。

 肺を、腸を、心臓を、あらゆる臓器を燃やし尽くしてもまだ太陽は歩みを止めず、本物の太陽の下へと突き進むように前進し、次第に消えていく。

 飛竜は体を空に保つことが出来ず、地上へと堕ちていく。


 「飛竜など、剣士が相手ならばいざ知らず、魔法学校に踏み込むとは命知らずもいいところですね。私がいなくてもすぐにやられていたと思いますよ」


 とはいえ、度重なる魔法の行使はアインスの体の魔素を枯らし、これ以上の戦闘は難しいだろう。

 しかしそのおかげで街の中にいる魔物は全滅していた。もちろん、まだ魔物が入ってくる可能性もあるが、そろそろスタンピードも終わりを迎えるだろうし問題ないだろう。


 

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