27話 それぞれの戦い トワとリーティア
『全奏』のエリーナの戦い方は実に多彩である。
炎を扱う魔法を使ったかと思えば、水を扱い。それに苦戦していると風魔法で切り刻まれる。そのすべての魔法が一般的な魔導士の魔法のレベルを超えており、彼女が宮廷魔導士になった理由を分からされる。
多様な魔法を使う彼女はもちろん1対1の戦闘でも負けを知らないが、もっとも得意としているのは、対多数の戦闘であった。
「『風刃』『火球』『土槍』『水神』『凶振動』『炎柱』」
息をする間もなく放たれる魔法の数々は押し寄せる魔物の大群を一掃していく。
普通の魔導士であれば魔素切れを起こしても不思議ではない量の魔素を使っているだろうに、彼女の表情は余裕を崩さない。
「けど、さすがに私ひとりじゃきついんだよねぇ。コイツ等がどれだけ来るか分からないし、何より横に広がられているから庇いきれない。ま、他の人たちに頼るとしましょっか」
魔法を使う手は休めず、彼女は戦場の一角に目を向ける。
そこには一人の少年と一人の少女が奮戦していた。
▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
「もー敵多すぎ!!」
どんだけいるの!?どこ見ても魔物ばっかで最悪なんだけど。
弱いやつが多いからいいんだけど、オークとかでも普通に油断できないからなぁ。一発殴られたら死んじゃうし。
まーでも、向こうが頑張ってくれているから楽な方なんだと思うんだけど。
「エリーナさんすげぇな。魔物がどんどん死んでく」
「ね。こっちの負担が少なくて済むからありがたいよ」
エリーナさんは1人で戦場の一角を受け持ってくれている。
こっちには私とトワ君とか他のハンターの人たちが何人もいるのに、一人に任せて申し訳ないって思うんだけど、自分から言い出したからね。
なんでだろ。フレンドリーファイアが怖いのかな。
「エリーナさんが魔法を使ってくれているおかげで、僕も魔法が使えるようになってきたわ」
お、トワ君も本領発揮って感じだね。
そーだよね。魔物はほとんど魔素を持ってないから、トワ君は魔法を使うための魔素を外から持ってこれないもんね。
そーいう意味ではパーティに魔法を積極的に使う人とかいた方がいいかもなぁ。
私はほとんど魔法を使わないから、トワ君のサポートが出来ないし。いや、でも他の人をパーティに入れるのはイヤだなぁ。
「おい、ぼーっとすんな。どんどん来てるぞ」
「はーい」
私は考え事をしながら短剣を振って魔物を殺していく。
一発で殺そうとは考えず、片足だけ切るとか、目を潰すとか、そんな感じで行動を制限する攻撃を意識する。そうすれば、もし街の中に入ってもすぐに殺せるだろうし、安心安全。
トワ君も見たことのある魔物相手だったら戦えるようになってきている。
身体強化がうまく出来ているから動きもめっちゃ早いし、なにより魔法を使えるから安全圏から攻撃出来る。
うんうん、我が子の成長は早いもんですなぁ。
「なんか気色の悪いこと思ってないか?」
「何のこと~?」
アレンデールが危機なのよ~。
うーん、この映画も結構前なんだよね。いや、この世界と地球とで時間が同じ感じで流れてないって可能性もあるか。こっちの1年は地球での1日って感じで。
それにしてもいろんな魔物がいるなぁ。
トワ君には見たことのない魔物とは戦わないようにしているから大丈夫だけど、私でも初めて見る魔物がいるのがびっくりだよ。海の近くだけで出る魔物とかいるのかな。
まあ、救いは帝王種がいないことだよね。
受付のお姉さんも言ってたけど、魔王の近くには帝王種はビビッて近づかないんだっけ。いるだけで魔物を追っ払ってくれるなんて、結構いいやつじゃん。魔王って。
ん?魔物を追っ払ってくれる?
あれ?
「いやいや、今はそんなことを考えてる場合じゃないよね。ユナたちに魔物をあんまり通さないようにしないと」
もうすでに何匹かは街方面に行っちゃったけど、アッチにはアインス先生とかもいるし大丈夫なはず。
弱い魔物だったらユナたちでも楽勝だと思うし、強い魔物だけは食い止めないとね。
例えば、こんな奴。
「竜、だよね」
「亀じゃね?甲羅あるぞ」
「図巻で見たことあるよ。たしか名前は『光甲竜』。亀形の竜?なのかな?」
かなりデカいし、強そう。
背中には亀みたいな甲羅があって、首はトカゲみたいに少し長い。
だけど、ここら辺はコイツ以外は他のハンターに任せられるし、ザコの魔物を他のハンターが倒してくれれば増援も期待できる。
私たちでコイツを食い止めるしかないよね。
「行くよ!トワ君」
「了解」
トワ君の返事を合図に光甲竜の下へと走り出す。
見た感じ背中側の守りが固そうだから正面から戦いたいんだけど、そうなると相手の攻撃を受けやすくなってしまう。こんな見た目だけど、結構理に適ってるんだ。
でも、そんなやつはこれまで何度も見て来たし、戦い方も分かってるんだよ。
「トワ君!魔法!」
「『土槍』」
トワ君が魔法名を叫ぶと、亀の下から槍が出てくる。案の定、地面に接する部分は守りが薄いみたいで緑色の血が出てきてもがき苦しんでいる。
トワ君の魔法のスピードは他の人よりも早い気がするわ。
「遖」
「なんて読むの?」
「あっぱれ」
苦しんでいるカメさんには悪いけど、私たちも油断できない状況なんだよね。私たちがやられたら街が火の海になっちゃう。
そんなことになったら鬱展開まっしぐらよ。
この巨体を相手にするには少し心許ない長剣を持って、カメさん下へと走る。
カメさんは私に気づいたのか大きな口を開けて力を籠める。
ドラゴンだし、炎でも吐くのかな?
正解は何かな?
ビュンッ!
正解は水のレーザーでした。
体内にあった水を筋力だけで水鉄砲みたいにして撃ったんだろうね。アホみたいな攻撃方法だけど、喰らったら即死だろうなぁ。フ●ーザ様のデスビームくらい速度あったもん。
「ヤバみですねぇ。ヤバみバみバみバみバみが深みです」
遠距離攻撃あるんだったら接近戦しか選択肢がないじゃん。
もともとその気だったけど、このカメさんを放っておいたら被害が大変なことになりそうだよ。
すこし本気出そうかな。
「トワ君、もう一回魔法の用意をお願い。合図したらすぐお願いね」
「任せろ。気を付けろよ」
大丈夫、大丈夫。
すぐに終わらせるよ。
もう一度剣をしっかりと握り、敵を観察する。
敵は今、私の姿を見失っているようで、きょろきょろと辺りを見渡している。
水のレーザーで出来た穴からはまだ砂煙が舞っていて、それが私の小柄な体躯を隠してくれているんだろう。好都合だけど、このまま見失ったままだったら他のところに行っちゃうかもなぁ。
「『火球』!」
私の叫びで長い首をグンッと向けた時には、こぶし大の炎の弾がカメさんの頭に直撃していた。
私の唯一使える魔法、『火球』。威力はいつの間にかトワ君に抜かされていたけど、速度だったら負けない自信はある。
顔面に直撃した火球は、目の内側を焼き、鼻の奥まで火傷させる。
視覚は奪われ、嗅覚も機能せず、触覚さえも鈍感になる。
ま、要は今がチャンスってこと。
「よいしょっ!」
形ばっかりの掛け声とともに走り出して、カメさんの体目掛けてジャンプ!
私のことはまだ見つけられてないんだろう。反撃にあうこともなく、カメさんののどまで到着。
あとは、ここに………。
スブッ!
長剣をグググーッて押し込む。
私の力じゃ完全に穴をあけることは出来ないけど、これで大丈夫。印さえつけられれば最悪良いしね。
うんうん、カメさんも苦しんでおる。人間で言うと喉仏のところに切れ込みを入れたからね。痛いだろうね。
男の子って喉仏押されると痛いって本当なのかな。
「よーし、これで私の仕事は終わり。トワ君準備は大丈夫?」
「ばっちりだよ。早く戻ってこい」
言われなくてもそうしますよ。
私がスタタタターって逃げていく時にようやく私の姿が見えたんだろうね。
色白の肌を赤くして怒って、攻撃態勢に入りだした。
けど、止めといた方がいいとおもうなぁ。
だって………。
「魔法を!」
「『土槍』」
魔法陣を地面に押し当てて魔法が発動する。
地面から生えた数々の槍は今度は喉へと向かっていく。
そう、私が傷をつけた喉へと。
ザクザクッ
子気味良い音が響いて、カメさんの喉に鋭い槍が生える。
もちろん生えたわけじゃないんだけどね。
カメさんはというと、悶えるぐらいの苦痛に起こってさらに体を紅く染め上げて、体の全身の筋肉に力を入れる。
そして、当たったら即死のフ●ーザ様のデスビームを、水のレーザーを撃とうとして………。
「おしまい」
喉に開けた穴から水が勢いよく噴き出し、その圧力を以って喉の穴はどんどんと広がっていく。
数センチ程度の穴だったそれは、水が収まるころには数メートルの巨大な穴へと変貌していた。
「策士、策に溺れる。ってやつだね」
「多分違くない?」
カメさんはそれ以降動かなくなって、近づいて確認してみても死んでるっぽかった。
強敵だったと思うけど、意外と簡単に倒せちゃった。
私たちも強くなったってことかな?
「トワ君が新しい魔法を覚えてくれたおかげだー」
「授業、真面目に受けててよかったな」
さてさて、こっちは結構落ち着いてきましたけど、街の方はどうなってるかな~。
ユナたち、期待してるよ。




