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始まりを刻む  作者: 桶満修一
第3章 魔法学校編
24/56

24話 友達になるということ

 大急ぎで街に戻った僕らはまず学校に来ていた。

 ギルドに行こうかとも考えたが、学校の方が近く信用されやすい。

 息を切らしながら職員室に入ると、リサーナ先生が驚いた顔で出迎えてくれた。


 「どうした!?何があった」


 尋常ではない僕らの様子にただ事ではないと感じたのか慌てて席を立ち僕らに駆け寄るも、うまく言葉がまとまらない。

 スタンピードが起こったこと。

 どれほどの量の魔物がいるのかは分からない事。

 この街に向かってきているという事。

 

 そのどれもが頭をよぎり何から言えばいいのか、そもそも信用してくれるのか不安になり口が閉じかける。

 いや、不安になるな。

 落ち着け。

 今は一刻も早く事態を知らせ、問題に対処しなければ大変なことになる。


 「スタンピードです。大量の魔物が今この街に向かってきています」

 「………!?どれくらいの数がいるか分かる?」

 「正確な数は…………。けど急がないと!」

 「分かった。ギルドに協力を要請してくる。他の先生たちを集めてくるから君たちはここで残っていてくれ。みんなに情報を共有したい」

 

 そう言うとリサーナ先生は他の先生たちを集めに駆けだした。

 とりあえず大丈夫、ではないか。狩場からこの街まではそこそこ距離があるし、魔物の侵攻は僕たちよりもかなり遅かったからすぐには来ないとは思うが、それでも1日の猶予はない。

 もしあの大量の魔物がこの街を襲ったら。

 何百人もの人が死ぬ。きれいな街並みが破壊され、復興の余地など微塵も残らないかもしれない。ノイスの時のようにリヴェラルがいるわけでもない。

 あの時のように無事では済まない。

 

 だったら、僕は━━━


 「リーティア」

 「分かってるよ、トワ君」


 僕の一言で言いたいことが分かったのか彼女が頷く。

 

 「そもそも、私たちはハンターだしね。街が壊されるような非常事態には強制的に駆り出されるんだよ。ま、そんなの無くても遣ることは変わらないんだけどね」

 「当然だ。誰も死なせない」


 世界を変えると誓ったんだ。

 誰もが死を受容する世界を救うと願ったんだ。

 こんな魔物の大群如きどうってことない。


 「でもどれくらいの数がいるから分からないから、まずは先生たちと相談したいかも。ここらの生態系に詳しそうだし、先生たちも戦ってくれるだろうからね」

 「了解」


 リサーナ先生が他の先生たちを呼んで来てくれるまであとどれくらいかかるだろうか。

 今のうちに作戦とかを考えておきたいな。何か罠を作ることは出来るだろうか。魔法が使える世界だったら時間もそんなにかからなそうだし。いや、さすがに厳しいか?

 そのような思考は横からかけられた意外な言葉で遮られる。


 「トワさん。僕も何か力になりたいです」

 

 声をかけてきたのはアルジェルトだった。

 真面目で優しい彼は真っすぐな眼で僕らにそう声をかけて来たのだ。

 覚悟を決めた眼だった。


 「俺っちも………、俺っちも何か出来ることってないか?トワっちたちだけを見てるだけなんて耐えられねぇよ」

 「わ、私も………。私も守りたいよ!私たちの学校を壊されたくないもん………」


 僕たちが返事をするよりも早く、カンガルと気の弱いユナまでも同じことを言ってきた。

 この世界の人達が死を恐怖しないのは分かっているが、すぐ先ほど恐怖を体験した場合でもそうなのかは分かっていない。

 彼らが実際のところどう感じているのかなど、僕には分かりようもない。ただ戦いたいだけなのか、本気で学校を守りたいのか、魔物に恐怖を感じているのか、なにも分からない。

 それでも、彼らが覚悟を決めていることだけは分かる。

 だからこそ。


 「許可できない」

 

 僕はこの答えしか持ち合わせていない。


 「私もやめておいた方が良いと思うな」


 リーティアも僕に賛同する。


 「なんで………ですか?」

 「守り切れないからだよ、私が。ユナたちが強いのは知ってるし、覚悟が決まってるってのも分かった。でも明らかに実戦経験が少ない。課題で少しやる程度。そんなんじゃ魔物が1体2体の時ならともかく、スタンピードには対応しきれない。覚悟の決まっている弱い奴ほど、すぐ死ぬよ」


 リーティアの遠慮のない言葉に3人とも呆然としている。

 彼女の普段のお茶らけた雰囲気からは想像できない強い語気は、それほど彼女が強く彼らを大切に思っているのだと察せられる。

 それが分かっているから、僕も何も言わない。


 それに、アルジェたちの眼が、覚悟の決まったその眼が僕と似ていた。

 本能の恐怖に潰されそうな中でも、理想を推し進める様は一見美しいように思える。僕だって自分が同じ経験をしていなかったら、そう思っただろう。

 でも、これはあまりにも脆い。

 リーティアが言ったようにすぐに死ぬ。

 僕だって何度も死にかけて、その度に奇跡が起こって生きているのだ。そう何度も奇跡など望めない。

 アルジェたちが死ぬのは僕にとっては辛すぎる。


 「………………」

 「じゃあ、私たちが学校も守ってあげるからユナたちは出来るだけ遠くに逃げときな。あ、他の生徒たちに教えて来てくれると嬉しいな」


 彼女はそう言うと、アルジェたちから目を離す。

 もう何も話すことはないと言うように。


 「待ってください」


 声を出したのはまたもやアルジェルトだった。

 しかし先ほどと同じではない。

 彼の眼には覚悟と共に決意を秘めていた。


 「やはり僕の意見は変わりません。僕にも戦わせてください」


 友人の普段は見せぬ、意志を曲げない様子にカンガルとユナも驚いて彼を見ていた。


 「~~~だからぁ、邪魔だって言ってるの!アンタらが来ると私の負担がデカくなるの。わかる?」

 「ええ、分かっています。すいません。でも今だけは曲げたくないんです」

 「~~~!!」


 リーティアの嫌味な言い方も彼を引き下げる要因にはなりえない。

 普段であれば見せることはないその態度で、彼はトワたちを見て言葉を綴る。


 「僕が今ここでトワさんたちに任せて逃げてしまったら、もうトワさんたちを『友達』だと言えなくなってしまうと思うんです」


 「そんなことはない」トワの口から出かけた言葉は結局、誰の鼓膜にも触れることはなかった。

 トワがアルジェルトたちを『友達』というよりも『守るべき存在』と扱ってしまっていたからだ。もちろん、仲はいいと思っている。地球にいたころを入れても一緒にいる時間は長く、気の置けない人間関係であったことは間違いない。

 しかし………。


 「今逃げたら、ずっとトワさんたちに頼ってしまう。僕たちが困った時には助けてもらって、トワさんたちが困った時は何もできない。そんな関係、イヤなんです。そんなの『友達』じゃないじゃないですか。僕だって、たとえ力がなくたってあなた方を助けたいんです」


 アルジェルトは目に涙を浮かべながら、自身の意思を表明した。

 偽らざる本心を。

 授業を受けているときも、一緒に遊んでいても彼にとって2人は尊敬できる者であるという印象が強かったのだろう。『友達』として接するというよりは、一種先輩のような関係を意識していたのかもしれない。

 そしてそれに満足できていなかった。

 それを変えたいと思っていた。

 変えなければいけないと思っていた。


 「もう僕は引けません。ここが最後のチャンスかもしれないから」


 もう不可能なのだろう、彼を引き下げることは。

 先ほど彼を突き放そうとしたリーティアでさえも、彼の意志にたじろぐ。


 「でも、やっぱり━━━」

 「俺っちもアルジェに賛成だぜ。もう頼ってばっかはやめだ」

 「わたしだって!」


 アルジェルトに感化されたのか、カンガルとユナも決意を示していた。

 「もう逃げる気はない」そう言っているように聞こえた。


 「けど危険だって━━━」

 「良いのではないですか、彼らを連れて行っても」


 やはり心配が消せないリーティアの言葉を遮ったのは男の声だった。

 声のする方へ顔を向けると初老のいつか見た男性が立っていた。アインス先生だ。いや、彼だけではない。授業で何度も見た教師陣がそこにはいた。


 「やる気があるのであればくればいい。人生、機会というものはそう多くは廻ってきません。その少ない機会を棒に振らないようにしなければいけません」

 「それに、魔物の数がどれくらいいるのか分からないんだったらこっちも多い方が良いしね」

 「そして何より………………」


 教師が揃っていく中、その者は最後に職員室へと入ってきてこう告げた。


 「私がいる。私がみんなを守ってあげる」


 胸を張り、王宮魔導士エリーナ・ルシフェリアがそこに立っていた。


なんかトワ君も弱いじゃんって思う人がいそうですが(というより私がそう思ってるんですけど)、トワ君は身体強化が出来るのでアルジェ君たちよりは強いです。ザコならもうワンパンよ。

それにリーちゃんがトワ君だけは必死になって守るので。


忘れてる方が多数だと思うので補足です。アインス先生はトワ君たちの最初の授業の時の先生です。エリーナさんは背の高い美人さんです。

何か質問がありましたら、感想とかで送ってくださるとお答えできます。

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