22話 魔法の作り方講座①
エディス魔法学校に入学してから1カ月が経った。
入った当初は分からないところだらけだった授業も、今ではついて行くことが出来ていた。いやまあ、なんとかって感じだけど。
さすがに1カ月じゃ魔法はそんなに覚えられずに、結局まだ『土槍』しか出来るようになってはいないけど、この世界の知識についてはかなり知ることが出来ていた。この国周辺の地形であったり、周囲に出る魔物、経済についてなど幅広い学問を学ぶことが出来た。
ちなみにお金に関しては金策を実はしていた。
勉強の合間にギルドに行って依頼をこなしていたのだ。アルジェたちを連れて行ったこともあったが、その話は割愛しよう。
ハンターの仕事は命の危険があることがほとんどだからか、かなり実入りがよく、少し依頼をするだけで相当のお金が入ってくる。まあ、その分装備にお金が相当もってかれるから収支はギリギリプラスって感じなんだけど。
「今日の授業ってなんだっけ?」
お金の余裕は心の余裕。
お金に余裕がでてきたら授業も楽しみになってきた。
いつもならげんなりとしているリーティアがそんなことを聞いてくるものだから、アルジェルトも嬉しそうに答える。
「今日は特別講義です。まあ、僕も何をやるのかは聞いていないのですけど………」
バンッ
アルジェルトの言葉が終わる前に扉が勢いよく開き、そこから長身の女性が入ってくる。
170はあるだろう長身に、厚いローブでも分かる豊かな胸を持つ美女だ。
「こんにちは、みんな」
女性は笑顔で教室の生徒に語りかけると黒板に自身の名を書き自己紹介を始める。
「私の名前はエリーナ・ルシフェリア!ここ、コリプラン国の宮廷魔導士よ!」
驚きで静まり返った教室が特別講義が始まったことを伝えていた。
教室に元気よく入ってきたエリーナさんは黒板の前に立ち、笑顔で教室を見渡すとーーーー途端に表情を崩した。
「はぁぁぁぁぁ。マジで憂鬱」
その顔は数秒前まで笑顔だったのが嘘のように絶望に満ちていた。
この先生大丈夫か?
「本当にこの時期がいつも辛いよぉ。毎年『今年こそは大丈夫』って思うんだけどどうにもうまくいかないんだよねぇ。もうマジ無理。リスカしよ」
出会って1分で死にそうになってるんだけど。
このエリーナさんが本当に宮廷魔導士なのか?とてもそうは見えないけど。
「えーと、今日の講義内容は魔法陣の作り方の………練習?とっかかりだけでも学ぶ……みたいなやつかな」
あ、切り替えたみたいだ。さっきとは打って変わって活発になったな。どっちが素なんだろう。
やっぱり笑顔になると美人だな。
おっと、リーティアが睨んできてる。どうして分かるんだ?
「トワさん、トワさん。魔法陣の作り方って何なんでしょう。これまでも魔法陣は描いてきたと思うのですが………」
「いや、僕にもさっぱり」
「そこ、おしゃべりしないで。ちゃんと教えてあげるから」
そう言うとエリーナさんは黒板を使って授業を始めた。
その姿はまんま美人教師というようで、クラスの男子が見惚れているのが分かる。
「今日君たちがやるのは『魔法陣を作る』つまり『魔法を作る』。これの第一歩をやってもらうの。この世にまだ存在していない事象を引き起こす新しい魔法、それを作ってみようって感じ。どう?少しは理解出来たかな?」
魔法を、作る?
そんなこと、可能なのか?
いや、いつかの本にそんなことが書かれていたっけ。
「魔法陣の構成要素は大きく3つ。魔法盤と魔法文字、それから魔法線。魔法盤ってのは魔法陣を描く土台となるところなんだけど、正直コレは簡単。魔法文字ってのは5年生で習うと思うから今は飛ばしちゃう。今日は魔法線を習っていこう!」
魔法盤に魔法文字に魔法線……。
新しい単語がたくさん出てきたが、とりあえずは魔法陣に使うヤツって覚えとけばいっか。
それにしても、魔法を作れるのか。なんだか楽しみだな。
エリーナさんが僕らの眼に期待が孕んでいるのを感じたのか、授業を本格的に始めるようだ。
彼女が空に手を翳すとガタガタの魔法陣が浮かんでくる。
不完全な魔法陣だ。
あのままでは魔素が魔法陣に行きわたらず、魔法の発動に至らないことは明瞭だ。
「この魔法陣は中級魔法『星雨』の魔法陣だ。魔法線だけ抜いたヤツね。今日、君たちはこれを完成してくれ。それを目指してあと50分、やってみよう!」
元気よくそう言うと、僕たちのところに『星雨』の魔法陣が描かれた羊皮紙が飛んでくる。もちろん、魔法線はない状態で。
魔法線がない魔法陣はどこか不思議な感じがして、円に沿ってただ訳の分からない文字が浮かんでいるだけなのだ。この読めない文字、魔法文字をすべて魔力が宿った線でつなげれば魔法が使えるようになるらしい。
まあ、繋ぐだけだしそんなに難しくないだろう。
「よっ…………と」
はい、完成。
フラグを建てたからてっきり回収するもんだと思っていたけど、簡単にできた。
どうやら渡された魔法陣そのものが不完全に作られていたらしく、魔法は発動しなかったが、見た感じ魔法線は全ての魔法文字に接しているし成功したと思う。
「アルジェ、そっちはどうだ?正直そこまで難しくない…………」
「え!?トワさん出来たんですか!?僕は線をぜんぜん伸ばせなくて」
「トワっち早くない?めっちゃ力いっぱいやってんのに微動だにしないんだけど」
ん?どうやらアルジェもカンガルーも出来ていないっぽいな。
あれ、リーティアとユナも顔を真っ赤にしながら奮闘している。
また何かやっちゃいました?
「おっ、もう終わっている少年がいるじゃないか。優秀だね」
何をするべきか途方に暮れていたが、僕に気付いたエリーナさんが感心した顔で話しかけてきた。
彼女は周りを見て僕以外に終わっている人がいないかを確認すると僕の出来をじっくりと観察する。
「ふむ、よく出来ている。魔素を動かすのが上手なんだね。さて、何をしようかな」
「あの、ちょっといいですか?」
「ん?何だい?」
「さっき言っていた魔法を作るっていうのを聞きたいんですけど」
さっきは質問できる雰囲気じゃなかったから、せっかくだし今聞きたい。
本当なのか、どうやってやるのか、難しいのか。
「あー、魔法ね。もちろん作れるよ。とても難しいことだけどね」
「エリーナさんは作ったことあるんですか?」
「いやー、それが苦手なんだよねぇ。作るの。さっき言った構成要素3つを適当に使えばいいってわけじゃないからさ。天才的な魔法への考えをもっているか、途方もない努力をするしかなくって、魔法を作れる魔導士なんて私は1人しか知らないよ」
そうか、エリーナさんでも作るのは難しいのか。
『星雨』の魔法陣の魔法線を取れるから出来ると思っていたのだが、そう簡単でもないらしい。
「その1人って誰なんですか?宮廷魔導士のエリーナさんでも出来ないことが出来る人って」
「同じ宮廷魔導士だよ。まあ、私はコリプランで彼はネチャル国のだけどね。彼は天才的で色々な魔法を作ってきたんだけど、どうにも性格に難があってあまり関わりたくない人なんだ」
「具体的には、どんな感じですか?」
「うーーん、ヘタなことを言っちゃうとすぐに怒るんだよね。正直何に怒ったのかも忘れちゃうくらい」
うわぁ、それはいやだ。
沸点が低いと怒らせたことに対する『申し訳なさ』よりもどうして怒ったのかへの『訳分からなさ』の方が勝つから接しにくいんだよな。
ネチャルの宮廷魔導士に会う時は注意しよう。
会うことはないだろうけど。
「ねー、せんせー。コレどうやってやるのー?」
「はーい。体外の魔素を使うのって難しいよね。コツは………」
「それでは!今日の授業はここまで。みんなお疲れ様。何か質問があったら遠慮なく来ていいからね」
数十分が経ち、エリーナさんがそう言うとみんな荷物をまとめて帰っていく。
「結局ほとんど出来てる人いなかったね」
「僕たちの中ではトワさんだけでしたからね。どうやったのですか?」
「いや、何とも言えない」
正直、いつもやっているようにやったら出来ただけだからな。どうやったと聞かれても困る。
まあ、神様が僕にやっとチートをくれたのかもしれない。
この世界に来て早1年。僕の人生がクソゲーだと気付いたようだ。
ないな。絶対ない。
神様もいるか分からないのに、その神様が僕に優しいわけがない。
なんかラノベのタイトルっぽくなった。
『神様が僕に優しいわけがない』好評発売中。
ふぅ、最近は毎日が楽しいな。
こんな楽しい体験入学の期間もあと2週間か。
この世界に来てから楽しいことはたくさんあったけど、同じくらいの年齢の子と絡むことはなかった。
地球でも超能力のせいで学校はほとんど楽しめなかったからな。
…………いや、違うか。
超能力が悪かったわけじゃない。僕が超能力を理由に人と接しようと思わなかったのがいけなかったんだ。体のいい理由が近くにあったから、それに逃げてしまった。
現に今だって魔素を持っていないと知っても楽しめてる。
人生なんて、結局は本人の頑張り次第なんだよな。
環境がどうとか、与えられた能力がどうとか関係ない。
僕は僕の今ある力で精一杯今を生きていく。
背の大きい女性っていいですよね。背の大きい男性も好きです




