20話 遊び
初級魔法を2つ以上習得し、ゴブリンも退治したトワとリーティアは無事に4年生に上がれた。
とはいえ、特段何かが変わる訳でもなく、ただ履修する科目の内容が変化するだけなのだ。制服、規則、寮の部屋などは1年生から6年生まで何も変わらない。
これはひとえに下級生を上級生から守る制度である。
力をつけると自分よりも弱い者に手を出してしまうことは往々にしてあり、それが学校内で起こってしまっては他方へと体裁が立たないし、生徒のやる気にも関わってくる。
そういうこともあり、一目見ただけでは生徒の学年は分からないようにしている。
それはそうと、4年生の課題は中級魔法を1つ習得し、オークを討伐することだ。
『火球』以外はあまり攻撃力が足りない初級魔法ではオークは倒しきれないため、オークの討伐は中級魔法を覚えた後にするよう決められている。
トワとリーティアの場合は後者は問題ないが、前者が問題である。
リーティアに至ってはすでに諦めている。
トワもコツを掴んだとはいえ、まだ複雑な魔素操作は出来ず初級魔法がやっとなのだ。正直、中級魔法など出来る気が一切しない。
「それでも、やらないわけにはいかないんだけど……」
入学して1週間が経ち、初めての4年生の授業が始まる。
広い学校内をぐるぐると回りようやく着いた教室には見覚えのある顔がいくつかあった。
「あっ、トワさん!リーティアさん!」
「んー……、わっ、アルジェじゃん。ユナにカンガルーも。おひさ」
「俺っちの名前、カンガルなんだけど……」
1週間前、トワたちがオークから助けた彼らが教室にいた。
アルジェルトたちは2人を見つけるとまるで子犬のように喜び、大きく手を振って手招きした。
他の生徒もいるなかでされて少しはにかんでいたトワとリーティアだが、彼らのそばに座って授業を受け始めた。
1つの授業の時間は基本的に60分。
しかし、授業によっては課題が終わるまで帰れない授業もある。
トワたちが先日受けたもののように。
「お疲れ様でした!」
授業が終わるとアルジェルトは後ろを向いてすぐに話しかけてくる。
その姿がまた可愛らしく懐ききっているのがよく分かる。
「トワさん、今の授業わかりました?」
「いや、ぜんぜんだよ。魔法の歴史なんて初めて聞いたよ」
「僕もです。軽く触ってはいたんですけど、あそこまでしっかりやったのは初めてだったんで頭がちんぷんかんぷんですよ」
笑って頭を掻くアルジェルトのノートはしかし、びっしりと書き込まれていて授業の内容を彼なりに覚えようとしていたのがうかがえる。
「後でノート見せてくれるか?すこし聞き逃したところがあって」
「!はい、ぜひ!」
顔を綻ばせてノートを勢いよく渡してくる。
自分が頼られたことがうれしいようだ。
「アルジェ~。俺っちにも見せてくれよ~」
「カンガルー、君は寝ていただろう?起きていたらよかっただろう」
「そう言わずにさ~。たのむよ~」
「………はあ、今回だけだぞ」
ため息を吐いてはいるが、アルジェルトは嬉しそうだ。
カンガルはこのようにアルジェルトに頼ることが多くあるが、どこか憎めない。
頼ってくれた時に全力でお礼を言ってくれるからだろうか、それとも彼の人格あってのものなのだろうか。
「ユナは今の授業分かった?」
「えっと……、少しだけわかんないところがあって…………」
「少しだけ!?すごくない!?私なんて全然わかんなかった。ちょっと教えて」
「!うん!もちろん」
男たちが会話を楽しんでいる中、隣のユナとリーティアも女子二人で今の授業の振り返りをしていた。
リーティアは授業の内容がよく理解できておらず(というよりもほとんど寝ていて)、ユナは授業の内容をほとんど彼女に聞かせていた。
来週にはテストがあると言っていたので、それが怖いのだろうか。地球にいたころが中学生だったこともあってテストに恐怖でも残っているのか。
授業をもう一度復習するなど面倒この上ないが、それをしているユナは笑顔で、リーティアに頼られているのがうれしいのだろうか。
魔法史ということもあって時間はかかるが、それでも根気強く教えてくれている。
リーティアもユナの教えが上手なのかすぐに理解できている。
「なるほどね。『始まりの人』は魔法を作ったってより魔素を世界に置いたってことなんだ」
「うん、そう言われてるよ。あの人も最初は魔法を作る気はなかったんだって。だけど、魔素があったら自然に魔法が発展したんだって。不思議だよね」
「『始まりの人』もなかなか考えなしなんだね」
「シュルフ教の人に聞かれたら大変だから、あんまり大きな声で言わない方がいいよ…………」
この世界の歴史は主にシュルフ教の教典に由来しており、真偽のほどは確かではない。
しかしそれは地球の知識があるトワやリーティアの考えで、ディポニーで生きる住民はその教典こそが真実だと信じ込んでいる。
この教典と言うのがなかなかに古い時代から書かれていて、1000年ほど前の歴史まで鮮明に(『始まりの人』を敬愛しているのか誇張している気がしないでもないが)書かれている。
まあ、しかし、この教典が嘘であったとしても来週のテストまでに覚えなければ補習があるので、必死にやるしかないのだが。
その次の日の授業は地理だ。
地球と同じくらいの広大なディポニーの地理の一部をやって頭上に?を浮かべるリーティアが拝めた。
2つの大陸を海が隔てており、こちらの大陸は平和らしい。
幻の島もあるようで………。
そしてその次の日は算術。
地球と比べたら造作もない計算を前にリーティアは余裕綽々のようだ。
ユナにも教えて尊敬されて気分をよくしている。
そしてその次の日は…………。
「トワさん、少し遊びに行きませんか?」
ある日、カンガルーと一緒にアルジェが僕にそう聞いてきた。
確かにここ最近は授業に魔法にと、慣れていないことが続いて疲れていたのでその誘いは嬉しい。
だけど、僕は一刻もはやく強くならないといけない。
疲れているからと言って休むわけには………
「ちょうどこの前色々な遊びが出来る施設が出来たんですよ。3人でどうですか?」
………
はぁ、ずいぶん必死になって誘ってくれるな。
会って一月も経たない僕なんて誘わずに、カンガルーと行けばいいのに。
「……よし、それじゃあ行こうか。どこにあるんだ?案内してくれよ」
「〜〜はい!」
たまにはこういうのも良いよな。
それに同年代の奴らと遊ぶのってなんだかんだ初めてだし。
アルジェたちに連れられて僕は街の娯楽施設に来ていた。
そこにはさまざまな遊びが体験できる場が数多くあり、まだ建てられて1週間しないにも関わらず、魔法学校の生徒のみならず街の人たちもたくさん集まっていた。
施設の名前は『青い風鈴』通称『アオフー』
どの娯楽も安価で遊ぶことができる。
「最初はダーツでもやりましょう」
アルジェが最初に選んだのは地球でも見たことのあったダーツである。
ルールはほとんど覚えていないが、とりあえず点数の高い所に当てればいいのかな?
「一番真ん中のダブルブルとかブルを狙うのもいいですが、点数の高いマスに入れるのをお勧めします。ダブルとかトリプルに入ったらブルよりも高得点になりますし」
うーん、あんま分からないけどやってくうちに覚えるだろう。
とりあえず最初はカウントアップ、つまり高得点を取ればいいってルールだ。
うん、シンプルで分かりやすい。
「それじゃあ、まずは僕からですね。肘を固定して狙いを定めて………」
ダンッ
アルジェの放ったダーツは的の中心から少し離れたところに着弾する。
点数は20のシングル
高いのか?
「失敗しました。それじゃああと2つ投げちゃいますね」
続けて投げた2つは、20のトリプルと1のシングル。最後は明らかに外してしまったな。
合計81点。
これが高いのか分からないけど、20のトリプルはすごいんじゃないか?
「次は俺っちだね。何回かやったことあるから圧勝しちゃうよ〜」
とドヤ顔のまま投げたカンガルーの合計点数は26。
………うん、惜しいね。全部。
さて、やっと僕の番だ。
ダーツを手にすると分かったのだが、コレ意外と重いんだな。
えっと、肘を固定して出来るだけ水平に……
ダンッ
「惜しい!もう少し強めに投げても良いかもです」
真ん中を狙ったつもりが、ダーツは放物線をなぞり3点のマスに。
投げるのが弱すぎると狙いが定まりにくいな。
もう少し強めに、上を狙って。
「おっ、イイね〜。20のシングル。初めてにしてはかなり上手だぜ?」
おお、なんかアレだな。
なんていうんだろう、この感覚。
嬉しいとも爽快感があるとも違うこの感覚。
と、とりあえず最後の投げるか。
さっきよりも少しだけ下で………
ダンッ
「わっ!」
「ブルじゃん!トワっち。すごくない!?」
僕の投げたダーツは的の真ん中にバシンッと刺さり、的が祝福するかのように光る。電気じゃないはずだから魔法なのだろうか。
「偶然だよ」
カンガルーの言葉にそう返すが、内心は喜びに溢れている。
〜〜〜気持ちいい!
狙ったところに入るのすんごい気持ちいい!
魔法で祝福してくれるのも快感が増すし、ダーツって意外と楽しい。
結果は73点だったし、結構イイんじゃないか?
この調子でカンガルーには勝ちたいなぁ。
………………
…………
……
全部投げ切って順位はアルジェが1位、カンガルーが2位で僕が最下位だった。
カンガルーとは結構接戦だったのでかなり悔しい。
調子が良かったのは最初だけで、ブルもあれ以降1回も出せなかったから悔しいな。
アルジェとは150点以上も差がついているから悔しいとかもない。アルジェ上手いな。
「次はクリケット。チーム戦でもいかがですか?僕が1人でいいんで」
「おっ、アルジェ俺っちたちのこと舐めてるね?よっしゃ、トワっち俺っちたちの絆見せてやろうぜ!!」
「負けたわ。投降しよう」
「ちょっと!?」
その後、だいたい2時間くらいかな、ダーツを続けた僕たちは次のところに移動した。
ボウリングだ。
これならやったことあるし、ルールも覚えているからアルジェにも勝てるかもしれない。
あ、だけど点数を数えないといけないのか。機会がやってくれるわけでもないし。
「僕がみんなの分も数えますよ。そこまで面倒なことではないので」
アルジェは優しいなぁ。
カンガルーは投げる時以外寝てるのに。
まあ、僕も何もやってないんだけど。
ちなみに点数はアルジェが162、僕が102、カンガルーが77だった。
アルジェがレベチ過ぎる。
その後は魔法ありでボウリング。
施設を壊さない限りはなんでもやっていいようでストライク連発である。
カンガルーの『火球』を止めるのには苦労したけどな。
その後はポーカーなんかもやった。
もちろん賭けてないよ。
本当だよ。
そのあとは…………
「今日はありがとうございました!久しぶりに楽しい休日になりました」
「いや、お礼を言うのはこっちだよ。誘ってくれてありがとう。次はダーツもボウリングも勝つからな」
「ハハッ、それなら練習しておかないといけませんね」




