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始まりを刻む  作者: 桶満修一
第1章 超能力者の異世界転移
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2話 同郷との出会い

 僕らは町の小さな病院に2人でいた。

 病院と言っても大仰な機械があるわけでも、薬があるわけでもない。あるのは包帯や簡素な塗り薬みたいなもので、大けがが治せるような施設ではないのだろう。

 いや、それも仕方ないのかもしれないな。

 なんと言ってもここは、僕が昨日までいたところとは違うのだから。


 「それで、ここは本当に地球じゃないのか?」

 「うん、マジだよ。本気と書いてマジって読むぐらいには」


 そう、ここは地球ではない。

 いわゆる異世界だったのだ。

 簡単には理解できない事なのだが、実際に不可思議なことが立て続けに起こっているのだから信じるしかないだろう。

 朝起きたら知らないところにいると思えば、その数分後には野生のオオカミによって殺されかける。そうしていると通りすがりの少女が火の玉を放って助けるなど、小説にもならない理解不能の連続だ。


 「君だって異世界小説とかは知ってるでしょ?それのイメージで大丈夫だよ。剣と魔法の世界、ディポニーにようこそ」

 「そんな危険な世界来たくなかったんだけど」


 ディポニーというのは世界の名前らしい。訳の分からない名前だが、誰が名付けたのかと聞いても答えは返ってこないだろうな。Earthがどうやって名付けられたのかなんて知らないし。

 ここ、ディポニーは完璧なまでに地球と似通っていた。

 息をするのに苦労がないことから空気中に含まれる酸素濃度は変わりないのだろうし、太陽も月も1つだから重力も変わらずあるのだろう。

 違うのは1つ、魔法があること。


 「うん、ここで出来る治療は終わったし移動しよっか。あんまり人に聞かれたくない話だし」

 

 そう言って病院を出た僕たちはリーティアが借りている宿屋に向かっていた。

 未だに左腕は言うことを聞かないが、興奮しているからか痛みは感じない。それが良いことかは分からないが、とにかく考えに邪魔が入らないことはいいことなのかもしれないな。

 というか、魔法があるのだったら魔法できれいに直してほしいのだが、それは過ぎた願いなのだろうか。


 「あ、女将さん。この子ちょっと怪我しちゃってるんだ。部屋で治療したいから少し連れ込むからね」

 「はいよ。あんまりうるさくしないでくれよ」

 「?うん」


 そう女将さんに言うと階段を上って1つの部屋に入った。

 簡素なもので、ベッドが1つに小さなテーブルがあるだけで本当に生活に必要なものしかないという感じだ。


 「さて、さっきの続きだけどその前に自己紹介かな。なんだかんだ出来てなかったからね。私の名前はリーティア。リーティア・ファグナン。リーティアって呼んでくれていいからね。君はなんていうの?」

 「僕は星見永遠。知っての通り日本人だ。今日の朝気づいたらここにいたんだ」

 「なるほどね~」


 リーティアは短く相槌を打つと僕に分かるようにゆっくりとこの世界の説明を再度始めた。


 「さっきも言ったけど、この世界はトワ君がいた地球とはまったく違う異世界だよ。1番の違いは魔法があるってこと。空気に含まれている魔素ってものと私たちが持っている魔素を使って、こっちの人たちは魔法が使えるんだ。そして、魔素が原因かは分からないけど、魔物っていう地球にはいない狂暴な動物がいるの。ウルフみたいに地球と形が似ているヤツもいるけど、ゲームに出てくるみたいな大きな魔物とかもいるから注意してね」


 魔法か。

 リーティアがさっき撃った炎の弾もその魔法の一種なのだろうか。

 彼女が言うように、この世界には魔物がいるのだから自衛のために魔法が使えるようにならなければいけないな。


 「ちなみにリーティアはどうして地球のことを知っているんだ?日本人にも見えないし、もしかして…………」

 「そう、私はトワ君とは違って転生してるんだ。トラックに撥ねられてもう瞬殺よ」

 「リーティアみたいなやつはいるのか?地球にいた頃の記憶を持っているというか、転生したやつは」

 「うーん。いないんじゃないかなぁ。正直いても分からないんだけど、いたらもう少し住みやすくなっていると思うし」


 ああ、たしかに、と納得する。

 この世界、この宿屋に来るときも思ったが文化が地球よりも相当遅れているのだ。

 中世のヨーロッパ程度で建築物は基本的に木製か石。道も整備されていないところがほとんどだし、なにより町のすぐ隣に鬱蒼とした森があるのが気になる。

 たくさんの地球人がいたらそこらへんは改善されているのかもしれない。

 

 「私も訊きたいんだけどさ、さっきトワ君超能力って言わなかった?もしかして、使えるの?」


 うん?言ってしまったか?

 迂闊だったか。いや、あの時は死に瀕していたし、仕方がなかった面もあるかもしれないな。

 それに、リーティアにだったら言ってもいいかもしれない。

 こんな世界だし、それに何より僕を助けてくれた命の恩人だ。

 隠し事も、気持ちが悪い。

 そう思い、僕が持っていた力とそしてそれの現状を事細かに伝えた。

 人と話してこなかった人生だから説明は長くなってしまったが、リーティアもゆっくりと聞いてくれてやっとのことで話しきることが出来た。


 「つまり、地球にいたころは使えたけど今はなぜだか使えないんだ。でもいいなー。超能力なんて使えたらサイキョーじゃん。なろう系主人公も真っ青のサイキョーぶりじゃん」

 「さすがになろう系の主人公を張るには力不足だろ」


 リーティアは僕が超能力を使えたと言ってもあまり驚いていない様子だった。

 信じていないのかもしれないが、あまりそういう風には見えない。

 魔法がある世界だから、そっち系の話を信じやすいのかもしれないな。


 「それで頼みたいことがあるんだが、いいか?」

 「内容によるけど、いいよ~」

 「超能力が今使えないのは分かってもらえたと思う。だから、魔法を教えてほしいんだ。さっきみたいなオオカミが出てきたら今の僕では逃げることも出来ない。筋肉なんて普通の男子高校生よりもないからな。もちろん、簡単じゃないことも分かる。だけど、たのむ!」


 僕の頼みを聞いたリーティアはなんだか形容しがたい顔をした後に申し訳なさそうな感情を覗かせていた。

 やはり厳しいのだろうか。

 彼女には彼女のやることがあるだろうし、魔法を教えるというのは字面だけでも難しそうだ。それに何より僕たちはまだ出会って1日と経っていない他人なのだ。そんな面倒を見てくれる義理は、正直ない。

 しかし、僕の予想とは反対に彼女の応えは意外なものだった。


 「いやー、いつ言おうか悩んでたんだけど…………、この際だから言っちゃうね」


 言い淀んでいたが、覚悟を決めて言いにくそうに苦笑いをしながら答えた。



 「トワ君は魔法は使えません。ドンマイ」



 「は?」


 リーティアの言っている意味が最初訳が分からなかった。どうして魔法が当然となっている世界で僕だけが魔法が使えないように設定されているのか、説明が欲しかった。

 こんなメルヘンな世界に来て、それで自分だけが取り残されるかもしれないという絶望的な現実を受け止めきれなかった。

 どうして僕だけが。


 「魔法を使うのには魔素を操る必要があるんだ。それで、この世界の人たちはみんな少なからず魔素を持ってるんだけど、トワ君は全く持ってないみたいなの。私には分かる。ていうか、少し腕の立つ人だったら分かる。とゆーことで、魔法を使うのは無理かも」


 詰んだ。

 いいや、後になって考えてみれば当然なのかもしれない。

 地球から来た僕が魔法を使えないというのは、いわば当然なことだったのかもしれないが、それでも与えられた状況に納得がいかなかった。


 その時の僕の気持ちはそう表現するのが最適だっただろう。

 だって、そうだろう?

 魔法の世界で魔法も使えない。超能力も使えない。

 チートをくれとは言わないが、せめて普通ぐらいはくれよと嘆いたよ。

 

 「ま、まあそう落ち込まないで。私もどうにかならないか考えておくからさ。とりあえず、これからどうするかを決めないと。そうでしょ?」

 「あ、ああ。そうだな」


 リーティアに言われてハッとする。

 たしかにこれからどうしようか、まったく考えていなかった。命が助かったことで安堵していたのもあるのかもしれないが、自分のことながら注意が向かないヤツである。

 仕事もなければお金もない。そんでもってこの危険な世界を生き抜く力もない。こんなないものだらけで生きていけるのだろうか。

 働くにしてもどうやって働けばいいのか…………。

 就活がこんなにも早く来るなんて。


 「う~ん、少し考えたんだけどしばらくは私が養ってあげるよ。それなりに蓄えもあるしまあ、なんとかなるんじゃない?」

 「…………いいのか?こんなことを言うのもアレだが、なんも返せるものなんてないぞ」

 「いいよ。同郷の好みっていうのもあるし、これでほっぽりだすのは人間的にどうなのかなって思うしね」


 マジか。

 リーティアが助けてくれるのは期待しないでもなかったが、養うまでしてくれるとは思っていなかった。

 なんか申し訳ないな。

 ん?蓄えがあるって言ったけど、何の仕事をしているんだ?まだ若いのにどうやって稼いでいるのだろうか。クラウドファンディングかな?


 「ハンターだよ。魔物を狩る仕事でこれでも上から3番目のCランクハンターなんだから。命を賭ける仕事だけどどうってことないよ」

 

 あんまり凄さが分からないが、結構すごいことなのかも。

 でも命を賭ける仕事をするって言うのは尊敬に値する。あんな怖い魔物を相手にしているなんて考えられないから、僕がその仕事をするのは絶対にないだろうがな。


 「それで私がお仕事に行っている間はトワ君にもついてきてほしいんだよね」

 「は?なんで?」

 「そりゃ宿が危険だからでしょ」


 宿が危険ってどういうことだよ。

 まさかここは『宿』っていう名前のダンジョンだったりする?

 実はもうダンジョンの中にいるとか考えたくもないんだけど。


 「この世界ってかなり治安が悪くてね。力がないやつが一人でいるなんてしれたらすぐに襲われちゃうから。だから私が守ってあげられるところにいた方がいいんじゃないかなって思ってね。大丈夫、トワ君のことは私が守ってあげるから」


 ヤダ、カッコいい。

 なんかリーティアが聖母に見えてきた。

 早く一人で生きていける力を付けて彼女の力になりたいと思わせられる。


 「とりあえず今日はもう寝ようか。いろいろあって疲れたでしょ」


 窓の外はもう真っ暗だった。

 この部屋には時計がないから分からないが、おそらくはもう7時は過ぎているだろう。

 地球にいたころはこんなに早く寝ることなんてなかったが、こっちの世界はやることが少ないから早く寝る人が多いのだろう。

 僕自身も血を多く流したからか強烈な眠気を感じていた。


 「もう一つ部屋を借りるのはさすがにできないからこの部屋で一緒に寝るけど、襲っちゃダメだよ、ボ・ウ・ヤ」

 「フッ(苦笑)」

 「その反応は違うんだよなぁ!」


 そんなプロレスをした後、僕はすぐに睡魔にさらわれた。


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