19話 リーティアの過去
体験入学という形ではあるが、生徒としてエディス魔法学校に入ることになった僕たちは3年生に配属された。
エディス魔法学校は単位制であり、1年生から6年生までそれぞれの単位を取得した者が進級、卒業が可能になる。
1年生は文字の読み書き、2年生は初級魔法の習得、3年生は実戦の中での魔法とゴブリン実習、4年生は中級魔法の習得かつオーク実習、5年生は魔法文字の読み書き、そして6年生が上級魔法の習得または魔法の開発である。
かなり細かいルールだが、これがみんな公平に強くなれるのだと。
現在僕とリーティアはどちらも初級魔法である『火球』を習得しているため3年生からのスタートである。
「ゴブリンだったら私たち倒せるのにねー」
「学校からしたら僕たちが本当に倒せるか分からないから仕方ないだろ。ほら、さっさと行こうぜ」
入学手続きが完了した3日後にはゴブリンの頭を抱えて4年生に進級………と思っていたのだが、どうやら進級するには初級魔法を最低2つは覚えなくてはいけないらしく、僕たちはそこで止まっていた。
僕もリーティアも魔法は『火球』しか使えないので新しく覚える必要があるのだが、1年出来なかったことが出来るだろうか。
授業のある時間に教室に赴く。
地球の大学のように授業はたくさんある教室のそれぞれで行われており、出たい授業の時間に指定の教室に行けば受けれるようになっている。
教室に入りしばらくすると授業が始まる。
初級魔法は簡単ゆえに無数にあり、各々が好きなものを学べばいいと教師は言い黒板にいくつかの魔法陣をえがいた。
『火球』『水柱』『土槍』『風刃』『氷弾』などである。
初級魔法は無数にあるが、使いやすのはこの辺りだと言う。
「トワ君は何を覚えたい?」
「うーん、僕は『土槍』かなぁ。依頼の時毎回肉を焼いてしまっているからな。そう言うリーティアは何かやりたいのあるのか?」
「私はなーんにもない!簡単なのがいいんだけど、どうしよっかなぁ。『水柱』とかにしようかな、凪とか使えるようにならないかな!」
「判断が遅いリーティアじゃ無理だろ?」
とりあえず僕は『土槍』リーティアは『水柱』をやることになった。
とは言ってもやはり、魔素がうまく動かせないので魔法陣を作るのがうまく出来ない。地球にいた頃のようにサイコキネシスを使っているのだがどうしても魔素というものを想像しづらくて魔法陣を描くまでいけない。
「魔素を動かせないのならば大まかに空間ごと動かすように意識すればどうですか?」
「え?」
魔法に苦労していると後ろから声をかけられた。
振り返るとこの授業の先生が立っていてにこやかに「どうぞ、やってみて?」と言うので、謎に緊張しながら言われた通りにやってみる。
えっと、空間ごと動かすイメージ、空間ごと動かすイメージ………
「わっ!出来た!」
これまで全く反応のなかった魔素が簡単に、とは言えないまでもかなり動かせる!
これだけ出来れば魔法陣も描けるんじゃないか?
「ありがとうございます。えっと……」
「アインス・セカンダリアと申します。出来るようになったら試験を受けてくださいね」
アインス先生はそう微笑むと別の生徒のところに行ってアドバイスを与えに行った。
かなり核心を突いたアドバイスらしく魔法に造詣が深いことが伺える。
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……………………
……………
「『土槍』」
詠唱が完了するとともに床から槍の形をした土が形成され、模擬用の人形に突き刺さる。
アインス先生にそう助言してからだいたい30分くらい経ったころ、僕の目の前には魔法陣が揺蕩っていた。
正真正銘僕が描いた魔法陣は役目を終えると空気中に溶けるように消えていき、それがまた常識の埒外なことをしたのだと感じさせる。
「やっぱり魔法ってのは何度やっても感動するものだな」
地球では絶対に見られない光景を僕自身がやったのだと何度も実感しては、それをかみしめてしまう。
これもアインス先生のアドバイスのおかげだな。
「むー、出来ないなぁ」
ふと横を見るとリーティアが難しい顔をしながら必死に魔素を操作していた。
彼女の選んだ『水柱』はアインス先生が言うにはあまり難易度の高い魔法ではないのだが、彼女が得意とする『火球』と属性が反対なこともあってうまくいかないのだろう。
そもそも、リーティア自身、魔法はあまり得意ではないと公言しており、魔物との戦いでもほとんど使っていない。
「なあ、少し聞いていいか?」
「ん?なあに、トワ君?」
「いや、リーティアが最初に『火球』を覚えたときってどういうときなのかなって思ってな」
本当に些細なことだが、魔法の苦手な彼女がどうやって最初に習得したのかが気になったのだ。
それを知れれば今後の魔法習得のカギになるかもしれないしな。
「魔法を最初に覚えたときぃ?…………………あ、あの時かな」
彼女は斜め上を向いて思い出すかのように語りだした。
あれはまだ私がハンターになる前の時だね。
6歳……いや5歳の時だ。
私の故郷は小さい村でね、遊び相手なんてだーれもいなかったの。
だからその日も一人で村のはずれを歩いていたんだ。
太陽が真上に来た時、私の運命を変える相手に出会ったの。
一体のゴブリンキング。
普通のゴブリンよりも体は大きくて獰猛で頭もいい。
5歳の少女が敵う相手じゃなかった。
私は逃げたわ。逃げて逃げて逃げて、そして足に痛みが走って転んだ。
見るとふくらはぎに石の弓矢が刺さってた。ほら見て、今でも痕が残ってるでしょ。
痛みと恐怖で目からは涙が溢れて、神様を恨んだ。どうして今世でもこんな仕打ちをするんだってね。
そうしている間にもゴブリンキングはゆっくりと寄ってくる。
私の記憶の中では舌なめずりをしていたけど、気のせいだよね。
1歩、2歩、3歩。
確実に近づいてくる死に口はカタカタと制御が効かなくて、それを見てまたアイツは興奮したみたいに顔を歪めたの。
もう私まで3メートルもないってとき、アイツは我慢できなくなって飛び掛かってきた。
口元をよだれで汚し、若い肉を貪り食おうとしたアイツの顔に全身の毛が逆立った。
いえ、それは毛じゃなかった。
全身を巡る魔素の動きに身体が反応していたの。
反射のように手を突き出し、どこで習ったかも分からない魔法陣が勝手に描かれた。
「火球」
私のじゃないみたいな声が虚空に消えて、同時に発射された火焔を纏った球は卑しい魔物を屠った。
しばらくは何が起こったのか分からなくて茫然としていたけど、正気に戻った後は泣きながら家に帰ったわ。
それからはまるで最初から知っていたかのように『火球』だけは使えるようになったわ。ああいうのを極限状態って言うのかしらね。
まあ、あれからはもう絶対にあんなことが起こらないように強くなろうと決心したわ。
身体を鍛えて、戦闘を学んで、ハンターになった。
それでも、あれ以降魔法は何一つ覚えられてないんだけどね。
「はい、これが私の魔法の覚え方。どう?参考になった?」
なるわけがない。
この世界にきて数年で、しかも体もまともに動かせない5才のときにそんな目にあっていたのか。
そして死に近づいたことで魔法が使えるようになった、と。
僕が『火球』を使えるようになった時と似ているな。
「今日も同じく魔法は使えそうにありませんなぁ。ってことで、トワ君!1つ提案があるんだけど、いいかな?」
「……嫌な予感がするんだけど」
「だいじょぶだいじょぶ」
「おっ、トワさんにリーティアさん。試験を受けますか?」
「はい、おねがいします………」
リーティアからの提案に顔を歪めてしまっているが、どうしても直らない。
幸い、アインス先生も気にしていなそうだからいいか。
「では、まずは僕から。……………『土槍』!」
練習の時と同じく槍の形をした土は人形を串刺しにする。
「素晴らしい!よく出来ましたね。足止めのこの魔法を実践でもこれほどのレベルで出来れば、そうそう死ぬことはないでしょう」
ふぅ、よかった。
これで不合格だったら計画が頓挫してしまうしな。
「それでは次はリーティアさんですね。貴女はたしか『水柱』でしたっけ?」
「ううん、『土槍』にしたんだ。『水柱』はうまくいかなかったからね、大丈夫?」
「ええ、もちろんです」
ああ、本当にやるんだな。
まいっか。
「それではいきます!むむむむむ………『土槍』!!!」
彼女の詠唱が完了すると地面から先ほどと同じ槍が出てきて、人形も同じように串刺しになった。
「はい、いいでしょう。よくがんばりましたね」
「やった!ありがとうございました!」
なんとか終わったか。
「いや〜、なんとかなるもんだね」
「ほんとにな」
僕たちがやったことは単純だ。
リーティアが魔法を撃つ順番になった時に僕が後ろで魔法を行使しただけ。
もちろんそれではリーティアの目の前に魔法陣は映らないが、それは火球の魔法陣で代用した。魔法陣はほとんど同じ模様だしバレないだろうと考えた。
まあ、アインス先生にはバレていたかもしれないけど、合格にしてくれたってことは許してくれたのかな。
もともとリーティアは剣を振る前衛職だし、魔法はあまり求めていないし許してくれたのかな。
ワンチャンここでリーちゃんの初物が散らされていたかもしれないね。




