18話 勉学から離れるのは不可能なようです
危ないところだった。
僕がオークが死んだことを確認しなかったばっかりに仲間を危険に晒してしまった。
彼女の一閃があと一瞬遅ければ、少なくとも1人は絶命し、最悪の場合みんな学校には帰れてなかったかもしれない。
「あのっ、ありがとうございます。何かお礼を……」
「お礼?いいよ、別に。それより聞きたいんだけど、その服ってなんなの?そのおそろっちの服」
彼女は僕たちの服を指差して顔を傾ける。
有名だと思ってたけど知らないのか?
「これは僕たちが通ってるエディス魔法学校の制服です。ゴブリン実習で初めてこの森に来たのですがオークに襲われてしまって……」
「エディス魔法学校…………。ああ!この町にある学校かぁ。そっかぁ、そこの生徒だったんだ。災難だったねー。あっ、自己紹介がまだだったね。私はリーティア、Bランクのハンターだよ。それで、こっちが……」
「ホシミ・トワだ。よろしくな」
リーティアさんに、トワさん。
リーティアさんの方からは途方もない魔力を感じるけど、トワさんからは何も感じない。
何か事情があるのかなぁ。
「僕の名前はアルジェルト・ファンタです。どうぞアルジェとお呼びください。ほら、キミたちも自己紹介して」
「えっと……、私はユナ・アーベンロート………です」
「俺っちはカンガル・オストレア。よろしくねー」
2人は僕たちの名前を聞いて笑顔でうんうんと頷くと森を出るまで付き添うと言ってくれた。
僕たちの魔力がもうほとんどないことに気づいているのだろう。この状態で襲われれば相手が誰であっても苦戦は免れないだろう。
それだけに、ありがたい。
「是非、お願いします」
やっぱり何かお礼をしたいなぁ。
一行が森を出てエディスの街に戻ったのは4時間後であった。
特に魔物に遭遇することはなかったが、ユナが魔素欠乏になりつつあったことや単純に体力の限界が近かったこともあって少し時間がかかってしまった。
生徒たちはゴブリンを倒した証拠を学校に持って行かなくてはならなかったために、そこで別れようとしていたが、アルジェルトが
「僕たちの学校に来てみませんか?」
と誘ったため一緒に付いていくことになった。
エディス魔法学校。
魔法を専門としたこの巨大な学校は生徒数3000人を誇る大陸一のマンモス校だ。
コリプラン国の宮廷魔導士さえも教師として招くことが出来るほどの、かなり有意義な授業を受けれる学校は少ない。
入学する条件は2つ、金とやる気だ。
それさえあれば身分など関係なく誰でも入学が可能となっている。
「ここが僕たちが通うエディス魔法学校です!」
アルジェルトが腕を大きく振って彼の学校を紹介する。
学校と言うよりも城と言った方が正しいのではないかと思わせるほど大きな魔法学校にトワたちは圧倒された。
圧倒されているトワたちを放ってアルジェルトたちはずかずかと学校内に入っていく。
しばらく経つと1つの教室に入った。
「リサーナ先生、ゴブリン倒してきました」
その言葉に一人の女性が立ち上がってこちらにやってきた。
どうやらここは職員室のようなものらしい。
「おつかれ、アルジェ君。ユナもカンガルもちゃんとできた?」
「一応…………」
「もっちろん。俺っちのおかげで勝てたからね」
「たしかに少し焦げてるわね………」
麻袋に入っていたゴブリンの耳を確認して「アルジェルト班合格。よくやったわ」と言うと、ずっと気になっていたように後ろのトワたちに目を合わせて問うた。
「それで、後ろの君たちは誰なのかな?生徒以外はあまり入ってきてほしくないのだが」
「こちらはリーティアさんとトワさんです。僕らがオークに襲われた時に助けてくれたので、何かお礼をと思ってついてきてもらいました」
「オーク!?冗談だろう?」
信用出来ていないのか、はたまたオークの奇襲を信じたくないのか懐疑的な目のリサーナであったが、アルジェルトの細かい説明を聞いて顔が青くなった。
「………ということがあったんですよ」
「………………そうか、とりあえず無事で何よりだよ。君たちもアルジェたちを救ってくれてありがとう。さっきは失礼な態度をとってしまってすまなかったな」
「いやー気にしなくていいよ。ぐーぜん見かけただけだし」
リーティアは手をブンブンと振って笑顔で応えるが、リサーナはそれで済ます気はなさそうだ。
彼女からしてみれば大切な生徒たちの命を救ってくれた恩人なのだ。「はい、さようなら」とするには良心が許してくれないのだろう。
「といっても君たちにしてあげることが全く思いつかないし………」
「だから大丈夫━━━━」
「ハッ!そうだ!」
リサーナがいきなり目をかっ開いて大声をあげるので、制止しようとしていたリーティアもトワも驚き固まる。
一同が彼女の口から発せられる言葉を待つ奇妙な静寂が訪れ、やがて答えが部屋全体に響く。
「体験入学しないか?」
ーーーートワ視点ーーーー
リサーナ先生の発言にみんなが驚いて何も言えないでいるなか、彼女はそんなことは知らないと言わんばかりに続ける。
「2ヶ月間の体験入学だったら無料で授業を受けられるし、すぐに手続きも出来る。実際に入学するとなれば私の権力じゃどうにも出来ないが、体験入学だったら明日からでも始められるぞ。どうする?」
「………」
………いかん、固まっている場合じゃない。
体験入学か、この魔法学校に。
「ハンターと言っていたが魔法が出来るに越したことはないんじゃないか?君たちはどのくらい使えるんだい?」
「……2人とも初級がやっとです」
「それならば3年からだな。いやー、楽しみだ」
止める間もないほどに早く話が決まっていく。
リサーナ先生のなかではもう決定事項のようになっているな。
僕たちが入った時のことを夢想しているのだろう。
魔法学校か。
簡単な魔法から難しい魔法まで教えてくれる学校で、この大陸、いや世界一と言われるくらいに大きくて立派な学校。
それくらいしか知らないが、学校内に入ってここまで来るだけで色々なものが見えた。
大きな図書館に魔法を使う用の決闘場。保健室だったり体育館のようなものまで見かけた。噂がただの噂ではないということを裏付けられた。
たしかに入ってみて授業を受けてみたいという気持ちはある。
しかし、僕には世界を変えるという目標がある。
死ぬことを美としている世界を変えるという目標が。
だからここで回り道している暇なんて………ない。
「すみません、リサーナ先生。せっかくですが━━━━」
「トワ君」
不意に横からかけられた声に振り向く。
横を向くとリーティアが笑顔で話しかけていた。
心の靄を晴らすような笑顔で。
「好きなことをしていいんだよ。トワ君がやりたいこと、気になること、心が逸ること全部やってみればいい。私はついていくからさ」
「………」
「それに、トワ君弱っちいから強くなってほしいし」
「うっせぇ。そんなに言うんなら強くなってやるよ。リサーナ先生、いいですか?」
「もっちろん。存分に青春したまえ、私の生徒よ」




