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始まりを刻む  作者: 桶満修一
第3章 魔法学校編
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17話 出逢い

 「来たわ!海―――!!!」


 エディスについた翌日、1カ月の旅路をものともしないリーティアに誘われ、僕たちは透き通るほどの美しい海に来ていた。

 リーティアが着ているのは、白色を基調とした胸元が強調されているビキニである。普段の服は地球と比べるとお粗末としか言えないが、なぜか水着に関してだけは遜色ない程度の出来なのである。


 「なんでだよ・・・」

 「細かいこと気にしてたらハゲちゃうよ。楽しめるんだからいいじゃん」


 そして水着だけではなく、ご丁寧にボールや浮き輪までもが完備されている。これらはとても軽い木材で作られており、水上で使っても問題のないようにできている。

 

 「いや~晴れてよかったわね。私たち以外の人もたくさんいるわね」


 天気は快晴、波も穏やかで海で遊ぶには最適な日であり、海はすでに多くの者でにぎわっている。

 その中には、リーティアよりも胸が豊かな者、色気のある者など様々だ。


 「こら!トワ君!私以外の女を見ないでよね!プンプン!」

 「他の女を見てないしお前もよく見てない」

 「それは見てよ!こんなかわいい子が隣にいるのに」


 体をくねらせながらトワの視界に入ろうとするが、顔と体の両方で意地でも見ようとしないトワ。そんな攻防がいくらか続いたが、飽きたリーティアが海の方へ駆けていく。

 その手には浮き輪とボールを持ち、振り返りトワに呼びかける。


 「早く来てーー」

 「………はぁ、分かったからあんまりうるさくするな。目立つだろ」


 海へ向かって一直線で駆けていったリーティアであったが海に入る直前で少し止まる。未知のものを前にしり込みしつつも、好奇心を抑えきれずにそっと足を浸す。

 ひんやりとした感覚が彼女の足を襲うも、それが癖になり深いところまで走っていく。


 「海気持ちーーー!!!」


 一つ大声を上げると、縛っていたものが解き放たれたかのように高揚する。

 笑いながら海の中を駆け回るリーティアをジト目でトワが追っていく。

 もちろんトワもきれいな海を前にテンションが少しばかり上がっている。トワ自身は地球のときに何度か海を体験したことがあるが、その時見たものよりも美しいのが原因だろう。

 やはり環境の状態がいいのだろうかと推測しながら


 「待てよリーティア。一緒に遊びたいんだろう」

 「あはは、遅いよートワくーん」


 リーティアに追いつき海へ入ると、木製のボールが飛んできた。

 海に入った2人はボールで楽し気に遊び始める。


 「まるで私たちカップルみたいじゃない?ラブラブな」

 「は?」

 「ぶっ」


 返答とともにかなり強めのボールが返され顔面に直撃する。身体強化を使って投げたのだから威力は言うに及ばず、リーティアの顔面は赤くはれていた。

 ボールを拾ったリーティアはお返しとばかりに投げ返す。

 そうしてしばし付き合いたてのカップルのようなひと時を過ごす。(威力に関しては無視することにして)


 「よーし、次はアレやるわよ。サーフィン!!」

 「ボードないだろ」

 「ここにあります!!」

 「あんのかよ!てか今どこから出した!?」


 どこからともなくサーフィンボードを取り出したリーティアは、トワのツッコみを気にすることなく海の深い方へ向かっていく。

 リーティアが行くと待っていたかのように大きな波が押し寄せる。

 その波に狙いを定めてリーティアはボードを波につける。


 「ふおおおおおお!!」


 気の抜けた掛け声とともに大波の上でバランスをとる。その様に傍観していたトワはおおっと感嘆の声を上げ、それを見たリーティアはニヤっとドヤ顔を披露するが━━


 ━━━━その顔を保ったまま沈んでいく。


 その様子を見ていて「ははっ」と乾いた笑いをこぼすトワであったが、浮かんでこないリーティアに様子を変える。


 「おいおい、大丈夫か?」


 焦燥を顔に出しながらリーティアが沈んでいった場所に駆けていく。先ほどまで大勢いた人も今のトワの目には入らない。ブクブクという効果音とともに気泡が海面上に上ってきている。


 「なんで遊びで死にかけてんだよ!」


 水の中へ潜っていきリーティアを探す。水中で自由に動くことの出来ない彼女は海の深くへとその身体を沈ませていく。

 沈む彼女へトワは必死になって手を伸ばしその手を握る。

 引き上げ、陸に運んだ彼女は未だ目を開けない。

 呼吸をしていないかのように思えるリーティアを前にトワが考える選択肢は1つしかなかった。


 「悪いな━━」


 つぶやき、彼女の唇を見るトワ。水に濡れた唇は妙に色っぽく張りがあった。

 少年の唇と少女の唇が迫り、そして━━━━


 「━━━━お前………起きてるだろ」

 「………バレた?」


 ━━━━少女は既に目を覚ましことの顛末を見守っていたのだ。

 実際、引き上げられたときにはすでに意識は覚醒しており、すぐに声をかけようと思っていたのだ。しかし、トワの焦る姿と「もしかしたら・・・」という思惑がよぎり気を失っているふりを続けていた。


 「お前、ほんっとーに人が悪いぞ。もう二度とするなよ」

 「ねえねえ、何をしようとしてくれてたの?人工呼吸という名のキス?ねえねえキスなの?」

 「だ・ま・れ。頭突きだよ、頭突き。痛みで起こそうとしてたんだ」

 「本当のこと言っていいんだよ。なんなら今からでもしちゃう?」

 「うるさい。もう十分楽しんだだろ。帰るぞ。」


 トワが先導し、2人は帰っていく。

 彼の後ろに続く少女の頬がいつもとは少し異なることは誰にも気づかれることなく。

 

 


 「今日はお前のバカのせいで死にかけたからな、もう依頼はいいだろう。何かやりたいことあるか?・・・・ん?大丈夫か?様子が変だが。」

 「ふぇ?い、いやいや。全然なんともないよ。やりたいこと?え~と、か、買い物!買い物したいかな。ほら!海沿いだから売ってるの違いそうだから!!」

 「ほんとに大丈夫か?いつもより若干顔が熱を帯びている気がするが・・・?」

 「な、何でもないって言ってるでしょ!しつこいと嫌われちゃうよ!ほら!いいから行くよ!」


 トワの追及を勢いで回避しリーティアは歩き出す。その後ろ姿を見ながら首をかしげるトワだったが、考えても分からないと思ったのか気にするのを止めて後に続いて歩き出す。

 海辺を離れた2人はリーティアの提案通りに商店街に来ていた。半ば思い付きと誤魔化しで来たところであったが、実際に来てみると魔王の領地の近くという割には栄えており2人の興味をそそるものが多くあった。


 「見てみて、トワ君。シャークの尾ひれの干し物だって!おいしいのかな?」

 「地球で言うフカヒレだな。」

 「え?ほんと?買おうよ!安いじゃん!!」

 

 地球では幼いうちに死んだ故、地球の一般的な知識に疎いということを再度理解し(コイツじゃ内政チートとか食材チートとか不可能だったな。神様もこういうのを選んでんのかな?)などかなり失礼なことを考えるトワであった。


 「トワ君何か失礼なこと考えてない?」

 「いいや全く」

 「そう?それならいいのよ」


 どこかで聞いたことのある会話をする2人であった。

 リーティアのこういう時に勘のいいところを警戒するようにすることを心に刻みながら周囲を見渡すトワ。

 エディスの商店街には海に関連するものばかりでなくいろいろなものがあった。

 そのなかで2人の注意を引いたのは『憤怒煎餅』というものであった。


 「なあ、魔王って恐れられてるんじゃないのか?煽りまくってる商品が見えるんだが・・・」

 「やっぱり商人は強いってことね!売れるものだったら命ぐらい賭けるってことね!」


 なぜだか自慢げなリーティアを無視しトワはその商品に視線を向ける。魔王要素など欠片もなく、どこからどう見てもただの煎餅にしか見えない。「まあ、日本でもこんな感じのあったしな」など考え通り過ぎようとしたら、


 「おっ、にいちゃん。気になるかい?彼女さんの分も入れて2つどうだい?」


 その言葉にトワよりも先に、そして過剰に反応したのはその彼女━━リーティア━━出あった。


 「か、かか、彼女!?そ、そんなんじゃないから!敢えて言うとしたら養ってる人と養われてる人だから!ちな、私が前者ね」


 顔は赤く染め、小さな手を大げさなくらいに振って店員の言葉を否定する。そのあまりの否定ぶりに少したじろぐ煎餅屋のおっちゃんだったが、商売の機会は逃せないと思い会話を進める。

 

 「それじゃ、養ってるっちゅう偉い嬢ちゃん、エディスは初めてじゃろう?どうだい?土産に憤怒煎餅はどうだい?すこし塩辛くてうまいぞー」

 「それについてちょっと考えてたんだけど・・・。いくらなんでも命知らず過ぎない?すぐ近くにご本人様がいるんだよ?いくら商機だからといっても私でもすこし引くんだけど・・・」

 「なんだそんなことか。いいか、坊主に嬢ちゃん。世の中にはこんな言葉がある『バレなきゃ犯罪じゃない』ってのがな!!」

 「ダメなんじゃねえか!!てかその言葉どこで知った!!」


 這いよってきそうなニャルラトホテプが言ってそうな言葉で自身を正当化するおっちゃん。

つまり、バレたら命は覚悟しているととらえていいのだろうか、かなり勇気のある━━もしくは深く考えてない━━おっちゃんである。

 おっちゃんの命を賭けた商売に気圧され、このおっちゃんがバレないことを祈りつつ件の煎餅を2つほど買った。

 味は海苔煎餅にちかく、思ったよりもおいしかった。憤怒要素がないのはご愛敬である。


 その後商店街を端まで歩き、道中気になったものや興味をそそられたものをいくつか買い大いに買い物を楽しんだ。

 買い物が終わるころには日は半分ほどを隠し、月が出始めていた。依頼を受けるのが昼であるハンターという仕事柄この時間に帰ることは少なく、暗くなり始めた町の様子が変わっていっているということを感じられる。


 「なんか、夜の街って少し不気味な感じするわね。こう、なんというか、不思議な感じ。別に怖いってんじゃないんだけどね」

 「怖いんなら手つないで帰ってやろうか?」

 「怖くないって言っているでしょ!!」


 実際、暗くなってくると昼間には見えなかった強面の者が増えて来ているように思える。魔物という点でも、暗いと魔物が近づいてきているかの判断が難しく、自分よりも弱い魔物に殺されてしまうハンターが多いのだ。

 結局、意地を張ったリーティアがびくびくしながらもなんとか宿に戻ることが出来た。出迎えてくれると思っていたスイカは、今は厨房の方で手伝っているのか姿を見せることはなかった。スイカのことが気に入ったリーティアはそれが少し残念そうであった。


 その日は海や買い物で疲れたこともあってか、2人は布団に入ったすぐ後に寝てしまった。




 海に行った翌日、彼らはギルドに訪れていた。

 娯楽でリフレッシュしたことでハンターとしての仕事にもやる気が出ているのだろう。依頼板の目の前で依頼書と睨めっこしていた。

 せっかく新しいところに来たのだから目新しい依頼を受けたいと思うも、そういうものは人気なのか見当たらず、かといって何もやらないわけにもいかない。

 仕方なくいつも通りの『虚栄蜘蛛(ホーリースパイダー)』の依頼を受付に持っていく。

 帝王種が出ないというのだから精神的にはかなり楽である。


 狩場は東に行ったところの未開発の森である。

 どうやらコリプラン国の東側は人の手が入っていないところもあり、エディスから3時間もかからずに依頼を達成できるハンターにとってはありがたいところである。




 「トワ君!そっち1匹行った!足止めおねがい!」

 「了解」


 『虚栄蜘蛛』の討伐はものの数分で終わるも、トワの心にはしこりが残っていた。

 ここ数ヶ月ずっと感じていたことだが、トワにはリーティアと比べると圧倒的に力が足りていなかった。

 身体能力は向上したがそれで屈強な魔物を倒せるわけではなく、攻撃を避けるのが精一杯。頼みの綱の魔法も、今回のように素早い魔物や頑強な魔物では『火球(フラン)』では傷をつけることが出来ない。

 

 彼は自分がリーティアの足を引っ張っていると自覚していた。


 「よし、帰ろっか」


 そんな彼の心の内を知らずにリーティアは荷物をまとめて森をぐんぐんと進んでいく。

 もう半刻ほどで森を出られるときであっただろうか、森の中から戦闘音が聞こえて来た。

 いつも通りの戦闘音であれば気に留めなかっただろうが、今回は魔物の鳴き声と共に高い声の悲鳴も耳に響いた。


 「トワ君!」

 「分かってる」


 すぐに声の聞こえて来た方角へと走り出す2人。

 数秒もかからずに着いたその場所では右腕を失くし瀕死となったオークと、画一の服を着た子どもたちが何人かが戦闘を繰り広げていた。

 子どもたちの中にも血を滴らせている者もいるが、どれも大した怪我ではなくオークを圧倒していた。

 そして驚くべきことは、彼らが使っているものが………


 「風刃(エアスラッシュ)!」

 「土槍(アーススピア)!」

 「火球(フラン)!」


 この世界でもそう多くは使えない魔法であった。

 刃を模った風は魔物の肉を裂き、地面から生えた槍は腹部を突き刺す。そして、全身を走る痛みと長時間の戦闘による疲労で足を止めた魔物に絶死の炎の球が魔物の体躯を焼く。

 ぶくぶくと太ったオークの身体は皮膚が爛れ、次第に動かなくなった。


 「………!」


 自分と同じくらいの少年少女たちがオークを簡単に制圧する姿に、トワは驚き口を開くことができなかった。

 筋力という点では彼らと変わらないだろうが、魔法があるというただそれだけでオークほどの魔物を簡単に処理出来るのだ。

 一方、動かなくなったオークを確認した彼らはというと………


 「あ、危なかったぁ………」

 「俺っちの火球に感謝するんだな」

 「そのせいで証明部位はなくなっちゃったけどね。まあみんな無事だったからいっか」


 安堵のため息をついてどっと弛緩していた。

 生死をかけた戦いの後とは思えない気の緩みは戦いに慣れていないからか、それともこなし過ぎているのか。

 しかし、その気の緩みが生死を分ける。


 『オオオオォォ』


 彼らがその声に気づいたのは太い腕が振り下ろされる直前だった。

 もう拳を握ることも出来ないほど衰弱したオークが道連れと言わんばかりに静かに彼らに近づいていたのだ。

 「あっ」と声を漏らすももう遅い。

 この距離まで近づかれれば彼らが出来るのは歯を食いしばるだけで………。


 「ダメだよ、油断しちゃ。殺し切らないと」


 瞬間、鈍い銀色が眩く光りオークの頭が宙を舞う。

 魔物は今度こそ自身の死を知らせるように地面にズドーンと音を立ててピクリとも動かなくなる。

 首を飛ばした少女の後ろから少年が姿を現し何事か話している。



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