表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
始まりを刻む  作者: 桶満修一
第3章 魔法学校編
16/56

16話 エディスの街

 そこは青い街だった。

 最初に目に入るのは向こうの岸が見えないほどに広がる海。この時期には薄着で泳いでいる人が多く見られる。

 底まで見通せそうなほど美しい水面は爛々と降り注ぐ太陽を照らし返し、街並みは海を際立たせるように白い建物が並び建っている。

 コリプラン国首都エディス。

 この世界でもっとも魔法が発展した、そして死に近い美しい街であった。


 「ここがエディスか〜。めちゃくちゃキレイなところ!トワ君もそう思わない?」

 「あ、ああ。正直地球の方がキレイだと思ってたからびっくりだよ。やっぱり汚染とかがないからこんなに美しいのか?」


 2人が約1ヶ月かけて来たのはコリプラン国の首都エディス。

 海を有する国は多くあるが、この街ほど美しい海を眺められるところは地球を含めてもそう多くはないだろう。


 エディスの景色に驚きつつ2人はハンターギルドへと向かう。ハンターの基本である。


 チリンチリン


 ドアを開けると鈴の音が響き、それに応じるようにギルドの中にいたハンターたちが目を向けるもすぐに目を逸らす。

 反射的に何者が入ってきたのかを確認しているだけなのだが、新米のハンターなどはこれを威圧なのではないかと怯えてしまうのが面白いところである。

 今回の場合は入って来た2人が若かったために驚いている者もいたが、調子に乗ってハンター登録をしに来た子供だと、もしくは魔法学校生だと気に留めなかった。


 まっすぐと受付に向かい近辺の魔物情報や泊まれる宿、その他の注意事項などを聞き出す。

 ハンターにとっては1番の情報源であり、これを怠ってしまうと取り返しのつかない怪我のもとになってしまう場合がある。

 とくに今回の場合は新天地、海の近いところである。新しい魔物の影が潜んでいるかもしれないのだから警戒するのは当然なのだ。


 「ネチャル国から来られたんですね。お疲れ様です」


 ネチャル国とは2人が1ヶ月前までいたクリプン町の属す大国である。


 「魔物の観点でしたら異なるところはありませんので大丈夫ですよ。帝王種も現れることはないですしね」

 「帝王種がいない?どうして?」

 「少し下に行ったところに『憤怒魔王』がいますので魔物は恐れて近づかないのです。帝王種は知能があるからでしょうか、ここ数十年発見の報告はありませんよ」


 これにホッとしたのはトワである。

 過去に殺されかけたオークロードのような帝王種がいないということは、その分死に遠ざかるということであり、彼の臆病な性格にしてみれば幸運なことであった。

 しかし問題になるのは別にある。


 「その『憤怒魔王』にはお気をつけください。『魔王』に下手に接触してしまえば、被害はここら一帯では済まないかもしれませんから」

 「うーん、私は会ったことないから分かんないんだけど『魔王』ってそんなに強いの?同じ人間でしょ?」

 「私もよく分かりません。というより誰もよく分からないと思いますよ。『魔王』に遭遇して返って来た方なんて数人しかいませんし、その誰もが戦闘はしてないのですから。あっ、それと人間かと問われると微妙なところですね。もう何十年も生きてるという話ですし、昔は魔女なんて呼ばれていたらしいですよ」


 受付嬢も興が乗ったのか饒舌に話してくれる。

 話してまずい内容もないため何も問題はないのだが、ギルドの職員がこのように長いこと話すのは初めて見る。


 トワはというと、その魔女と呼ばれた『憤怒魔王』について考えを巡らしていた。

 魔女と呼ばれるくらいなのだから女なのだろうか。

 どうしてこの地に住み着いているのか。

 何が目的で力を振るうのか。

 叶うことならば直接聞いてみたいのだが、力の足りない今の彼では当の『魔王』と議論をすることも出来ない。

 日本にいる時でも同じことだ。

 求められる力が違うだけで、力のない者は話をすることも出来ない。


 「コホン。とりあえず、『魔王』には十分に気をつけてくださいね」


 すこし顔を赤らめながら咳払いをしてそう話を締めくくる。

 『魔王』に気をつけろという言葉には暗に「街にまで被害をだしてくれるなよ」という思いが込められているようにも感じられた。



 ギルドを出るとすでに陽が傾き、水面は橙色を反射していた。

 ギルドで聞いた宿に向かい扉を開けると元気のいい声が耳に響く。


 「いらっしゃいませ!」


 見るとカウンターからなんとか顔をだした幼女が笑顔で迎えていた。

 子どもを働かせるのに抵抗のない世界ではあるが、ここまで幼い子も珍しい。


 「わー!かわいい!お名前は?」

 「スイカです!何部屋お取りになりますか?」

 「とりあえず1部屋でいいかな。はい、前金」


 リーティアは袋から銀貨を何枚か取り出しカウンターに置く。

 1枚ずつ数え切ったスイカは「はい!」と返事をして部屋を指示する。


 「私たちの宿は壁が少々薄いので、大きな声は出さないでくださいね」

 「だいじょーぶ。礼儀の国日本出身だから」


 首を傾けるスイカを放ってリーティアは親指を立てて階段を登っていく。

 スイカが言ったのはそういうことではないだろうが、彼女はピンと来ていないようだ。

 幼女にも負ける性知識の疎さには若干の不安を感じる。

 まあ、彼女のそれについては今に始まったことではないが。


 「いやぁ、海キレイだったねぇ。明日にでも入りに行かない?」

 「今2月だぞ?確かに地球よりもかなりあったかいけど、それでも海で泳ぐには寒いんじゃないか?」

 「だいじょーぶ。ギルドの人が海水を温水にする魔法を使ってくれるから」


 本当にそんな魔法があるのなら驚きである。

 いや、海が目玉のエディスが名を落とさないためにそういう魔法があるのだろうか。

 まあ、それなら明日にでも海に行くのもいいかもな。


 「ほんと!?じゃあ、さっそく明日行こうよ」

 「晴れてたらな」

  「よーし。じゃあ、明日は私のセクシーでキュートな水着を見せてあげるからね!せいぜい悩殺されないように気を付けてね」

 「そんな貧相な身体じゃどう頑張っても無理だよ」

 「ライン超えたな!女の子に言っちゃいけない言葉第4位ぐらいだから!」

 「一位は?」

 「え?臭いとか?」


 リーティアは楽し気な表情を浮かべたままベッドにダイブし、そのまま眠ってしまった。1カ月の旅路で疲れていたのだろう。久しぶりのベッドの反発が気持ちよかったのだろう。

  隣で横になるトワも目を閉じてこの街の風景を思い出す。

 綺麗な海に大きな学校、美しい街並みは彼らの新しい生活が始まるような気がしてならなかった。

 これからに期待と少しばかりの不安を胸に眠りについた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ