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始まりを刻む  作者: 桶満修一
第2章 ハンターの仕事
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14話 魔法使いの戦い方


 炎の渦に包まれた王都を見守ることしかできなかったトワたちの前に、白髪の男は颯爽と現れた。

 男は自分を『六神天将』と名乗り、王都を襲う悪魔へと軽快に歩いていく。


 「本当に…………大丈夫なのか……………?」


 ルミアスの圧倒的な暴力を目の当たりにしているトワはついそのように心配の言葉を溢すが、それを青白い顔をしたリーティアが否定する。


 「ううん、大丈夫どころじゃないよ。リヴェラルの魔力量はルミアスを軽く凌駕するよ」


 トワには見えないものを見て、真面目な顔をしてそう言うリーティアの言葉すら半信半疑なトワであったが、彼のその感情はすぐに消え失せる。


 「まったく、僕がすこし留守にしてる間に来るなんて用意周到なんだから。『闇犬』ってのも侮れないね」


 リヴェラルは人差し指を立てて魔法陣を描いていく。

 その姿は美麗で華麗でまるで何でもないかのように1つの魔法が完成する。


 「消えろ。『反災害(アンチディザスター)』」


 彼の言葉に呼応して王都のあちこちで燃えていた炎は瞬く間に鎮火されていき、魔法が発動されて数秒でいつもの王都に戻っていた。

 自分の炎が消え失せ動揺したルミアスは辺りを見渡し、歩いてくるリヴェラルを見つけると緊張したような表情が露わになる。


 「………ーー!!………ーーー!!!」


 何か声を荒げているようだが、トワたちのところまでは声が届かない。

 距離が声を霧散させている…………否、この現象さえもリヴェラルの魔法が引き起こしていた。


 「静かにしなね。『虚無化(ホロウ)』」


 魔法の発動が分かったころにはすでに彼の術中だったのだろう。

 ルミアスの様子がおかしくなっていき、顔は赤くなり苦しそうにもがき始めていた。

 ほとんどの者がこれで脅威は取り除かれたと安堵し、事の成り行きを緩んだ空気で見守っていた。しかし相手は仮にも『闇犬』でーーー


 「そのままおとなしくしときなねー」


 リヴェラルがあと数歩でルミアスに触れられる距離まで近づいたとき、変化は生じる。

 もがき苦しんでいただけのルミアスが決死の表情で後ろに飛び逃げたのだ。

 ただ、それだけ。しかしその行動が彼女の生死を分けたのかもしれない。


 「終われない!!見ていてください!」


       「『浄化の炎』」


 詠唱の完了は彼女を中心に広がる金色の炎が知らせてくれた。触れるものをすべて溶かし尽くす金色の炎が。

 石でできた地面ですら溶解させ進む炎にリヴェラルも苦笑いで鎮火に走るも先ほどのように簡単に鎮火できるはずがなかった。


 「それでは俺はこれで失礼します。次こそは王都を塵にしてあげますから」

 「ちょっとまっーーー、うわっ」


 慇懃無礼に去っていくルミアスを追おうとするリヴェラルだが、それは彼女の魔法によって遮られ背中を見届けることしかできない。簡単には消えない金色の炎はリヴェラルの身体を這うように進み、苦悶の表情を浮かべる。

 このまま何もせずに逃がせばルミアスはすぐにでも王都をまた襲うだろう。抑止力としてリヴェラルがいるとしても、奇襲をかけてくる可能性は十分ある。

 そうなれば王都の者はこれからいつ来るかもしれない災害に怯える日々を過ごすだろう。

 そんなことは許されない、いや許してくれない者がいる。


 ――――グサッ――――


 誰もが再来する恐怖に怯え、動けなくなっている中、短剣が空を切って飛来する。

 数十メートルという距離を感じさせない速度と威力を以って飛来する短剣。

 安物の、しかし切れ味は抜群の短剣はルミアスの白い脇腹に見事に命中する。


 「いっーー、誰だよ乙女の腹にこんなことをするのは!」


 それに応えるのは未だ力のないトワ。

 近づくことは出来ないし、震えを止められない彼がそこにいた。


 「ああああ!マジでムカつく!次にお前見たら絶対に灰にしてやるからな!」


 そう言い残し、出血が止まらない腹を押さえながら煙の中に消えていく。

 回復手段が少ないこの世界では致命傷のはずなのに、彼女が力尽きるのが考えられないのは彼女の実力が原因なのだろうか。

 短剣を投げた少年、トワは力尽きたかのように座り込み震えている。

 彼自身、自分のしたことの命知らずさを今更ながらに実感しているのだろう。


 「いやー、助かったよ。あのまま逃がしたら大変なことになってたからね。結局逃げられちゃったけど、あの分だったら回復に相当時間はかかるだろうし、次の襲撃までの時間は稼げたかな」


 呆然としているトワのもとに怪我一つないリヴェラルがやってくる。

 いつのまにか金色の炎は消え失せており、王都には安全が戻ってきていた。


 「お礼もしたいし僕の家に来ないかい?」


 拒否する理由もなく、トワたちはその言葉の通りにリヴェラルの家へと招待されることとなった。








 「さっきは本当にありがとね。改めて、僕はリヴェラル・フィードルフォン。『六神天将』の1人にして今はノイスの守護を任されている。よろしくね」


 紅茶を配膳すると、リヴェラルはそう自己紹介をした。

 案内された家は思っていたよりも普通の家で、特に豪華であったり、コミックなどで見る魔導士特有の大窯などがあるわけでもなかった。


 「ははは、何を期待していたんだよ。魔導士って言ったって普通の人なんだぜ」

 「そうだよねー。あっ、私はリーティアでこっちがトワ君ね。助けてくれてありがとね。あのままだったらトワ君が死んじゃってたから」


 リーティアの言葉に罰の悪そうな顔をするトワだが、実際にリヴェラルが来なかったらルミアスに挑み、そして為す術もなく死んでいただろう。


 「勇敢なのはいいけど彼我の実力差は分かんないとダメだぜ。トワくん」

 「分かってたよ。分かった上で放っておけなかったんだよ。人がたくさん死ぬって思ったらじっとしてられなくて」

 「その割にはビビってたみたいだけど」

 「そりゃそうだろ。死ぬのは怖い。だけどそれが死を見過ごしていい理由にはならない」


 今でもルミアスのことを思い出したら震えが止まらない。 

 しかし、死ぬことの恐怖よりも自分の見つけた目標を、死が中心の世界を変えるという目標を失うことへの恐怖が強かった。

 これまで空っぽで生きてきたトワだからこその異常な行動理念であった。


 「…………そっか。変わってるね、君は」


 それだけ言うと紅茶を飲み干して遠い目をするリヴェラル。

 彼も何か思うことがあるのだろうか。しかし、それを知るには我々はこの人物を知らなすぎる。彼の信条も行動理念も。


 「それにしても『闇犬』にも困ったもんだよ。今のこの国はけっこうゴタゴタしてるって言うのに」


 話を変えるようにそう言うと、疲れた様にため息を吐く。

 目の前の人物がそのような姿を見せるのは意外だった。なんでも笑いながら何とかしそうなイメージがあったから。


 「あれ?なんかあったの?」

 「街の人たちに聞かなかった?1年前に貴族の一家が皆殺しにされる事件があってね。それ以降もちょくちょく貴族とか、あんまり大きな声で言えないけど王族も殺されちゃってるんだ。それの犯人捜しを命じられているから僕も忙しいんだよ」


 それを初対面のトワたちに言ってもいいものか。

 それとも有名な話になっているから隠す必要もないのかもしれないが、それにしてもフリーに話してくれるが、リヴェラルはそういう人間なのだろうか。


 「さて、僕はこれからやることがあるから相手できないけどゆっくりしていいからね。もしまたノイスにくる時は挨拶ぐらいしてね。あ、だけどその時にはノイスにいないかもしれないか」

 「あれ?別のとこ行っちゃうの?」

 「まあね。一つのところだけに留まってるわけにもいかないし、他の『六神天将』はみんな勝手なヤツばっかだからね。僕がしっかりしないといけないんだよ」


 実際『六神天将』には国が縛れない者が多く、実力はあるが操りにくい存在なのだ。

 なお、リヴェラルが一国に留まらないのは単純に防衛の観点からである。彼がノイスにいるというのは有名なことであり、それが知られれば他の国や地域が襲われてしまった場合、リヴェラルが対処できないという至極簡単な理由であった。


 「それじゃあ、力を付けるように。死なない為にも守るためにも、ね」

 

 リヴェラルがいなくなった後、トワたちは家主がいない家でじっとしているのがいたたまれなくなり、数刻としない間に帰路に就いた。

 

 「王都はけっこうボロボロになっちゃったね」

 「まあ、あんだけ強い敵が来たんだからこんぐらいで済んでよかったよね」


 周りを見ると王都の一画が溶けて通れなくなっている。

 魔法での建設物の修復はどうやら現在の魔法技術では不可能のようで、今回壊れた箇所はまた時間をかけて人力で直していくしかないようだ。

 この世界の魔法はやけに攻撃という面に重きを置いているようだ、と疑問を感じたトワだったが、「まあ、身近にあんだけバケモノがいたらそうなるわな」とすぐに納得した。

 

 「次来るときは直っていると良いけど」


 希望を込めてそう呟きを残してノイスを後にした。


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